表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/25

11-3

 ゆっくりと顔を離すと、七奈は気を失ったようにどさりとその場に倒れた。

 体を締めつけていた蛇の群れもすでに動きを止めており、本体に引きずられて床に落ちると同時に元のつややかな髪へと戻っていく。

 俺がしたことは、端的に言えば、先ほど紗羅さんのしたことの()だった。

 彼女は俺の口を通して俺から生気を吸い取っていたが、俺は自分の口を通して『蛇の毒』を妹の中に送りこんだ。

 俺の最悪の〝悪夢ちゃん(ナイトメアリー)〟――その毒は〝D〟を強制的に停止させる効果がある。本来は右手に()む蛇の牙を通して毒を注入するのだが、『入り口』がすぐそこにあるのなら牙はいらないし、手も足も出ない状況だろうと口移しなら簡単だった。

 もちろん俺の口から毒が出るなんてことは普通はないのだが、あの黒い女がむりやり口の中まで毒腺を繋げてくれやがったのだ。まったく恐ろしいことを平気でやってくれたものである。

「今だけじゃよ。妾とて無茶な状態じゃからの。せっかくのないすばでーが変形してしまうのは(いや)じゃし、頼まれても二度とやらんわ」

 その言葉通り、大方の毒を流し込んだところで顎にまで達していた鱗は消え失せていた。口の中に残った吐き気を催すような粘液の臭いと味は一生もののトラウマになりそうだったので、こちらから頼むことも二度とないだろう。

 とまれ、俺はなんとまあ奇跡的な快挙を成し遂げたわけだ。過程はともかくとして、結果的に見れば妹は無傷だったのだから。

「さて、終わったようじゃの。先ほど主様よりいただいた精の見返りとしては充分じゃろ。慣れぬことをしたから少々疲れた。妾は先に休ませてもらうぞ」

 今度は姿を現さず、声だけがそう告げて女の禍々しい気配は消え去った。自分の右手を確認するまでもなくそこにはただ俺自身の当たり前の腕があるだけで、深く考えてもろくなことにならなそうだったので考えるのはやめた。

 俺は改めて倒れたままの妹の姿に目をやった。

 苦肉の策だったとはいえ、胸を揉みしだいた上に口唇まで奪うとは、とんだ鬼畜変態兄貴もいたものである。頭のネジが七つくらいぶっ飛んだマジキチ妹が相手でもさすがにやり過ぎだったかもしれない。まあ毒に致死性はないことだし、その点は心配いらないはずだ。紗羅さんや警備隊の連中と血みどろの殺し合いにならなかっただけマシ……と思うことにしておく。

 どちらかと言うと、表情が緩みきった上になぜか鼻血まで垂らしているというあんまりにもあんまりな寝顔の方が年頃の乙女にあるまじき醜態というか、人様にはとてもお見せできない有様で別の意味で心配になってしまうお兄ちゃんだった。びりびりに破れた制服の隙間からはピンクの下着が覗いているし……さすがに不憫(ふびん)に思って上着を脱いで妹の体にかけておいた。俺の上着もズタボロな状態だったが、ないよりはマシだろう。

「……おにいちゃん、ちゃんと責任とってよね」

 寝言のように妹がつぶやいた言葉にゾッとしたが、幻聴と同じように聞こえなかったフリをしておく。

 とにかくこれで一件落着――と思ったその時、

 不意にパチパチという乾いた拍手の音が辺りに響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ