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シンギュラリティ・スキャン  作者: wins


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シンギュラリティ・スキャン

「自閉症」や「サヴァン症候群」と呼ばれる、極端な才能を持つ人々。

彼らが持つ能力—一度見たものを写真のように完璧に記憶する力、複雑な機械の構造を一瞬で理解する力、空気の微かな振動から未来の出来事を予測する鋭すぎる感覚—が、このデジタル社会の最も重要なシステムを、あっという間に破壊した。

『シンギュラリティ・スキャン』


— 特殊能力者を利用した次世代兵器開発の闇 —


プロローグ:普通の顔をした悪夢


西暦2058年。世界は、一見すると平和で便利になったように見える。情報技術は進化し、誰もがスマートデバイスを通じて世界と繋がる。しかし、この便利さの裏側には、「監視」という名の冷たい綱が張り巡らされていた。


この厳重な監視社会が生まれるきっかけは、数年前に起きた「大分断ザ・グレート・ディバイド」と呼ばれる、世界規模のサイバーテロ事件だ。


テロの首謀者は、驚くべきことに、現代で「自閉症」や「サヴァン症候群」と呼ばれる、極端な才能を持つ人々だった。


彼らが持つ能力—一度見たものを写真のように完璧に記憶する力、複雑な機械の構造を一瞬で理解する力、空気の微かな振動から未来の出来事を予測する鋭すぎる感覚—が、このデジタル社会の最も重要なシステムを、あっという間に破壊した。


世界は恐れた。

「彼らの能力は、人間の知性を超えた、予測不能な『究極の兵器』である」

と。


テロの後、世界を牛耳る国際的な秘密組織「アークナイツ(Arknight’s Initiative)」が、ひっそりと結成された。彼らの任務は、未来の脅威となる特殊な能力を持つ人々(通称:スペクターズ)を、「保護」という名目で集め、管理下に置くことだ。


だが、その実態は恐ろしいものだった。アークナイツは、集めた才能ある人々を、人間として扱うことをやめ、「生きた特殊兵器」として利用するための、冷酷な訓練と実験を行う地下施設だ。


この物語は、その施設に閉じ込められた、心を閉ざした一人の青年と、彼の能力に魅入られた組織の闇から始まる。




第一章:絶対視野の青年


1. エージェント・ゼロの隔離室シキ


部屋は、何もかもが白く、音を吸収する特別な素材でできている。外界の刺激を極限まで排除した、まるで病院のような無機質な箱だ。


「被験体A-72、準備完了」


冷たい合成音声が響き渡り、重いドアが開いた。部屋の中央に座るのは、シキというコードネームで呼ばれる26歳の青年だ。

彼の能力は「絶対視野アブソリュート・ビジョン

彼の目には、世界が超高精細のカメラで捉えたかのように、恐ろしいほどの鮮明さで映る。


彼は、アークナイツのエージェント・ゼロ。

生きたスキャナーである。


「シキ。今日の任務は、『鏡像ミラージュ』作戦のシミュレーションだ」


ガラスの向こう側から、組織のトップであるドクター・イゾラが話しかける。

シキには、イゾラ博士の声に含まれるわずかな震え、そして彼が着ているスーツの繊維から立ち上る微細な化学物質の匂いまでが、鮮明に届く。


イゾラ博士は、古びた街並みの航空写真をホログラムで投影した。


「この写真から、テロリストが地下に隠したサーバーの手がかりを見つけ出せ。君の能力で、『過去の現実』に隠された『現在の痕跡』を読み取るのだ」


シキは感情を表さず、静かに写真を見つめた。


彼の脳内で、その写真のデータが何千倍にも拡大されていく。まるで、最高級の顕微鏡を覗き込んでいるかのようだ。


見えるもの: 一軒のアパートの屋根に、わずかにある「汚れ」。


シキの解析: その汚れは、ただのゴミではない。特殊な「ステルス塗料」が、下から昇ってくる微かな熱によって、分子レベルで変質している痕跡だ。


「...屋根のひび割れ部分に、熱による塗料の劣化を検出。これは、この真下に、極めて高温を発する装置が、長時間置かれていることを示唆する」


シキの報告は、まるで高性能AIの出力結果のように、完璧で無駄がない。


イゾラ博士は満足げに頷いた。

「素晴らしい。その熱源の真下に、連中の秘密のデータ基地がある。さすがは、我々の『神の目』だ」



2. 恐ろしい上書き(クオン)


シキの次の任務は、彼が見つけた「熱による劣化」という弱点を、隠蔽することだった。


次に部屋に入ってきたのは、クオンという小柄な少女。

彼女は「エージェント・ベータ」。能力は「絶対造形アブソリュート・シェイピング」。


彼女は、空気中の目に見えない微粒子や、水蒸気、排気ガスの分子を、まるで彫刻家が粘土をこねるように、意志の力で動かすことができる。


「クオン、シキが見つけた劣化部分を、なかったことにするんだ。敵の監視ドローンがスキャンしても、20年前の、何もない屋根として認識できるように、空気中の粒子で、完璧な『偽装の膜』を作りなさい」


クオンは怯えた目で空中に手をかざした。この任務は、彼女の命を削る行為だ。

「存在しないもの」を、「完璧に存在する」ように見せかけるのは、彼女の脳に想像を絶する負担をかける。


少女の力が最高潮に達した瞬間、シキの「絶対視野」は、屋根の劣化が一瞬で消え去り、完璧な偽装が施された様子を捉えた。敵のドローンは、何の異常も検出できないだろう。


しかし、その瞬間、クオンは意識を失って倒れた。


そして、シキは、絶対視野で彼女の能力の放出場所をスキャンした時、恐ろしいものを見た。


倒れたクオンの背後、彼女が作り出した「偽装の膜」が、一瞬だけ、透明な「影」のような形になって、空間に張り付いていたのだ。まるで、この世界の「現実」が、彼女の能力によって歪んだ跡のように。


イゾラ博士は、倒れた少女を気にも留めず、作戦成功に酔いしれる。


シキは、この「影」を、脳内のデータとして記録した。


(データ分析:完了。この現象は、能力の副作用ではない。これは、クオンの認知が、この世界の物理法則を、一時的に「上書き」した際に残る、エネルギーの残滓だ。)


シキの冷たい心に、初めて「恐ろしさ」という感情が、データとしてではなく、警告として刻まれた。


彼は気づく。自分たちは、単なる兵器ではない。この施設アークナイツは、「現実を歪める力」を訓練し、利用している、悪夢のような工場なのだと。


シキは、この「檻」から逃げ出し、クオンの命を救うことを決意する。

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