二瀬です。①
「いんや、こんなオンボロアパートだとは思わんかったでしょう」
管理人のおばあちゃん、如月シノは言う。
ご本人の手前、いえいえとは言うが、正直…ぼろい。
「でも家賃が安いだろう?駅からも割と近い。だからすぐ人がうまるんだ」
あっはっは、とシノさんが笑う。何が面白いのかわからない。
鍵や借用書など、必要なものを揃えて手渡してくる。
「縁があったんだろなあ。ああ。そうじゃなきゃ入れんベ」
先ほどからシノさんが話す言葉はよくわからない。
いろんなところの方言だか何だかが混ざったような口調だ。
それでなくても言いたいことがよくわからないのだが。
「さて、2階の奥から2つ目がお前さんの部屋だ。荷物はもう届いてんべよ。ここは住んでる人たちがみんな優しいけ、挨拶しとくと何か困ったら助けてくれるでよ。んだば」
そう言い残すと、シノさんは自宅へと戻って行った。
雑すぎないか、と少し不安になりながらも古い金属の階段を上がって自分の部屋に向かう。
いつ壊れてもおかしくなさそうな階段だ。
部屋に入り、自分の荷物の量にうんざりしながらもチェックリストと部屋を見比べる。
うん、問題はなさそうだ。
一通りチェックを終えると、菓子折りを7つ紙袋に入れて部屋を再び出た。