冬に咲いた向日葵のように
その日はとても寒かった。
数時間後に始まる入試、自分にとっては人生の分かれ道になる。家族のもとに戻って牧場経営をするか、王都で騎士団に入り街を守るか。もっと成功していれば研究者になるという手もある。牧場経営も悪くはないけど、いかんせん地味だ。それに世界を旅できるだけの自由はない。
ここを乗り越えて無事に高校に入学できれば、自由も金もより近くなる。
そう言い聞かせたとしても、普段とは大きく違う環境に体が強張る。
いつも周りにいた動物達も今日は自分の使役動物・鷹のミハルだけ。
「そうだ。ミハル、お腹減ってないか?小腹が空いてたらおやつあるぞ。」
『いらなーい。それよりライラック、大丈夫なの??そんな調子じゃいつもみたいに美味しい魔力出ないんじゃない?』
「やめてくれよ。縁起でもない。そりゃ緊張はしてるけど、大丈夫だよ。」
『ふーん。ま、いいけど。ミハル、美味しくない魔力、いらないからね?』
「なんだよ、わがままだなぁ。」
鷹とはいえ、まだミハルは子供。ざわざわとした気持ちが鎮まらない。
なんだか落ち着かない気持ちのまま、頭だけが勢いよく動く。考えれば考えるほど上手くいかないような気がしてくるのが人間の悪いところだ。
魔法族の中でもテイマーの数は少ない。その上テイム方法が血族によって違うことが特徴だ。筆記試験にも知識問題として出てくるだろう。
多くのテイマーは一家全員がテイマーであることが多い。もちろんそれは動物達が感じる魔力の味、つまり血液やオーラが遺伝していくことに関係している。動物達が好む血液やオーラが隔世遺伝で生まれ出ることはあるが大変稀なことだ。
『ライラック、誰か近づいてくるよ』
「…誰だろう。この学校に知り合いはいないけど…。」
『女の子だ!』
ミハルの興奮した声に後ろを振り返る。女の子と聞くと緊張してしまうのは男子高校生の性だろう。
「…こんなところで、彼らと喋るなんて余裕がないのね。」
冷たい空気を割く程に凛とした声で彼女は話す。
「…いつもとは違う環境で、こいつもなんだか緊張してるし俺も不安になっちゃって。」
「…そう。あなたが不安になると彼らも不安になるもの。ほどほどにね。」
「えっ、はい!ありがとうございます。」
「…これ、飲むと良いよ。」
そう言って水筒を差し出される。
「暖かいハーブティが入ってる。飲むと気分が落ち着くから。…じゃぁ、また学校で。」
手に握らされた水筒と彼女を見比べる。知らない人から貰ったものを今飲んでもいいものなのか。悩んでいるうちに彼女の姿はもう見えなくなっていた。
『ライラック〜、ねぇねぇ、やっぱりハーブティー効果あった???』
「うるさいよ、ミハル。まだ校舎内だから。」
筆記試験も実技試験も無事に終了し、興奮しきったミハルを宥める。とはいえ手応えがあった気がして自分も高揚を隠しきれない。いつもより早いペースで歩いて校舎を出る。あとは明日の結果を待つだけだ。
「なぁ、ミハル。僕はミハルと契約を結んでいて、ずっと一緒にいるだろ?」
『うん、そうだね?それがどうかしたの?』
「明日、もし合格していたら、入学式まで新しい仲間を探しに旅に出ようと思う。ちょっと疲れることもあるかもしれないけど、ついてきてくれるか?」
『もちろんだよ!新しい仲間、楽しみだね!ミハルが見定めてあげるっ!』
「頼もしい相棒だな。」
気分の高揚と共にずっと悩んでいたことをミハルに告げた。快諾が得られると予想はしていたが、新しい仲間なんて古参からしたら嫉妬の対象にもなり得る。
こればっかりはミハルのコミュニケーション能力の高さに感謝をしなければ。
「…試験、うまくいった?」
『あ、さっきの…』
「…キャメリア。よろしく。」
『僕はミハル!キャメリアも受験生なの?』
「こら、ミハル。失礼だろ。制服が上級生だよ。」
『あ、本当だ。』
「大丈夫、気にしない。」
ミハルと普通に喋れるということはテイマーの一族の先輩なのだろう。上下関係に厳しいと噂の学園の先輩に対して随分失礼な物言いに少し焦る。
とはいえ、このキャメリアという人は、本当にあまり気にしていなさそうだ。
「…試験、うまくいった?」
なかなか答えを返ってこないことに痺れを切らしたのか彼女は同じ質問を繰り返す。
「その節はありがとうございます。あのハーブティーのおかげでうまく切り替えができました。」
「そう…。じゃぁまた学校で。」
「はい…。受かっていればですが。」
「大丈夫。受かっていなくても、またいつか会えるはず。」
そう言って小走りで去っていった。その背中がなんだか見た目のクールさとチグハグで目の奥がチカチカする。初めての感覚だった。
テイマー
召喚獣か使役獣と協力し人間には出せない力を発揮することが可能、多くは血族によりその性質が決まる。稀に竜や虎の血が混ざった血族がおり、神格化されている。
ルクシミリア高等学校
魔法族の高校の中でもかなり優秀。
ここに通えば国軍に所属することも可能。
成績優秀者限定。
ミハル
鷹の子供
ライラックの血族に仕える使役獣である。
大きくなったり小さくなったりできる。普通の鷹ではないので、魔法が使える。
ライラック
主人公。男子。
ルクシミリアに入るべくミハルと共に研鑽を積んだ。
魔力を吸わせることで力を与えている。
初恋はミハルのお母さん。
キャメリア
ヒロイン。
謎が多い人物。クールで美人であることはわかった。ライラックはどちらかというと可愛いと思っている。




