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9-2

 この時、窮地にあっても冷静に相手を分析することで、士堂はすでに勝利のビジョンを得ていた。

 相手の〝D〟――七刀ノ神といったか。

 聞き覚えのない神だが、それが恐ろしく強大であることはすでに充分に思い知ったことだ。

 相手が攻撃に特化した個体であることは間違いなく、鎧神が鉄壁であることを差し引いても、まともにぶつかればいずれ鎧は砕かれるだろう。

 だが、七つの凶刃を振りかざす本体そのものは、ただの少女に過ぎない――勝機はそこにある。

 士堂は立ち上がると同時に構えた。

 足を充分に開き、腰を低く落とす。体幹を安定させることで体重を乗せた一撃を放つためだ。

 鎧神によって硬化された肉体から放たれる打突は、それだけで驚異的な威力となる。ましてやいかにも線の細い少女相手ならば、殺してしまってもおかしくないだろう……だが、相手もまた人外である以上、手加減は必要ない。

 一方、少女は無造作に隙を晒しながら歩いて距離を詰めてきた。

「なにそれ? 空手とか? 鎧着たままそんな格好してるとわりとマヌケだよね」

 得物(えもの)をなくした武者など取るに足らない相手だと侮っている――それは余裕が招いた油断に他ならなかった。

 士堂流には武器をなくしても闘い続けるための(やわら)の術も多く存在する。そも、戦場においては血と(あぶら)のせいで刀はすぐに使い物にならなくなるのだから、無刀の状態でも相手を(ほふ)る技が重宝された。古の剣術を現代に伝える士堂流に隙はない。

 鎧神が先に仕掛けた。

 力強く踏み込むと共に、右手をねじこむように前方に突き出す――掌底。

「士堂流・螺尖(らせん)!」

 同時に体幹を真横に向けることで、繰り出された一撃は相手の意表をついて有効範囲(リーチ)を伸ばす。

 得意の動体視力に頼り、後退の動作で攻撃を避けようとした少女に対してこそ、それは劇的な効果をもたらした。

 あるいは横に避けていたならば、かすりもしなかっただろうに――予測を超えて迫る一撃に少女は大きく目を(みは)った。そしてその時にはもう、間に合わなかった。

 結果、士堂の手はギリギリ、届いたのだ。


 むにょんっ、と。


 少女の控えめな胸の膨らみに軽く触れる程度だけ。

「――――」

 時間が止まった。

 お互いが現実を認識するまで数瞬の間があり、それから怒涛(どとう)のように現実が動き始めた。

「い、い、い、ぃぃぃィやああああああああああッッッ――――!?」

 混乱の極みに達した少女が張り裂けんばかりの悲鳴をあげた。

 刹那、その腹部がメリッと盛り上がったかと思うと、セーラー服の布地を引き裂いて巨大な塊がどす黒い奔流となって溢れ出した。

「なっ……!?」

 それは大蛇の頭だった。黒い鱗に覆われた化物じみたサイズの頭部が(あぎと)を全開まで開き、鎧神を飲みこむ勢いで鋭い牙を突き立てた。

 冗談のように長く伸びた首が鎧神を何度も床に叩きつけ、勢いそのままに奥のコンクリート壁へと縫い止めた。

「――ぐっはッ……!?」

 衝撃を受けるたびに牙がめりこみ、ついには鎧神の装甲に(ひび)がはいった。それでも大蛇の顎は力を緩めることなく相手の胴体を噛み千切らんと絞め続ける。

 自らの胸元を守るように抱きしめながら、顔を羞恥(しゅうち)に染めた少女が凶悪な光を放つ赤い瞳を(たぎ)らせていた。

「おに、おにいちゃん、おにぃちゃんにもまだ……まだなのに……! さわ、さわられ、もみ、もみられた! こ、ころ、ころす、ころす、ころさないと、ぜったいころすから……!!」

 いまだ混乱は収まらず、もはや自分の体がどうなっているのかすらわかっていない。己の腹部を突き破って現れた大蛇をうまく操ることもできなかったが、少女は全身を駆け巡る殺意の奔流に呑みこまれるように激しく咆吼(ほうこう)した。

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