二瀬です。②
紙袋を持って、1階に行く。
住人達にあいさつするためだ。部屋から遠い順にした。
幸い今日は日曜日だ。いないことはそうないだろう。
1階奥の部屋のベルを鳴らすと、中から気だるげな男の人が現れる。
「初めまして、上の階に越してきた二瀬春佳です。よろしくお願いします」
「ああ、ご丁寧にどうも。内海です」
「これ、よろしければ…」
「お、お菓子。やったね。ありがと」
「はい、失礼します。」
ドアが閉まるのを見送って、小さく溜息をついた。
軽い感じだったが、大丈夫だろうか。
しかし、親切そうで安心した。
次の部屋のベルを鳴らす。
出てきたのは、若くて綺麗な――なぜか白衣を持ったお姉さん。
「初めまして、上の階に越してきた二瀬春佳です。よろしくお願いします」
「…。天野美羽。」
「あの、これよろしければ」
「…食糧」
「あ、はい、まあ」
「いい人。よろしくね」
「はあ…失礼します。」
ドアが閉まると、先ほどより大きく溜息をついた。
変な人だ。そう素直に思った。
その隣のベルを鳴らす。
中からは可愛いお姉さんが現れた。
「あの、上の階に越してきた二瀬春佳です。よろしくお願いします」
お姉さんは上から下までチェックするように見ると、
「ん。夏川あげはだよ。よろしくね」
まぶしい笑顔を向けてきた。
「あっ、えっと!これ、よろしければ…」
「おお、ありがと。こっちの隣にも挨拶行くの?」
「はい、まあ」
「んー…今はいないんだよね。みんなに挨拶したらおいで」
「えっ?」
「連れてってあげる。隣の人のとこ」
「あ、ありがとうございます!」
「んじゃ、また後で」
ニコリと笑って手を振り、ドアを閉める。
「可愛かった…」
思わずつぶやいた。
しばらくポーっとしていたが、はっと我に返り慌てて2階に行った。
階段を上がってすぐは、ベルを鳴らしても出なかった。
留守なのか、と思いつつ次の部屋のベルを鳴らす。
「はーい」
「初めまして、隣に越してきた二瀬春佳です。よろしくお願いします」
「あら、ご丁寧にありがとうございます。水野茜です」
「あの、これ」
「おおーしっかりしてるんだね。私、看護師やってるから変な時間に音立てるかも。ごめんね?」
「いえ、私も大学の実習で遅くに帰るかもしれないのでお互い様です」
「大学生なんだ!若いなー…」
「え?」
「うふふ、なんでもないわ。お隣、出た?」
「あ、いえ…ベルは鳴らしたんですけど」
「だろうと思った…」
茜さんは隣の部屋に行くと、鍵を開けて中へと入って行った。
「また原稿遅れてるの!?だからって訪問客を無視してんじゃないわよ!」
「ちょ、やめ!蹴るな!暴力反対!!」
「じゃあ居留守するな!ていうか居留守しても担当さんも私を頼るんだから無駄なのよ!!」
「痛い!痛いって!だからその年になっても結婚できないんじゃん!?」
「んだとゴルァ!表出ろや!!」
ぽかーんとしていると、1人の男が投げ出された。