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国立感染症対策研究所は、全国で唯一の〝D〟を専門とする隔離病院兼研究施設である。
正式名称を〝寄生性非同一型祟状症候群〟と名付けられたこの奇病は、それを知る者たちの共通認識として『神の祟り』とされている。何に憑かれるかによって感染者たちがまったく違う症状を示すという意味の病名だが、病気進行のメカニズムとしてはほぼ共通していた。
寄生体である神――〝D〟が人間に憑りつくことで肉体に『異常患部』と呼ばれる部位が形成され、同時に代謝機能の異常促進により回復機能および身体能力が劇的に向上する。肉体の変化と連動するように『精神汚染』に始まる『人格変貌』が起こり、多くは理性や倫理といった人間的モラルを失い反社会的な異常行動をとるようになる。それが犯罪へと繋がることも珍しくなく、結果、感染者たちは人間社会にとっての脅威――人外へと成り果てるのだ。
一般にはまだほとんど知れ渡っていない奇病とはいえ、感染者の数は年々増加の一途を辿っている。感染経路は特定されておらず、風邪のようにどこにいても罹る者もいればまったく罹らない者もいるため、予防のしようがないのだ。ある意味ではそれがこの病気の一番恐ろしいところであり、奇妙な点でもあった。
病名に関して、英名に直すと〝Parasitic And Non Identical Curse Syndrome〟であることからPANICS――『パニック』と呼ぶ者もいるが、それ以前の通称である〝D症候群〟や単に〝D〟と呼ばれることの方が圧倒的に多い。いずれにせよ感染者が著しく人間性を失う病状に即した呼び名であることに変わりはない。
治療方法もいまだ確立されてはおらず、特に感染度合をレベル分けした場合の重度判定(レベル4)以上の感染者たちは、研究所に隣接した特別医療棟に入院させることで世間から隔離するしか方法がなく、現在までに彼らが完治したという例もない。軽度・中度を除く感染者たちの社会復帰は絶望視され、それがD症候群の現実だった。
原因究明や予防・治療方法について研究所が総力を挙げるのは当然であり、その一環として様々の実験が行われることも珍しくないどころか、今後ますます必要とされていたのだ。
その点で今期に真土迅が提唱したプロジェクトは異例の試みではあったが、新たな可能性の開拓として期待されるものであり、少なくとも彼を持ち上げる大学病院派のグループは実験成功を疑っていなかったし、彼らはそれをもって大々的に自らの功績をアピールする算段をすでにたてていた。
――果たして年明け間もなくして開始されたD感染者たちによる奇妙な集団行動は、思いのほか順調な滑り出しをみせた。
これには実験の許可を出した玲子も驚きだったが、発案者たる真土もまさかここまでとは思っていなかったようで、様子を見守る研究者の中でも一際、生き生きとしていた。




