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山賊は悪党で  作者: 泰然自若
二章 ニールの町
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 日は陰りニールの町に闇が舞い降りる。夜の出入りを監視する事と犯罪防止による行為で、城門にかがり火を立て、その横に衛兵が立っている。

 他の町により近ければ夜でも出入りはあり、衛兵も忙しかったかもしれないが、ここはニールの町で夜の警備と言えば眠気との戦いだった。

 今日もそうなるはずだったのだが、ニールの町内から疾走する四頭の馬に引かれた馬車が城門から外に飛び出していった。次第に、町中が喧騒に包まれ、衛兵が口頭で事態を説明し、やがて領主城にまで波及していく。

 教会に向かった領主の娘二人が誘拐され、領主様の容体が急変して指揮を取れない。代わりに指揮を執り始めたのが教会を管理するカスパル司教で、騎士団長で二十年間、領主に仕えてきたダニエルも已む無く、その指示に従うという。

 町は俄かに活気とは違った喧騒に溢れていく。



 森林の中を通る街道は、月明りだけではとても視界を保つ事は出来ないほどに暗い印象を持たせ、その街道を通る人々を恐怖に駆り立てていく。森林とは女神様のように、慈悲深く恵みを与えてくれるが、悪魔のように残酷な末路を目の前に突き立てる。ロバ車の手綱を握りながらヴォルフは、そんな感傷にも似た事を考えていた。

 ロバ車を行きとは違う場所に隠すと、四人は分担して物資を運ぶ。ロバは荷車に乗せて、その周囲には獣が嫌う特製の薬を適当に配置し、毒肉を置く。

「ダン! 俺だ、ユーリ様だ!」

 真っ暗闇の中でユーリの大声が響き渡る。ダンはというと、とっくに気付いていたようで、特に反応はしなかった。

「だから、お前はなんでそんなに尊大なのよ」

 代わりにヴァルトが面倒くさそうに呟き、物資を両肩に乗せて歩いてくる。今日のねぐらは朝と同じ場所だったが物資は分割して別の所に置くようだった。

「よし、取り合えずディック。食糧は洞窟の倉庫へ運んでくれ。終わったら飯にしよう」

「うん」

 ディックは元気良く返事をし、軽々と持ち上げて分割した物資を運んでいく。それを見ながらもヴァルトは指示を飛ばした。

「ボーとユーリは周囲散策。俺らが食い終わるまできちんと見張れよ」

「はい」

「判ってるよ」

 二人は素直に返事をして周囲の闇に溶けていく。どうやら、分担して食事を取るようにして、不測の事態に備えているようだった。

「ダン」

「出来ている」

 ダンはヴァルトの問い掛けに即答する。すると、ヴァルトも、よしと頷いた。ダンは町に行かない間、この近くを散策し、獣道の把握や罠の配置などを一手に引き受けていた。

「いつもすまんな。たまには町に行っても良いんだぞ?」

「気にするな」

 その言葉に、ダンは素っ気無くそう答えるもヴァルトは特に気にせず

「おう」とだけ言って笑った。

 どうやら、ダンはあまり喋らない性格のようで、ヴァルトとも長い付き合いに見えた。

 一先ず、焚き火を三人で囲みながら腰を落ち着けると、ヴァルトはまずダンに短剣と投げナイフを渡す。続いてヴォルフには短刀を渡した。残りは矢であったので、判る場所に落ち着けた。

「噂はそれなりだったな」

 ヴァルトがまず口を開いた。ダンは耳を貸しつつも枝を火にくべる。ヴォルフもそれに頷いた。

 ザックスに出会って話を聞けた事が収穫だったようだ。

 続いてヴォルフは口を開ける。

「俺達への悪い噂は無い。まだ半月というのもあるが、上々だろう」

 その言葉に、今度はヴァルトが頷いたが

「気になる物はあったがな」と付け足す。

「そうだな……良い町だけに、領主が少々保守的というか。もう少し、活発に商いを推奨して温泉や山塩を売れば今以上に発展しそうではあるらしいな」

 ザックスが不機嫌にそう言っていた。ここの領主は現状維持に重きを置きすぎている。ただでさえ他の町から遠いのに、このままではいずれ廃れ忘れ去られてしまうとさえ言っていたのをヴァルトは思い出していた。

「商人にしか判らないもんがやっぱあるんだねぇ」

 大半はザックスの思った商人としての話でしかなく、ヴァルトやヴォルフからすれば、ここは良い町だと素直に思えていた。

「ダン。ここらは獣が多そうか?」

 一先ず、ヴァルトはその話を後にして、ダンに報告を促す。ダンに求めていたのは周囲の調査で、元々こうした探索や調査を器用にこなして行くので、半ばダンが専門家のようになっている。

 ディックを抜かした山賊達は、こぞって絶対元暗殺者だと決め付けているし、ダンも特に否定はしてなかった。

「多い。町から離れた街道は危険。遭遇する」

 ダンの低いながらも通る声がゆっくりと吐き出された。腕組みをしながら、ヴァルトは唸った。

「そうだな……思い切り、獣道切ってるからなここの街道」

 山賊は山を縄張りにするので、獣道や獣の習性を知らず知らずに覚えていく。または覚えさせられる。そのため、ヴァルト達はニールの町に続く街道で、特に今居る森林には、獣道が多いことを確認していた。

「猪と鹿。大型多い」

「だからか」

 ダンの言葉に、ヴァルトは一人納得していた。その姿を横目にヴォルフは話を続ける。

「ならば、もう少し滞在しても良さそうだな」

 どうやら、ヴォルフは元々そう考えていたのかもしれない。それほど、用意されている言葉に感じられていたヴァルトであったが、思い当たる節を知っているようにも見える。

「ここほど環境が良いのも珍しい。森林が無駄に伐採されていないし、川もあれば平地で農耕もある程度出来る。放牧に向いているが、手付かずの場所もな」

 ヴォルフの言った事は、的を射ている事を二人は承知している。ダンはとにかく、周辺を歩き回った身からして良く判っている様子だった。

 ニールの町では伝統を重んじ、代々使われていた土地を何度も使用している。その関係からか、町の人口もずっと横ばいだという事をザックスは別の商人から聞いたと言っていた事をヴォルフは覚えていた。

 大規模な開拓が進めば、かなり発展するも、それをあえてしない事で緩やかな発展をしていく町。徐々に農耕地を広げ、観光客と商人を呼び込む。その統治政策からヴォルフは領主を頭の堅い善人では無く、流れを読めない善人。と勝手に想像していた。

 そんな想像を他所に話は進んでいく。

「獣が多いから、半端な賊はここらを縄張りに出来ないってわけか。これで、他の町から遠いのも利点だな」

 ヴァルトは山賊の目線から、この地に滞在する利点を述べていった。この話には二人も同意するようで口を挟まず、ヴォルフが

「期間は?」というだけだった。

「そうだな……もう一月かな。いっそ、領主に存在認めてもらえれば楽なんだけど。必要悪で」

 ヴァルトはザックスの言っていた事を思い出してそう口走る。その言葉に、ダンは訝しがるように顔を少し挙げて、ヴォルフは苦笑いを浮かべた。確かに、あの話は魅力的だったと思っていただけに、そんな生易しい領主では満足に町を管理できないだろうとも考えていた。

「そこまで寛容なら今頃、誰かに領主の座を取って代わられているな」

「違いない」

 ヴァルトも冗談で言ったのでその言葉に、笑い声を挙げて答えた。

「教会は?」とダンが言った。

「そうだった。それも珍しい事になっている」

 訝しい顔に表情を変えながらヴァルトが答えた。

「ニールの町には司教が居る。ここら一帯が教区らしい」

 ヴォルフの言葉に、ダンが顎に右手を添える。

「悩むのは尤もだ。だが、司教が居てもそれほど、教会の勢いが強いってぇわけでもない」

「妙なところだな」

「領主がしっかり手綱を握っているのか。聖都教らしからぬ者が司教なのか」とヴォルフは言った。

「ザックスから言わせれば、何処も同じだそうだがな。やっぱり仲はよろしくないようで」

 ヴァルトは苦笑いを顔に貼り付ける。宗教を信じない山賊からすれば、教会も同業者に近いものだと思っていた。

「しっかし、本当宗教は金になりそうだよな」とヴァルトは心底感心したように腕を組んだ。

「俺達も興すか? ディック辺りを神にして」

 ダンが自嘲気味にそう言った。

「よせよ。どうせ、邪教扱いで皆殺しの対象になるだけだ」

「ともかく、注意する必要はあるな。ディックの事がある」

 ヴォルフが話を戻し、ヴァルトとダンは頷いた。

「何かあれば逃げるだけ。いつものことだ」

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