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新たな住人
2階建て、1フロア8部屋、築60年。
1DK、トイレはあるけど風呂はなし。家賃は安め。
エアコンは古いやつなら完備。最寄駅から徒歩15分。
海沿いにある、そんな古いアパート。
夏は暑く、冬は寒い。
ところどころ修理が必要だったり古くなっていたり、環境は良いと言えない。
しかし、風呂に入りたい時は、管理人が同じ近くの銭湯を無料で利用できる。
暑いと管理人さんからアイスがもらえたりする。
変なところでいい環境だったりする。
そんなアパートに、この春1人の女の子がやってきた。
二瀬春佳、18歳。4月から短大生。
実家を出て1人暮らしを始める。
「ここ…かな?」
家を出たいという一心で決めてしまったアパート。
予想以上に、古い。
実は場所を間違えているのでは、写真はもっと綺麗だったじゃないか。
そう思い周りを見るも、他にアパートはなく。
隣には目印である木造のカフェがあった。
「…仕方ないかな。」
春佳は溜息をついてそう言うと、新たな住居――きさらぎ荘へと足を踏み入れた。