2話「商いは売ったもん勝ち!」
その夜、クロイツ商会の所有する畑――。
「大丈夫なのかヴィル?
嬢ちゃんのためだからって、かっこつけて、結局上手くいかなくて後で恥かいても知らないぜ」
イグナツがわしの頭の上を旋回しながら、口うるさく鳴いておる。
「まあ見ておれ。
こんなこともあろうかと用意していたアイテムがあるのだ」
わしは畑に畝を作り、麻袋から種を取り出し、畑にまいていく。
意外と重労働だのう。
明日から悪魔を召喚して奴らにやらせるか?
いや、種は繊細だ。悪魔に扱えるとは思えん。
それに、奴らの魔力が種にどんな悪影響を与えるかわからんからのう。
「そこまで言うなら策があるんだろうな?
どうやって借金を返すつもりだ」
「野菜を育てて市場で売るのじゃよ」
「正気か?
借金の返済期日は一ヶ月半後だぜ?
悠長に野菜なんか育ててたら間に合わないぜ」
「普通の野菜なら間に合わんだろうな」
「普通じゃない野菜の種があるっていうのか?」
「わしを誰だと思っておる……」
植えたばかりの種が芽を出し、しなるムチのような勢いで蔦を広げ、葉を広げ、次々に花を咲かせていく。
「稀代の天才魔術師だ。
植物の品種改良など朝めし前よ」
イグナツはその様子を、ポカンとした表情で眺めていた。
鳩が豆鉄砲ならぬ、グリフォンが蔦のムチを食らったような顔をしておるわい。
「さぁて、収穫といこうかのう」
あっという間に実をつけた野菜を、アイテムBOXに収納していく。
さぁて、明日の市が楽しみだわい。
◆◆◆◆◆
翌日、市場――。
「安い安いよ!
じゃがいもが一つ、たったの五ギルだ!
買わなきゃ損だぞ!」
わしは市場の一角に店を構え、客に向かって声をかけていた。
「じゃがいもが一個五ギル?
安いわ!」
「見ろ、大根が一本十ギルだぞ!
二本くれ!」
「俺にも売ってくれ!」
「人参が一本三ギルだって!?
私も買うわ!」
「わしにはかぼちゃをくれんかのう!」
「焦るでない!
順番に並ぶのじゃ!
横入りは禁止じゃぞ!」
通常の1/10の価格設定なので、売れ行きは上々だ。
「おいおい、いいのかヴィル?
そんな安価で販売して?
元がタダとはいえ、大して利益になんねぇぜ。
これじゃあ、来月末まで借金を返せないぜ?」
イグナツがわしの肩に止まり、ジト目でこちらを睨む。
「構わん。
最初はこれで良いのだ」
わしは口の端を上げた。
「うわっ! 悪魔の笑みだ。
久々に見たなお前のその顔」
失礼な! 天使のような極上スマイルを、悪魔とはなんだ!
「まあどうでもいいが、こんなに安価で販売したんじゃ、近隣の店は商売上がったりだろうな」
イグナツが他の店を翼で指した。
肉屋や魚屋には人がおるが、八百屋や果物屋は閑古鳥が鳴いておるようだ。
八百屋のいかつい店員が人を殺すような目でこちらを睨んでおる。
「問題ない。
それも計算のうちだ」
八百屋の店員とは別に、遠巻きにわしの店を見ている輩がいる。
体が大きく人相が悪い。堅気の人間とは思えぬ。
「ここはクロイツ商会の縄張りだからな。
奴らの店が一軒や二軒や三軒や四軒……潰れようが構わん」
「あくどいな。
奴らに闇討ちされても知らねえぞ」
「それこそ、こちらの思うツボさ」
「怖い怖い。お前だけは敵に回したくないぜ」
イグナツが翼で自身の体を包み、ブルリと体を震わせた。
「まあ、夜になれば分かるさ」




