変じゃないだろ
人のことを、考える。
最近、世界に対してストックホルム症候群になってるのでは。
なんて考える。
定義もくそもない言葉だけど。
思い返してみれば、めっちゃ怖くて、すぐ怒る先生とか、なんか好きだった。
まぁ、そういう言葉が広まったってことは、みんな、心当たりがあったんだろうね。
なんでこんなこと考えてるか?
それはね…
『お前、いい加減にしろ!』
絶賛、怒られてるからだね☆
『いつまでかかってる!俺は急いでるんだ!』
わぁ、すっごい主観の意見。
『はい。遅れてすいません』
そういって、袋を差し出す。
すると、ひったくるように掴んでいった。
『結構急いだつもりだったんだけどな』
まぁ、急いでるときって、信号も煩わしくなるし。
事情は知らないけど、間に合うといいね。
…そんなに大事なら、コンビニに寄るなよ。
たばこと昼飯ぐらい我慢しろよ。
なーんて考えてると、次の客が来る。
ああいう人がいると、時間が早く過ぎるから、ありがたいね。
『袋要りますか?』
『大丈夫です』
さっきとは打って変わって、静かな声。
レジを打つ。
特になにも起きなかった。
『ふぅ~』
…大丈夫ですって、何なの?
分かりづらくない?
いらないです、って直接的にいわれた方が、拒否された気がして嫌なのか…?
『…分からん』
しばらく、客は来なかった。
暇と、そうじゃないときとで差が激しいね。
まぁ、接客以外にもやることあるんだけど。
チリン。
『やほ』
聞き覚えのある声。
『お』
顔を上げた。
たまにくるんだよなこいつ。
『暇なの?』
『客だぞ。丁重に扱え』
そういって、コンビニ内を歩きだした。
…なに買うかも決めずに来たな、こいつ。
『今日さ』
遠くから声が飛んでくる。
『なんか、機嫌悪くない?』
『さっき、ムカつくことがあった』
『それは?』
『じじいに遅いって怒られた』
『ははっ。かわいそ』
なんだこいつ。
『そういうこともあるよね』
適当に棚を見ながら言った。
本当に視界に入ってるのかな。
『ほい、よろしく』
おにぎりと飲み物。
それをレジに置いた。
『袋要りますか?』
テンプレ。いつも通り。
『要らん』
バーコードを読み取る。
『少し話そうよ』
レジを打ちながら聞く。
『本当に暇人なんだね』
『んやぁ?一番面白いから、来てるだけ』
『見せ物じゃないんだけど』
『そう?』
そういって、目の前でおにぎりを食べ始めた。
『…いや、駄目でしょ』
『はんで?』
『イートインはあちらです』
『ほかのひゃくがきたらいどうするよ』
もぐもぐ。
普通に食ってる。
『飲み込んでからしゃべりなさい』
『んくっ。ハーイ』
『そんで?何話したいわけ?』
『んー』
飲み物を開ける。
炭酸。
私は嫌いなんだよな。
『さっきの話』
『どれ』
『怒られたやつ』
『ああ』
そんな、気になるほどのことじゃないと思うんだけど。
『遅いって言われただけ』
『怒鳴られたんでしょ?』
『まぁ』
『理不尽じゃん』
『珍しくもないよ』
『んー?そういう問題?』
『あー。まぁ、頻度の話ではなかったね』
『なーんで。責めないかね』
『面白いしね』
『んふっ。一番馬鹿にしてるぞ』
少し笑いながら言った。
『そう?』
『そうだよ』
飲み物を一口。
『だってさ』
『うん』
『相手の行動の理由、考えてるでしょ』
『え?いや、考えるでしょ』
『いや、なんで怒鳴られた側が、怒鳴った側の事情を考えてるんだよ』
『普通じゃない?』
『普通じゃない』
即答だった。
『普通はさ、「なんだあのジジイ」ってなるの』
『なってるよ』
『なってないね』
また飲み物を一口。
炭酸の音が、小さく弾けた。
『だってお前さ』
『うん』
『コンビニ寄るくらいなら急ぐなよ、とか考えてるでしょ?』
『うん。そりゃ、そうでしょ』
『そりゃ、怒ってない』
『いや、怒ってるよ』
『いや。分析して、叱ろうとしてんだよ』
『…何が違うの?』
『怒るってのはさ』
少し考えるように、天井を見た。
『もっと、雑なもんだよ』
『雑?』
『うん』
『ムカつく』
『なんだあいつ』
『最悪』
『そんだけ』
『…語彙力どこに置いてきた』
『怒るってのは感情だよ?語彙力なんかいらん』
『そうかな』
『そうだよ』
チリン。
ドアのベルが鳴る。
新しい客が入ってきた。
『お。私はお暇しようかね』
『帰れ帰れ。変人』
『おっ。ブーメラ~ン』
そう言いながら、空きボトルを軽く振った。
『ちゃんと捨ててってよ』
『分かってるって』
ゴミ箱に、ぽい。
『また来るわ』
『来なくていいよ』
『冷たいなぁ』
そう言いながら、手をひらひら振る。
チリン。
ドアが閉まった。
静かになった。
『袋要りますか?』
『お願いします』
レジを打つ。
普通の客。
普通の会話。
普通の音。
ピッ。
『ありがとうございました』
ドアが開く。
チリン。
ドアが閉まる。
また、静か。
『……いや、変じゃないだろ』
曲作ってみたい。




