3話「お主らの相手など野菜で充分じゃ!」
夕方――。
「完売じゃ!
夜になったら、奴らの畑を無断で拝借して野菜の栽培をせねばのう!」
何気に畑を耕すのに一番苦戦している。
わしは肉体労働には慣れておらんのだ。
「それにしても……。
一晩で作物が育つなら、今までなんでやらなかったんだ?
食費を出さないなら、せめて食料を提供するのが礼儀ってもんだろう。
この無駄飯食いの穀潰し」
イグナツは時々辛辣だ。
わしとて、三年間居候したことを心苦しく思っておる。
だからこうして恩返しの為に働いておるのであろう。
「この野菜は成長が早いが、いくつかの欠点があるのだよ」
「欠点?」
「畑の栄養分を食い尽くして育つのだ。
わしが野菜を栽培した土地は、数年は稗すら育たぬだろうな」
「思ってたよりヤバいデメリットだな。
ドン引きだぜ」
イグナツがわしの肩から飛び立つ。
頼むから哀れな者を見る目でわしを見るな。
「まあそう言うな。
だからクロイツ商会の畑を無断で借用したのだ。
奴らが困る顔が目に浮かぶようだ」
わしが声を上げて笑うと、イグナツが「悪魔の笑いだ」と囁いた。
そのとき、三人の男が店にやってきた。
大柄な男に、前歯の長い男に、背筋を丸めた男。
昼間、遠巻きに店を監視していた奴らだ。
「悪いが、今日は完売した。
また明日来てくれんかのう」
「俺達は客じゃねえよ」
人相や風体からして堅気ではないのは確かだ。
「お前、クロイツ商会の縄張りで、ずいぶんとなめた商売をしてくれたじゃねぇか」
大柄な男がテーブルを蹴飛ばした。
おおかた、クロイツ商会に雇われたごろつきの類だろう。
「お前のせいで、野菜や果物が売れ残っちまったそうだ!
責任取って定価の十倍で買い取りな!」
男がテーブルの上に足を乗せ、わしの胸ぐらを掴んだ。
「つまらぬな。
親玉が出てくると思ったら、釣れたのは雑魚三人か」
「ざっ……なんだと!
この野郎!
もういっぺん言ってみろ!!」
「そう怒るな、雑魚に雑魚と言っただけだ」
「てめぇ!
痛い目を見ないとわからねぇようだな!」
「わしは忙しい、今から畑を耕さねばならんからのう。
お主らの相手など、これで十分だ」
わしは大根とじゃがいもと人参を奴らの顔に向かって投げつけた。
このような時のために、一個ずつ残したのだよ。
「わしの作った野菜たちよ、今こそ本来の姿を示せ!
こやつらは、お前らを調理して、おいしい料理にはしてくれはせぬ!
お前らが奴らを調理するのだ!」
わしがパチンと指を鳴らすと、人参と大根とじゃがいもがみるみる膨らんでいき、あっという間に大男よりも大きくなった。
男たちは巨大化した野菜を見て「ひっ……!」と声を上げ、逃げ出そうとした。
巨大なじゃがいもや人参や大根から手と足が生え、男たちを走って追いかけた。
「わしの作った野菜の欠点その二。
わしが魔力を込めると魔物化するのだよ」
野菜は見た目より足が早く、男たちはあっという間に捉えられ、野菜にボコボコにされる。
「お前たち、もうよい元に戻れ」
わしが指を鳴らすと、野菜は元の大きさに戻った。
イグナツがテーブルに降り立ち、冷たい目でわしを見る。
「お前やっぱ、魔術師じゃなくて悪魔だろ」
「酷い言いわれようだのう」
「野菜が巨大化して民間人を襲ったらどうすんだよ」
「案ずるな。
わしが魔力を込めねば巨大化せぬよ。
他の野菜たちは今頃、食卓で美味しく食べられていることだろう」
育てた土地の栄養分を吸いすぎる欠点を除けば、優秀な食物なのだよ。
「さて、ゴミ掃除も終わったし、畑に向かおうかのう」
わしは今日の稼ぎを袋に入れ、畑へと向かった。
ごろつきは放置しておけば、勝手に家に帰るだろう。
「こんなところに野菜が落ちてる!」
通りかかった少年が、元の大きさに戻った野菜を見つけ、嬉しそうに拾っていった。
美味しく料理してもらうのだぞ。
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▶『妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される』
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コミカライズ版でも、リアーナとアルドリックの物語をお楽しみいただけると幸いです。
作画:茶賀未あと先生
原作:まほりろ
配信先:コミックシーモア(先行配信)
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リアーナとアルドリックが猫カフェに行くお話です。
コミカライズ配信前に完成していたのですが、投稿するタイミングを完全に見失っておりました。
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