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8話「悪魔に喧嘩を売ったものの末路」ざまぁ



――クロイツ商会の会長、ゲオルグ・クロイツ視点・ざまぁ――




ワグナー商会のルイーゼが借金を返済しに来た。


まさか短期間で金を用意するとはな。


離れに住んでいた胡散臭い魔術師が知恵でも貸したか?


言いがかりをつけて借金の額を増額すればよいだけだ。


金色の髪にサファイアブルーの瞳、あれだけの上玉はそうはいない。


三年前はまだ子供っぽさが残っていたが、麗しく成長し、今や王都でも指折りの美女だ。


司祭や侯爵閣下が是非にと望んでいる女だ、逃がすわけにはいかない。


しかもワグナー商会と家屋敷もセットでついてくる。


三年前にやつの父親に貸した金が、大金になって帰って来る。


いい時に死んでくれたもんだ。


商会をまとめて調子付いてるようだが、まだ十八歳の小娘だ。


こちらの要求を飲めないようなら、力ずくで……。


そう思っていたのだが……。


ルイーゼの肩に鷲のようなライオンのような生き物が、手下をみんなやっつけてしまった。


謎の生き物は俺の頭の上に降り立ち、「言う通りにしないと、お前の頭蓋骨に穴開けて脳みそ吸い取るぜ!」と言って頭をつついてきた。


激痛が走り、本当に頭蓋骨に穴が開けられるのではないかという恐怖にかられた。


俺はルイーゼから金を受け取り、借用書を彼女に手渡した。


「これでワグナー商会の借金はなくなりました!

 もう二度と、家の商会に手を出さないでください!」


ルイーゼは俺を見据え、そう言い放ったあと帰って行った。


「くそ! 小娘が調子に乗りやがって!

 あの鳥さえいなければ、あんな小娘にしてやられることはなかったのに!!」


ルイーゼが帰った後、俺は手下を叩き起こした。


「こうなれば最終手段だ!

 ルイーゼの家に乗り込み、奴を誘拐してこい!」


正攻法がダメなら非合法で手に入れるのみ!


「ボス、いいんですか!? そんなことして?」


「俺の背後には司祭様とエッセン侯爵がついてるんだ心配するな!」


俺は表向きは商人だ。

出来るだけ正攻法に見える手段を使っている。

しかし、最終的には手段は選ばない。


「あの女は、法務大臣のエッセン侯爵に献上し、閣下が飽きた頃合いを見て引き取り、娼館に売り払う予定なんだ!

 逃がすわけにはいかない!

 娼館に売り払う前に、俺もちょっと楽しませてもらうがな。

 ゲヘヘへ」


「いいなぁ、ボス。

 俺達にもおこぼれをくださいよ」


「やかましい!

 そういうことは仕事をこなしてから言え!」


部下を怒鳴っていた時、稲妻が走り、窓が勢いよく開いた。


突風が吹き込み、思わず目を閉じる。


俺が目を開けた時、室内に黒い髪に赤い目の男がいた。


年の頃は二十代前半の優男だ。


「ボス、こいつです!

 市場で舐めた商売したくそ野郎です!」


「お前か、うちの部下を可愛がってくれたのは!」


「ボス、気を付けてください!

 こいつ、おかしな術を使います!」


「こっちには人数がいるんだ!

 やっちまえ!!」


俺以外の全員が一斉に男に飛びかかった。


しかし、次の瞬間には全員が床に伸びていた。


一瞬のできごとだった。


「なっ、何をした!

 お前いったい何者だ!!」


先程の鳥にやられたダメージが残っていたとはいえ、ここにいるのは手練ればかりだ!


それを指すら使わず、一瞬で倒しただと……!?


男がこちらを向いた。


奴は殺気の籠もった酷く冷酷な目をしていて、裏社会に精通している俺が恐怖で腰を抜かすほどだった。


やつが「悪魔だ」と名乗ったら、俺はそれを信じただろう。


「わしの名前はヴィルヘルム・シュタイン。

 元帝国の魔術師だ」


「て、帝国の魔術師……カイザー・マギア(皇帝の魔)の一員だったというのか……!」


カイザー・マギア(皇帝の魔)は表向きは、帝国の治安を守る魔術師団だ。


だが真の姿は、皇帝の命令に忠実な暗殺集団だ。


皇帝の命令があればどんな非道なことでもする恐ろしい集団だ。


魔術師一人の能力は、王国の一小隊にも匹敵すると言われている。


「ヴィルヘルム・シュタイン……聞いたことがある!

 最年少で魔術師試験に合格した天才でありながら、

 三年前に帝都を破壊しかけた闇の魔術師!」


「噂とは厄介だのう。

 いつの間にか尾ひれがつき、

 このような小国にまで届くのだから」


男が小さく息を吐いた。


「わしはちと皇帝と意見が合わず、魔術師団と対立して、帝都の一部を破壊しただけだというに……。

 そのせいで魔術師団を首になり、国外追放になったがのう」


充分イカれている!


「クロイツ商会に喧嘩を売ってただで済むと思っているのか!?

 俺の背後にはど偉い人物が二人もついているんだぞ!」


魔術師一人を恐れることはない!


「その仲間とは、トーマス司祭のエッセン侯爵のことかのう?

 奴らならわしの拷問に耐えかねて、全ての罪を自白したぞ」


「……!」


言葉が出なかった。


トーマス司祭もエッセン侯爵も、商人である俺にとっては雲の上の存在。


その二人を拷問した……?


化け物だ……!


「か、金が欲しいのか? 金ならいくらでも」


「そうか?

 では遠慮なく頂いておくとしよう」


よかった! 金に転ぶ奴だった!


「お主が非合法な手段で集めた金は、持ち主に返す。

 わしが魔草漬けにしてしまった人たちの解毒治療のついでにな」


心臓がぎゅっと握られるような感じがした。

こいつは俺を許す気はない……! そう直感した。


「だが金だけでは足りんな。

 お主が犯した悪事を洗いざらい吐いてもらおうか?」


「言います!

 何でも話します!

 なんなら関わっていた人物のリストも提供します!」


上位互換の人間には媚を売るに限る!


俺は床に頭を擦り付け、奴に許しをこう。


「殊勝な心がけだ。

 しかしのう。

 トーマス司祭とエッセン侯爵には拷問を加えたのだ。

 仲間であるお主にだけ拷問せぬのは不公平。

 ここは公平に拷問にかけようかのう」


顔を上げると男がニッコリと笑っているのが見えた。


悪魔だ……!


俺は悪魔を怒らせたんだ!


どうしてこうなった!


ルイーゼに目をつけたのがケチのつきはじめ!


こんなヤバい奴がいると知っていたら、ワグナー商会なんかに手を出さなかったのに!!


後悔したが後戻りはできなかった。





◆◆◆◆◆





その後、ブリュー王国。




貴族や商人が王宮に出頭し、自ら罪を告白するという事件が相次いだ。


彼らは口を揃えてこう言った。


「悪魔に脅された! 地獄に落ちるくらいなら、牢屋でも鉱山でもどこにでも行く……!!」と……。


彼らに濡れ衣を着せられて鉱山に送られていた人たちは、王都に帰ってきた。


入れ違いに、本当の罪人が鉱山に送られた。


罪人達によって、不当な手段で没収されたお金は、元の持ち主の元に返されたという。


鉱山では人の入れ替わりが激しかったので、魔術師が一人消えたことなど、誰も気に留めなかった。








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