二瀬です。➂
「いったたたた…これはないよ茜ちゃん…」
腰をさすりながら立ち上がったのは和装の中年男性。
無精髭を生やしてはいるが、独特の雰囲気のある人だ。
「この人は神田 零。小説家やってるの。なかなかいい話を書くんだけど、如何せんセクハラ親父だからね。接触するときは気を付けて」
「ひどい紹介だなあ茜ちゃん。俺たちの仲じゃないの」
「割とまともに紹介したつもりだけど、本当にしたい紹介していいの?」
「傷つきそうだから遠慮しておくよ…」
落ち込んだ声を出しながら、近づいてくる。
目の前に立つと、肩に両手を置いてにこやかに話しかけてきた。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「あ、えっと…二瀬春佳です」
「春佳ちゃん!おじさん覚えたよ~。零って呼んでね!なんか困ったことあったら言ってね?おじさんが手取り足取rグハァ!!!」
どさっという音と共に零さんが突然、崩れ落ちた。
向こう側にいたのは先ほど挨拶したあげはさん。
「可愛い春佳ちゃんにセクハラしたな…」
「ああ、あげはちゃん…ごめんなさい…」
「うちやのおて春佳ちゃんに謝ったれやくそじじい!戸惑うとるやろ!!あ!?」
倒れた零さんを足蹴にする、あげはさん。
「あ、あげはさん…もう大丈夫ですよ?」
それを止めると、踏みつけたまま振り向いた。
「ほんまに?ほんまのほんまに?また何かされたら言うてな?」
「あ、は、はい…」
「あと大学生なんやろ?うちとそないに変われへんし敬語使わんでもええで?呼び方もさん付けやおまへんほうがええなあ」
「あ、うん…あげは、ちゃん?」
「あーそれやそれ!ええなあ…ずっと年上の姉様方しかおらんかったから嬉しおすなあ!」
「あげは、関西弁」
あげはちゃんの後ろから、男の人がもう一人現れた。
小さくて丸いサングラスをかけ、髪を上げ、髭を整えた中年男性。
零さんよりは少し年上のようだが、落ち着いた雰囲気のおじ様という感じだ。
「え?出とる?」
「ああ。もろにな」
「ほんま?…あ、ほんまや。んん、んんん…」
わざとらしく咳払いすると、私に向き直った。
もちろん零さんは踏んだまま…。
「んーと、そう!この人だよ春佳ちゃん!」
「え?」
「お隣さん。そこのカフェやってる、香月雪斗」
男性――雪斗さんがぺこりと軽く頭を下げる。
「どうも」
「あっ、そこに越してきた二瀬です。これ、よかったら」
「ご丁寧に。あげはがうるさかったら言って」
「ちょっと。どういう意味よそれ」
「そのまんまだ。それとそろそろ足を外してやれ」
「ああ、そうだった。茜さん、あと頼んでいい?」
「良いわよ。部屋に突っ込んどくから」
ただ挨拶に回ってるだけだけど、なんだか物騒な会話だった。
あげはさんは雪斗さんと一緒にカフェへ戻り。
茜さんは伸びている零さんを部屋に戻して自分の部屋へと戻って行った。
あとは、お隣。
2階の奥へと向かった。