第1章 16話
「ほらよ・・・」
「ありがとう・・・」
それから勝彦達はコーラを持って、景色のよくみえる席に座った。部屋がレストランのように様変わりしても、一部の壁は外の景色を映し出している。
外の景色を見ると広大な宇宙空間が広がっていて、星の流れが緩やかに見えている。そこはまるで、巨大な宇宙空間に放り込まれたような光景である。
そして、宇宙を眺めて数分・・・・。
「ふぁーあ・・・・」
勝彦は退屈に似たあくびを出す。さっきから何も変わらない風景が、勝彦を飽きさせていたからだ。
地球が目の前にあった時は、雲の流れや地上の回転が見て取れた。だが、今外に映し出されている風景は、星が全く動かずに輝いているだけである。
「それにしてもこの宇宙船・・・・ちゃんと動いているんだよな?星、全然動かないな・・・」
勝彦は宇宙を眺めてそうつぶやいた。そして、椅子の背もたれにもたれ掛って、リラックスしてクー太を見つめた。
さっきから、どれだけ外の景色を眺めても、星が全然動いていない。
さっきは光の速さで動いていると言っていたはずなのに、周りの景色は何も変化していない。
「本当は目に見えないくらい速く動いているんですよ。でも、遠くの星はあまりにも遠すぎて、動いているように見えないんですよ!」
と、勝彦の何気ない疑問に、クー太が教えてくれる。
「ふーん、光速って意外とあんまり速くないんだな・・・」
「そうですね、物体は光の速さを超える事が出来ないですからね、これ以上早くできないんですよ!」
クー太は何気に答えたが、勝彦はここで疑問が生まれた。
(確かに、アインシュタインの相対性理論では、この世で一番速いのは光だと言っていたはず。だとしたら、クー太達はどうやって宇宙を移動しているんだ?光のスピードを超える事が出来ないなら、遠くの星に行く事なんて不可能だろ?そもそも、クー太達はどうやって地球まで来たんだ?)
「ちょっと待てよ、だったらどうやってワープするんだよ?」
何気にワープするんだろうと思っていたが、物質が光の速さを越えられないという事は、一体どうすればワープができるのか不思議に思った。
「それは、超空間転移装置を使うんです」
「超空間転移装置?そういえば、さっきもそんな事言っていたような・・・」
「勝彦君が、この宇宙船に転送された技術と同じものですよ。この宇宙船に転送された時、地球から宇宙船までほんの数百キロでしたが、長距離用に膨大なエネルギーを駆使するのが超長距離空間転移装置なのです」
「ふーん、なるほどね・・・そうすればもっと遠くに行けるという事だな?」
(まず・・・その転送という現象が、俺にとっては意味不明なんだがな・・・とりあえず、転送についての詳しい話は聞かないでおこう。多分、長くなりそうだしな・・・)
勝彦は、根本的な技術について知ってみたいと思っていたが、自分みたいな素人が理解できるか不安だったのだ。
「そういう事になりますね。このアルテミスなら一回の超空間転移で、2000光年くらいは飛ぶ事が出来るんですよ」
「ふーん・・・でもまあ、結局のところ、俺にはどうすごいのかわからんわ!」
と、宇宙空間に目線を向ける。勝彦はこれ以上聞くと難しい言葉が出てくると思って早々に諦めてしまったのだった。
「うーん、そうですね・・・アルテミスは、今分かっている全銀河系のでも、3番目に遠くに飛べる宇宙船なんですよ!」
と、すでに諦めている勝彦に向かって、クー太は何とかして分りやすく説明しようとしてくる。
だが、勝彦には根本的に理論が欠如していたので、何でそうなるのか分からなかった。
「いや・・・実は俺、一光年飛ぶという事がどう凄いのかが分からないんだ!」
一生懸命に教えてくれるクー太に、そう真顔で答えた。
本当は「もう説明はいいよ!」と言いたかったが、一生懸命に考えてくれるクー太にそこまで言えなかったのである。
「ええ!!そうなの?地球では、相対性理論っていう理論が一般的だと聞いているんだけど・・・」
と、クー太は困った顔をしている。どうやら、勝彦に宇宙に関する基礎知識がない事を予想していなかったみたいである。
確かに勝彦は、相対性理論という名称は知っていたけど、その中身までは詳しくしらない。たとえ教えてもらってたとしても忘れてしまっているだろう。
そんな勝彦に、クー太はどうすれば理解してくれるのか頭を抱えていた。
「リリア様!それでしたら私がお答えしましょう!」
ここでアルテミスが答える。
本当は勝彦は、悩んでいるクー太を見て「もういいよ!」と声を掛けようと思っていた。
だが、逆にアルテミスが代わりに説明しようと声を掛けてくるのであった。
(今度はアルテミスの講義が始まるのか・・・)
と、思って勝彦はため息をつく。
(でも、まあいいか・・・)
本音を言えば色々な理論について理解したいとは思っていた。でも、難しい事を言われて理解出来ないのが嫌だったので諦めていた。なので、アルテミスなら分りやすく説明してくれるんじゃないかと期待したのだった。
「勝彦殿は、スペースシャトルを御存知ですか?」
「ああ、昔の地球の宇宙船の事だろ?」
「はい、スペースシャトルは、今でも地球上に存在する宇宙船と同じくらいのスピードなんですが、時速にすると、およそ2500キロです。そのスピードで、一光年のところに行こうと思ったら、4万年かかります」
「4万年!?・・・・マジかよ?一光年ってどれだけ遠いんだよ!」
「勝彦君・・・もしかして・・・その口ぶりだと、今まで言っていた光年とか光速とか、あまり理解してなかったの?」
クー太が疑惑のまなざしで勝彦を見つめる。
「ふはははは!もちろん・・・理解しているわけねえだろ!」
勝彦は真顔でクー太言う。そして、手を頭に組み、椅子にもたれかかる。
「何ていうか・・・普通にものすごーく速いんだろな!とか、ものすごーく遠いんだろうな、とかしか思っていなかったわ!ははは・・・!」
「・・・・・・・・」
勝彦の態度に、クー太は少し呆れた顔をしている。
「あ、今、ものすごく俺を馬鹿にしたな!」
勝彦はすぐに反応して前のめりになる。呆れたクー太の表情を見逃さなかった。
「うううん!してない、してないよ!」
クー太は必至で手を振って取り繕った。でも、勝彦はクー太に対して怒っている訳ではなかった。
自分自身に学がないのは自分自身が一番理解していたし、馬鹿にされても当然だと思っている。
「まあ、別に俺は馬鹿だからいいけどよ。でもまあ・・・まさか、自分の飼い犬に馬鹿にされる日が来るとはな・・・はあ・・・」
と、勝彦はわざとらしく落ち込んだ態度をとる。
本当は、宇宙人のクー太に馬鹿にされたのは別に気にしてはいない。ただ、元飼い犬に馬鹿にされたのが何とも言えない感情だったのである。
「してないよー!それに僕はもう犬じゃないよ!」
「うぐ・・・・ああ、そうだったな・・・」
勝彦はさらにがっくりする。気を使われて、さらに悲しくなった。当然の事とはいえ、今の自分はここで一番知識がない。それは当然の事だとしても、何だか悲しくなったのだ。
(はあ・・・子供はこうして親を乗り越えていくんだな・・・)
勝彦はちょっとした親心になっていた。(別に親ではないが!)




