「俺から婚約破棄するのは面倒だから、お前から婚約破棄してくれ」と言われたときの対処法
「俺から婚約破棄するのは面倒だから、お前から婚約破棄してくれ」
王家の庭園でバラに囲まれながら、耳を疑うような衝撃的な台詞を彼は平然と言った。
今回だけじゃ無い。財政管理の書類仕事が面倒だからと私に押しつけ、貴族とのコミュニケーションが面倒だからと社交界を押しつけ。いつもいつも私に押しつけて、自分では何もやらない。一国の王子とは思えないほどの責任感の無さ。それがメードリク王子だった。
わがままな性格と、わがままな肉体と。余すことなくわがままに育った彼に特に期待はしていなかったが、まさか婚約破棄すら面倒くさがるなんて。
「お前ってさ、真面目すぎて面白く無いんだよね。――お前と一緒にいるとさ、皆が何もしてない俺が悪いみたいに見てくるし。ぶっちゃけ、存在が面倒くさいんだよね」
呆れて言葉も出ない。公爵家との婚姻関係の重要性は王家でも教育されてきたであろうに、それを面倒だからと破棄するなんて。
「あぁ、もちろんお前に責任を押しつけるつもりはないよ。婚約破棄は俺の指示って言いふらして良いから。――でも、申請の書類とか、お前の家と折り合いをつけるのとか、やっといてよ。面倒だしさ」
鼻をほじりながらメードリクはそう言った。
「……かしこまりました。いつものように、適切な処分をしておけば良いのですね?メードリク様の名前を使って。念のため、その指示だけ一筆いただけませんか?もちろん内容はこちらで書いて送りますので、お名前と指紋印だけ。内容はしっかり確認なさってくださいね?」
「まぁそれぐらいはいいよ。後は全部任せたから」
覇気の無いメードリクの声。私は頭を下げると、バラの庭園を後にした。
******
ルーリから指示用の書面が届いたので、適当に流し読みをして、すぐにメードリクと名前を書き、指紋印を押して送り返す。
ルーリは面白くないほど仕事が出来る。その辺の文官なんかとは比べものにならないほど、真面目に、そして素早く仕事をこなす。婚約破棄も、何事もなく完了するはずだ。
いや、完了するはずだった……
「メードリク様!大変でございます!」
「何?今ダラダラするので忙しいんだけど?」
「そ、それが、メードリク様とルーリ様が婚約破棄されることになって――」
「あぁ、いいのいいの。それ俺が命じた事だから。さすが仕事が早いな」
本当に便利で優秀だ。――そうだ。婚約破棄した今、どうせ暇を持て余しているのだから、侍従として雇ってやろう。そうすれば俺の快適な天国ライフが、さらに広がるに違いない!
「そ、そうではないのです!――メードリク様の命令により婚約破棄をするので、その対価として国庫の二割にも及ぶ金額が請求されているのです!」
国庫の二割?国庫は大体金貨百万枚だから……あの女、金貨二十万枚も要求しやがってるのか!?
「――な、なにぃ!どうなってやがる!そんな横暴まかり通るはずがないだろう!」
「で、ですが……なぜか国王はルーリ様のお話を真剣に聞いておられるようで」
「――あ、あいつ!変な事を吹き込んでいるに違いない!許せん!」
「現在国王とルーリ様は大広間におられます。今ならまだ間に合うかと」
その言葉を聞いて、俺は広間へと駆け足で移動する。久しぶりに走ったら、すぐに体から悲鳴が上がり、汗がしたたり落ちてきた。でも気にしている暇などない。俺は懸命に走った。
広間には俺の父、国王ジャッジと、その目の前にかしずくルーリがいた。
「ゼーハァ……おいルーリ!聞いたぞ!多額の金を要求したらしいな!――確かに俺は婚約破棄の依頼はしたさ。でもな、適切な処理を頼んだんだ!誰が金を要求しろなんて言ったよ!」
ルーリは俺の声に顔を上げ、こちらをジッと見てくる。感情のこもっていない視線なのに、その奥底で、俺のことをバカにしているような気がしてならない。
「黙らんか、メードリク!」
「と、父さん!でも、あの女は不当に!」
「全てはお前が招いたことなのだぞ!この書類を見ろ!お前がサインし指紋印を押したのであろう!」
父さんがそう言って、数行に線が引かれた紙を差し出してくる。紛れもない。俺がサインした紙だ。
線が引かれている部分には、こう書かれていた。
『……婚約破棄する理由を発生させた者は、被害を受けたペアに対して、今まで婚約した時間に見合った謝礼金を渡すこと。なお謝礼金額は、被害を受けた者の所属する家の稼ぎと、婚約していた年数を掛け合わせた物とする……』
「な、なんだよこれ!」
「公爵家の年の稼ぎは金貨二千枚はくだらん。そしてお前とルーリ嬢が婚約していたのは十年以上。――つまり、お前は最低金貨二万枚の契約書にサインしたのじゃよ!」
「こんなの無効だ!俺はこんなの知らないぞ!」
「黙れ!じゃったら、その名前は何じゃ!指紋印は何じゃ!――今のお前がすべきことは言い訳などではないわ!頭を下げろ!この馬鹿者め!」
ルーリはこちらを見下したような目で、ジッと見つめる。クソ!クソ!どうなってんだよ!この前まで、俺が見下す側だったのに。なんでこうなったんだよ!
ルーリがツカツカとこっちに歩き、口を俺の耳元に近づけ、こう囁いた。
「ぶっちゃけ存在が面倒くさいのでしたっけ?……この国にとって面倒くさい存在なのは果たして誰なのでしょうね?」
ニコリと笑みを浮かべるルーリ。俺は彼女に何も言い返すことが出来なかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!少しでも面白いと思ってくださったら、ブックマークと下の☆で評価をしてくださると嬉しいです!
応援宜しくお願いいたします!




