チェリーブロッサム
長編を書くのは初めてです。
甘い目で見てください。
一つ前のお話読んでもらうとわかりやすいと思います。
ここから読む方向けに前回のあらすじだけ。
主人公ライラックはテイマーとしてゆくゆくは国軍に就職できる学校を受験する。そこで出会うキャメリアという先輩が忘れられない。
というところでした。ざっくりですが。
それでは、みなさま、お楽しみいただけますように。
冷気が肺に刺さる。試験日に比べると少し暖かく春の兆しを感じるがそれでもまだ冷たい。試験日はご褒美に美味しいご飯をたんまり食べて鱈腹寝た。受かっているかどうかなんて気にする余裕もなかった。頭の中は合格してからのワクワクした生活で満たされていた。取らぬ狸の皮算用とはまさにその通りだろう。
「ミハル、今日の夜には出発するからね。ちゃんと寝とくんだよ。」
『わかってるよ〜!今回はパパもついてくるんでしょ?だから大丈夫!』
「本当に〜?」
『ほんと!』
「わかったよ。じゃぁゆっくり休んで備えててね。結果は後で伝えるから。」
まだ幼いミハルは未知の旅に大変興奮している。見かねたライラックの両親は使役獣でミハルの父親であるベイリルを同行させることにしたのだった。
少し大きめのトランクに3日分の洋服と非常用の缶パン
最近便利グッズとして発売された持ち運び地下シェルターも落ちない場所に仕舞ったら旅の準備は終了だ。
生まれてまだ15年。
実家の牧場から出たことはほとんどない。
ここから見える大きな山もまだ見たことのない海も山の中に存在していると噂の湖だってまだだ。
ここで暮らしていると聞こえてくるいろんな動物の声が自分を呼んでいてどこにも行かなくたって代わる代わる冒険談を聞かせてくれた。
今度は自分が冒険に出る番で危ない目に遭うこともあるだろうし、その分楽しいこともあるだろう。
年季の入ったトランクは以前父が都会で使っていたものだという。そもそもその都会だって先日の試験で行ったくらいで初めてに等しいのだ。試験に必死すぎて街並みだってあまり覚えていない。
「…そうだな、ミハル、少し早いけど学校に行ってくるよ。試験結果を聞いて必要なものを街で集めて、それが終わったら出発しよう。」
深呼吸をして呼吸を整え扉を開けた。
家から学校までは空を飛んだとして1時間距離だ。近いとは言えないが、遠すぎるわけでもない。
ましてやミハルに乗れば15分ととても近い。今回は観光も兼ねているのでミハルには充分休んでもらうとしてその辺りの貸出箒でも借りよう。
適当に拾ったその辺りの貸出箒を見る
綺麗なものより少し曲がった物が自分的には好ましい。
「お!ライ〜!!今から試験結果見に行くんか〜?俺も行く〜!!」
「おはよう、プル。いいけど、今日はミハルなしで箒だぞ。」
「珍しい!」
幼馴染のプルメリアは、生まれた場所も時もほぼ同じ。一生涯こいつだけは側に居続けてくれるだろうという確信さえある。学校も同じところを受験している。…まさかこれでどちらかが落ちるなんてことは、ないと信じたい。少なくとも落ちるとしたら自分の方でプルメリアはそもそもが大変優秀なのだ
「緊張するか?」
「…少しな。」
「そりゃそうか。肝が据わってるライ君にも怖いものはあるわな。」
人付き合いが苦手だからプルメリアしか友人と呼べる人はいないというのに、どう見たら肝が据わっているのだろうか。
「今日はちょっと観光して帰る。一緒に来るか?」
「いや、今日は帰るよ。きっと親が準備万端で待ってるから。」
「受かる気満々だな。」
「手応えあったし。いけるだろ。」
肝が据わっているのはプルメリアの方ではなだろうか。とはいえ少しばかりの緊張はあるのかその後はとても静かだった。
学校には受験していたほとんどの学生が訪れる。
早く結果を知りたい者ばかりで、開示時刻30分前だというのに人だかりができあがっていた。
この学校の結果は少し複雑だ。
筆記試験・実技試験、共に数値化され数値の高い者は受かりやすい。しかしそれは、受かりやすいかどうかの基準であり、受かるとは言えないのがこの校の特徴だ。
筆記・実技が優秀だとして、国軍に入るためには魔力を増やしていけるだけの許容量が必要だ。最終、国軍に就職することを考えているこの学校では、今後の成長具合を測る検査が行われる。その検査も数値化され、筆記・実技よりも重たい配点で評価され。能力開花に個人差があるこの世界で非常に重要な評価基準となっている。この制度のおかげでこれまで落ちこぼれとされてきた生徒が合格し開花していくケースはここでは良くあることだ。
合否は受験者が学校を訪れた際に自動的に受け取れるようになっている。クラス毎の受験人数と順位、および合格者数が受験時使用したリストバンドに表示されるシステムだ。合格順位が合格者数内に収まっていれば合格。文字で合格と出ない辺り、少しわかりづらい。
ライラックは周りを見回した。
同じテイマーがこの学年に何人いるかは検討もつかない。この人だかりがざっと300人くらいだとするとそのうちの殆どが炎や水などを操ることを専門とする魔導士だろう。次に多いのが詠唱師、最後がテイマー。
魔導士が必要とされる場面も多い分、合格者の枠も少し多い。逆にテイマーはそもそもの数が少ない分枠も3枠程度だ。今年の合格者がもう少し多いといいのだが。
「ライ、あの子、知り合いか?先輩だろ?」
彼が指を差した先にいたのは受験会場で出会ったキャメリアという名前のクールな先輩だ。
「あぁ、あれだよ。紅茶を差し入れしてくれた人。あの人もたぶんテイマーだ。血族はちょっとわからないけど。たぶん召喚師だな。」
キャメリアはまだこちらに気付いていない。
クールなのに少し天然そうな柔らかい空気がある。目が奪われた。
「綺麗な人だよな。」
「ライは好きそうだな。俺は好みじゃない。」
「可愛い系が好みだよな。」
「その通り。…そろそろ時間だな。」
手元のリストバンドが赤く光った。あと1分で開示される合図だ。
「…どうなっても、覚悟は決まってる。」
「そうだな。」
プルメリアとライラックは固唾を飲んでお互いを見た。
「「…きた」」
一瞬だけ青白い光を放ち、順位が出る。恐る恐る項目を見ていった。
クラス:テイマー
総受験者数:20人
合格者数:5人
順位:2位
緊張から解放されて頭が上を向く。
想像以上に受験者数がいる中で良い順位をもらえたことは本当にラッキーだろう。
「…プル、どうだ?」
「…ライは?」
「2位だ。通ってる。見せてみろ。」
躊躇するプルメリアの手を引く。そこについているリストバンドを覗き込んだ。
「クラスは詠唱師、総受験者数・130、合格者数・35、順位…1位!?!?」
20人の中から1位を取るのと130人から1位を取るのでは話がかなり違う。
ポテンシャルもあるし勉強もできるしすごいやつだと思ってはいたが、まさかここで真価を発揮するとは。
「いやぁ…俺もびっくりした。言葉出なかったわ。」
「優秀だとは思ってたけど、ここまでとはな…。幼馴染としてなんだか誇らしいよ。」
「ありがとう…。まぁ体調良かった分のラッキー値もあるだろうけどな。」
微笑むプルメリアを見ていっそう気合いが入る。
「…どうしようかな、観光は、しないけど。入学に必要なものだけ買って帰ろうかな…。わざわざ来る必要もないし…。」
「俺は今から行って買って帰るよ。夜には出発するし。」
「そうだよな。一緒に行って買って帰ることにする。」
プルメリアが歩き始めたのに合わせて、ライラックも歩き出す。今後どうしたいか、どんな授業があるのか、街の中はどんな感じなのか、どうでもいいこともそうじゃないことも話をしながら学校の受付に向かう。合格者には必要な物をまとめたプリント、入学者用の学生証、今後の寮生活について、スケジュールなど、たくさんの資料が配布される。300人ほどいたはずの受験者の半数はもうすでにいない。落ちたと知って早々に帰ったのだろう。さらにその半数も多くは踵を返して立ち去ろうとしていた。
残るのは僅か80人程度。
受付に向かう者の少なさで自分のラッキーを実感し嬉しさが湧き上がる。
きっと長くかかるであろうプルメリアを先に行かせて一度見失ったキャメリアを探しに戻る。
今この嬉しい気持ちを彼女と共有したかった。
「キャメリアさん!」
「…どうしたの?」
凛とした声が耳に届く。
「合格しました。ハーブティーのおかげです。ありがとうございました。」
勢いのまま気持ちを盛って声を掛ける。
「よかったね。今日は鷹、連れてないのね。」
「はい。今夜、旅に出る予定なので。」
「そう。テイマーあるあるね。旅に出て、仲間を探す。」
「その通りです。」
「…気をつけて。次は桜の季節に会いましょう。」
小さな足音を立ててキャメリアは校内に帰って行った。その音がしばらく耳に残って離れてくれなかった。




