第1章 12話
「はあー・・・わかりました。すべてをお話します。実は、あの子はあなたを救う為にやって来たのもありますけど、あなたに会うのを物凄く楽しみにしていました。この地球に来るまで、勝彦殿の話をしなかった日は一日もありませんでした。あなたに会う為に、あの子は2年間の旅を経て、ようやくこの地球までやってきたのです」
と、アルテミスはゆっくり丁寧に事の顛末を語りだす。クー太がどれだけ勝彦を思い、考え、思いを巡らせてこの地球まで救いに来た事を訴えだしたのだった。
そして、勝彦はアルテミスの言葉を一つ一つ聞いて少しずつ胸が詰まっていった。クー太の自分に対する愛情が胸に突き刺さり、少し泣きそうにもなったのである。
何よりも、勝彦に会う為にクー太が2年間もかけてここまで来た事に感動した。
(あいつ、2年間も・・・そんなに長くかけて地球まで来たのか・・・?)
アルテミス話を聞いて、勝彦はクー太から慕われている事に感動して、今まで思いっきり疑っていた自分を恥じていた。
「クーちゃん・・・」
勝彦は地球を眺めてそう、ぼそりとつぶやく。子供のころのクー太との思い出が少しずつ思い出される。
勝彦の心の中には、今でもあの当時のクー太の姿が思い浮かぶ。
「どうか、あの子の為にも、冥王星だけでも行ってもらえませんでしょうか?せめて、あの子に勝彦殿との思い出を少しでも残してあげたいのです。私は、あの子が悲しむ顔を見たくないのです」
と、丁寧なアルテミスの言葉が勝彦の心にさらに突き刺さる。クー太が勝彦の事を思ってくれているのと同じように、アルテミスはクー太の事を思っている。アルテミスが、勝彦の事を説得するのは、すべてクー太の為だったのだ。
(人の気持ちや思いは・・・・こうやって伝染していくのかな?)
と、心の中でしみじみ思った。
(いやいや、駄目だ!流されるな俺!)
と、自分に言い聞かす。アルテミスの言葉を聞いて、自分の中の気持ちが変わっていくのが自分でも分かって、自分が洗脳されたんじゃないかと思ったのだ。
これでは、アルテミスの思う壺である。もし、アルテミスに悪意があったら完全に落ちていたぞ。
(だけど・・・・)
それでも勝彦の気持ちは揺れ動いていた。
『勝彦君!!』と、クー太の笑顔が勝彦の頭の中に浮かぶ・・・。
勝彦は、本当は地球を離れるつもりはなかったが、アルテミスの言葉を聞いくと、クー太の笑顔を思い浮かべてしまう。否定しながらも、勝彦の気持ちは少しずつ変わっていた。
勝彦は・・・・こういう感情的な訴えに弱かったのだ。
「わかったよ・・・冥王星までなら行くよ、俺!」
と、絞り出すように勝彦はつぶやく。
少し考えたが、クー太の気持ちを考えるとつい返事をしてしまった。
半ば勢いで言ってしまった所が大きいが、もはや勝彦は後悔していなかった。
「ありがとうございます」
アルテミスは嬉しそうに感謝を述べる。機械であるはずのアルテミスの、その感情的表現は人間のそれと一緒だった。
「ほら、リリア様!勝彦殿もそう言っていますから、戻ってきてください!」
と、アルテミスは聞き覚えのない名前を言って誰かを呼び出す。
「ん?リリア様・・・?」
勝彦は聞きなれない言葉にすぐに反応する。
すると、クー太が奥の部屋からひょっこり現れた。ここでクー太が現れたという事は、リリアという名前はクー太だという事になる。
勝彦の頭の中は一瞬真っ白になった。
(今、アルテミスはクー太とは呼ばずに、リリアと呼んでいた。よくよく考えてみれば、生まれ変わっても、クー太という名前のはずがない。ということは、リリアってクー太の生まれ変わった名前なのか?)と予測した。
そう思った勝彦は、早速聞いてみる事にした。
「クー太、お前リリアって名前なのか!?」
すぐさま勝彦はクー太に質問をする。勝彦にとって、さっきのアルテミスの話よりも、今知ったクー太の名前の方が衝撃を受けた。アルテミスの話も、確かに胸にきて感動したが、それとこれとは話は別である。
(それにしても、リリアって・・・女みたいな名前だな・・・)
「それは・・・僕の生まれ変わった星での名前です。でも、僕はあくまで勝彦君にとってはクー太ですから・・・」
と、恥ずかしそうに答えた。その仕草はまるで女の子みたいである。ここで、自分の中でクー太女の子説が浮上した。
そもそも、クー太は会った時から、『僕』と言っていし、体格が男の子ぽっかった。もちろん犬だった時代もオスである。
だが、目の前に立っている少年はとても中性的だ。
(もしかして、こいつは女の子なのか?僕っ子だったのか?)
勝彦はクー太をじろじろ見つめる。
「まるで女の子みたいな名前だよな、お前の星では普通の事なのか!?」
勝彦の質問に対して、クー太はもじもじとして答えようとしない。やっぱりそうなのか?と思っていると、横からアルテミスが説明をしてくる。
「勝彦殿、我々ベルウイング星では、特に男女の性別が決まってないのです。と、いいますか、自由に男にもなれますし、女にもなれます。リリア様はどちらかと言えば女性としての生活が長かったので、女性のほうが慣れていらっしゃるのですよ」
と、勝彦の質問にアルテミスがあっさり答えてくれた。
「もう、アルテミス!余計な事は言わないで!」
クー太は勝彦の目の前であたふたとしている。自分の秘密がばらされた様に戸惑っていた。そして、気持ちを切り替えて勝彦の方に向いた。
「それよりも・・・ほんとにいいの?」
と、クー太は話を変えて恐る恐る勝彦に聞く。勝彦は、すっかりクー太の本当の名前に気を取られて本題を忘れていた。
そういえば、先ほどクー太が怒ってこの部屋を出て行って、アルテミスに説得されて冥王星まで行く事を約束していたのだった。
「ああいいぜ!!俺とクー太の仲だろ!わざわざ地球まで来てくれたのに悪いしな!」
さっきまで思い悩んでいたが、決断した以上は完全に行く気満々になっていた。クー太の自分に対する気持ちを知って、何かクー太の為にしてあげたいと思うようになっていたからだ。
「ありがとう・・・勝彦君・・・」
勝彦の返事に、ようやくクー太は笑顔になった。そして、クー太の目からは一筋の涙が流れ落ちていた。
「おいおい、泣くなよ!」
「あは、嬉しくてつい・・・・」
クー太は涙を拭いながら、満面の笑顔を勝彦に向ける。勝彦は、その笑顔を見て微笑み返した。クー太に喜んでもらえて本当に良かったと思っていたからだ。
しかし、そう思いながら勝彦はさっきからどーしても気になっている事があった。
途中でクー太に話を変えられたが、アルテミスが言っていた、男にも女にもなれるという発言がどうしても気になっていたのである。
「それよりもさ・・・俺はお前が自由に男にも女にもなれるほうが気になるんだが・・・?もしかして・・・お前って今、女なのか?」
地球でも、ニューハーフという概念はあるし、タイなどでは性転換手術をする事も出来る。
勝彦は、別に性別に関しては寛容のつもりだったが、クー太の率直な気持ちを聞いてみたいという衝動を抑えられなかったのだった。
勝彦は思っている疑問を素直にクー太にぶつける事にした。自由に男でも女でもなれるという夢の技術に、かなり興味深々だったのだ。




