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春分の日、来る

 「失礼しまーす……って誰もいない?」

 僕は、今日、『春分の日』の談話室に一番乗りで来たようだった。


 長机が4つほど真ん中に四角を作るようにして並べられており、一つの長机につき、もれなく一脚パイプ椅子がついている。

 談話室と言っても以前は、普通の教室だったらしく、前方には黒板、後方には生徒用のロッカーが設置されている。そのロッカーの隅には綿ぼこりが転がっているだけだった。

 僕はそのふわふわとした綿ぼこりを見つめながら、ふわふわと建国記念日にあったあの3人のことを思い浮かべた。やはり、彼らは……僕について何か知っている?


 ガラリ……

 談話室の引き戸が開いた。そこいたのは、お面をつけたシンデレラだった。

「シンデレラさん……?」

「おー、何日ぶりだろ? 久しぶりだねえ、フジコー」

 シンデレラは紺のセーラー服の袖から健康的な小麦色の肌を覗かせていた。そのシンデレラが僕に近づいてきた。

「フジコ、まんが持ってきた?」

「え、はい……」

「ほー、よかった。じゃ、見せてよ」

 僕はシンデレラに持ってくるように言われていた原稿を渡した。

 僕とシンデレラはよく日の当たる窓辺のほうを向いて、2人並んでその場にしゃがんだ。シンデレラは、真剣な目で僕の原稿を読んでくれた。瞬きの数も少ない気がする。

「はい、読んだー。うまいなー、絵」

「そんな……」

 照れていた僕は、シンデレラから返された原稿を両手で持って、もじもじしていた。

 しかし、シンデレラは、何分も……いや、何秒も俺を浮かれさせておくような優しい人間ではなかった。

「フジコ、お前、不登校だろう?」

「えっ!?」

 僕は、糸で引っ張られたようにピンと肩を上げた。なんせ、その答えは本当であり、僕にとってそれは僕の最も嫌な部分だったのだから。それに、何でこの人は……

「何でそれを? って思った?」

 僕は声には出さなかったが、首をウンウンとタテに激しく2回振った。その勢いのよさに首の骨がどうかするくらいだった。

「だって、マンガ、絵もハナシもすげーんだよ? こんだけうまけりゃ、絵ぇずっと描いてんのかなあ? って。ミーが思うに、フジコはそのずっと絵ぇ描いてる人間の中でもトップクラスだと思うんだよねー。ってことは……」

「って、ことは?」

 僕は、バッとシンデレラのほうに顔だけじゃなく、体ごと向けて、その答えを待った。

「ずっと、ずーっと絵を描いている。授業中にやってるヤツも見かけるけど、フジコは真面目そうだから、そんなことはしない……。だから、家でずっとやってるから、不登校。どーだ!?」

「……」

 あながち、間違ってはいない。だけど、だけど!!

「だけど、不登校で学校サボってる人間のほうがもっと不真面目なのではないでしょうかっ!?」

「……」

 シンデレラは、少しの間、沈黙を守り、ゆっくりと口を開いた。

 その瞬間、シンデレラのお面に空気が当たり、ふうっと音がした。優しく深呼吸したような息の音だった。

「そんなことないよ。……それに、ミーも不登校だからさっ」

「え……? そうなんですか?」

「うん」

 シンデレラは、窓の外の真っ青な空を見上げ、ちょっとだけ黙ったあとに、再び話し始めた。

「あのなー、フジコォ……ミーはね、冒険が好きなんだよ」

「ええ、前にも聞きました」

「うん、ミーはね冒険が好きですきでたまらない。でも、学校にいると外へ冒険に行けない」

「だから、ふ、不登校なんですか?」

 シンデレラは僕のほうではなく、空のほうを見てうなづいた。

 その横顔は、青空に似合っていた。

 そして僕は、自分語りを始めたのだ。シンデレラにどうも、言わなければならないような気がして。

「先輩、僕が不登校の理由……聞いてくれますか?」

「いいよ。ミーも気になっていたところだし」

 僕は昔の僕を思い出した。教室の、窓際の僕。


「僕は、幼い頃から絵ばっかり描いていたんです。幼稚園、小学校の間は絵がちょっと……人よりほんのちょっと上手い僕をみんなはもてはやしてくれました」

 僕は小学校の頃の僕を瞼の裏に見た。僕の机の周りに『次は○○描いて』と言う、クラスメイトたちが集まる。

「けど、中学校に入ってからは、みんなの僕に対する関心は薄れていきました。ここは、私立で受験校だから、僕の知ってる人が少ない……ということもあったかも知れません。まあ、もし昔のクラスメイトがいたとしても、僕は置いてけぼりだったでしょう。みんな自分のことに忙しくなるはずだし、僕の絵なんかよりもっと楽しいものがある」

 そして、僕の瞼の裏の記憶は、窓際の隅の席にいる僕。に、戻されるのであった。

「こうして、僕は1人になりました。絵を描くのが好きだった僕は、学校での1人が耐えられないのが8割、ずっと絵を描いていたいのが2割で不登校になったんです」

 それが、僕。

 僕は、寂しがり屋で、なのに自分からは人に寄り添うことのできない情けない人間だった。

「そうか……そうだな。人間すべてが上手く回るヤツなんていない……フジコも、ミーも……な。でも、思いどおりに上手く回そうしているヤツもいる」

「上手く……回そうとする?」

 それは、自分から行動して物事を上手く、自分の思いどおりにしようとしている人のことだろうか?僕は、すごいと思った。その0.1秒後くらいに自己中心的……という言葉を思った。

「そ。上手く回そうとする……あー、アノ人……スワンさんだよ」

「へ?」

「スワンさんだ……よ?」

 シンデレラの言葉は、意外……ということだけに尽きるのだった。

「な、なんでスワンさんが!? あの人はそんな人じゃあないでしょう!?」

「いや、そういう人だよ?」

 しれっとした顔でシンデレラはいった。

「あの人はね、片想いしてるんだよ。だから、ミーたちを呼んでこうしてお話会を開いているんだ。ミーは片想いを終わらせるための道具みたいなもんさあ」

「え? 片想い!? なんで、片想いを終わらせるためにお話会を開くんですか?」

「それはね……」

 それはっ!?

 これから!! と言う感じの展開にしてみました。

 次は、座談会メンバーの片想いについて書きたいと思っています。恋愛方面にいく感じに見えるかもしれませんが、大丈夫です。そればかりに行かせたりはしません。

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