第1章 17話
「さあ、二人とも、火星に着きましたよ!」
そうこう話していると、いつの間にか火星に着いてしまっていた。さすがに到着時刻が10分だと、少し話し込んだだけですぐに着いてしまう。
火星に着くまでに、長すぎたという感じが全くしなかった。感覚的に、近所に散歩に来たといった感じである。
よくよく考えてみれば、10分といえば電車で二駅程度だ。早くついて当然である。
アルテミスから到着を告げられると、勝彦は立ち上がって外の景色を眺めて見みた。すると、火星の赤い球体が、暗闇の中に浮かんでいる。地球の青色と違って、不思議な神秘さが醸し出されていた。
「おお、すごいじゃん!アルテミス、地球の時みたいに部屋全体をスクリーンにしてくれよ!」
勝彦は、アルテミスに地球の時のような見やすい状況をお願いした。どうしても、暗闇の中に浮かぶ火星を、もっとちゃんと見て見たかったからである。
「了解しました!」
すると、アルテミスの返事と共に、さっきまでレストランだった部屋が、何もない全面スクリーンの部屋に変わってしまった。
(大したもんだな・・・)
もはや、一瞬で部屋の様子が一変しても、特に勝彦は驚かなかった。
自分でお願いしたというのもあるけれど、転送技術で物事が一瞬で変わる事にもう慣れていたのである。
クー太達と一緒にいると、部屋が一瞬で変わる事や、物が消える事でいちいち驚いていられない。
そして、勝彦は宇宙空間に漂う一人の人間として、火星を静かに見下ろした。
「これが火星か・・・赤っぽいと思ったけど、よく見ると白茶色っぽいな・・・」
宇宙船は、ゆっくりと火星に近づいていく。近づいてから見てみると、地球のような海や雲は見当たらない。赤土の砂漠がどこまでも続いている。
さらに、火星の砂漠には黒っぽい部分と、白っぽい部分に分かれていて、それが、赤黒白と火星のコントラストとして際立っていた。
また、火星は雲がないせいか、地表ははっきり見えていて、ぼこぼことしたクレーターがよく見えている。(小さな雲は見えている)
「大気の影響もありますからね、実際は酸化鉄、つまり赤さびが含まれているから、赤く見えるらしいですよ」
と、クー太が横から疑問に答えてくれる。
「へー、ずいぶん詳しんだな」
「まあね、僕は地球が好きだったからね」
「勝彦殿、リリア様は地球に来る前、ずいぶん地球の事を勉強されていまいたよ。もちろん火星の事についても勉強されていました」
「もう、アルテミス!余計な事は言わないでよ!」
クー太はアルテミスに反論する。
しかし勝彦は、アルテミスがクー太の事を「リリア様」と、言っている事の方に違和感を感じていた。
(リリア様か・・・・当然か、もうこいつはクー太じゃないんだよな・・・)
勝彦はクー太の事をじっと見つめる。
(俺もリリアって呼ばないといけないのかな?)
「どうしたの?」
「いや、何でもない・・・・」
でも勝彦は、今更呼び方を変えるつもりはなかった。クー太って言いなれていたし、人の姿をしていてもクー太という感じがしたからだ。
それに、クー太自身もそう呼ばれるのを喜んでいるように見えた。
「へー、クー太はそんなに地球の事が好きだったのか?だったら地球に住めば・・・・」
と、ここまで言って勝彦は気づいてしまった。
後一年で地球は滅んでしまう事を・・・・。
本当は、何気に視線をそらすために話題を変えようと言った事が、結果的に裏目にでてしまった様だ。
二人の間に、何とも言えない気まずさがあたりに流れる。
ここで勝彦は、うかつな発言をしてしまった事を後悔したが、気持ちを切り替えて別の話のきっかけを作ろうと考えを巡らせる。
「こ、こうやって見ると、火星って、やっぱり地球よりも小さいな・・・」
「ん?・・・そうだね、質量は地球の10分の1ですからね」
クー太も勝彦に合わせて話をしてくれる。
(よし!うまく話を変えられたかな?)
「そんなに小さいのか、じゃあ重力はもっと小さいのか?」
勝彦は、うまく話を変えられたと思い、そのまま話を続けた。
「えええと・・・その重力は・・・」
クー太は返答に困っていた。どうやらそこの知識が無かった様である。
(しまった!質問を間違えたのか?)
勝彦は、次の発言をどうしようか悩んだ。そんな中、アルテミスがクー太に助け舟を出してくれる。
「重力は地球の3分の1ですよ。リリア様!」
(偉い、アルテミス!ナイスフォロー!)
「あ、そうそう。ですから、大気は二酸化炭素なんですけど、とても薄いんですよ!」
と、クー太は思い出したように答える。
「なるほどな、ところでアルテミス。もっと近くに寄って見られないのか?」
勝彦は、もう少し近くで見れるようにアルテミスにお願いした。会話の雰囲気が一気に良くなったというのもあるけれど、火星は地球と違って海がないので、陸地なのどの境目や形がよく見えない。ずっと眺めているが、どこも同じような地形がどこまでも続いていた。
出来れば、スクリーン画面にズームアップ画面を出して欲しい・・・・そう思っていた。
「よろしければ、火星の表面を歩いてみますか?」
ここでアルテミスが思いがけない提案をしてくる。
本当は勝彦は、もう少し近くで見れればそれでいいと思っていただけなのに、予想以上の事を言って返して来たのだった。
「え?いいのか?」
(そんな事が可能なのか?というか、いいのか?)
勝彦は、宇宙観光が決まった時の様な、ワクワク感を感じていた。
「地球の探査機の近くに行けませんけど、目立たない所でしたらいいですよ!」
「おお、マジか!?ぜひ頼むよ!」
(おっしゃああああ。火星上陸きたああああ!)
予想外の提案に勝彦はかなり興奮した。宇宙から眺めているだけでも十分感動していたのに、火星の地表を歩けるなんて思ってもみなかったからである。
勝彦は、自分が火星を歩いている姿を想像してますます興奮していた。
「勝彦殿、あまり長く火星に滞在できないので、数分間だけになりますが、それでもいいですか?」
「わかった!!それでも十分だ!」




