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5.


今年は暖冬になりそうです、と言うお天気お姉さんの声がテレビから聞こえてきた時、陸はちょうどマフラーをぐるぐると首に巻いているところだった。昨夜は風が冷たく感じたから、クローゼットの中から去年のマフラーを引っ張り出してきたのだ。それでも今年は暖冬らしい。毎年聞くような気もするけど、でも毎年ちゃんと寒かったような気がする。

陸は煙草と財布と携帯電話だけ持つと、テレビを消し、マフラーをきちんと巻きつけて外へ出た。


世間はクリスマスムードに浮かれている。駅前の大型デパートのショウウィンドウには華やかな装飾がされ、商店街のアーケードにもイルミネーションが準備されている。

陸が働く店もこの時期は様々なイベント事を控え、人員を増やして対応していた。冬季限定のドリンクやケーキ、夜のバーではやっぱり限定のカクテルに、クリスマスらしいBGMを用意している。

クリスマスのイブと当日の夜には特別な演出として生バンドのジャズ演奏を予定していて、それは陸の提案によるものだった。店長から何か企画してみろと言われ、そうした。陸にとっては何もかも初めての試みで苦労したけど、フロアスタッフとして働く時よりずっと頭を使うので、汐屋のことを考えずにいられた。


汐屋とはあれから会っていない。会わなくても全然平気だった。

何てことはない。兄の喪失も、汐屋への思いも、自分ではない他の誰かの身の上に起こった出来事のように俯瞰していれば、それは映画やドラマの世界のように遠くに感じられる。

大輝ともすれ違いが続いている。手紙をくれた相手には直接会って返事をした。そうすることで少しでも大輝の心象を良くしたかった。




陸の元に葬式会社からの知らせがあったのは、その日の午後だった。

 

兄の遺骨を散骨するためにチャーターした船の予約が取れたとの旨だった。日取りは来年1月の中旬。その頃なら店を休んでも平気だろう。

汐屋にも連絡しなければ。携帯電話を取り出し、迷う。せめてもう少しだけ先にしよう。ほとぼりが冷めるまで。

決して逃げてるんじゃない。気持ちの上ではそう装いながら、陸は今日も我を忘れるくらい懸命に、仕事に精を出す。




クリスマスのイベントが盛況のうちに終わると、あっという間に年末になった。ほっと一息つく間もなく、忙しさは続いた。

大輝はこの時期、毎年実家に帰るため、忘年会や新年会にも顔を出さなかった。汐屋もきっと実家へ戻っているだろう。家族で鍋でも囲っているかもしれない。兄を亡くした傷跡を慰められ、もしかしたらこの機会に見合いでも勧められているかもしれない。


陸は毎年元日には兄の山荘へお呼ばれしていた。その日は汐屋はもちろん、陸の他にも数人の親しい友人が招かれ、兄の手料理を堪能した。陽気な笑い声が響く暖かい部屋の中で、幸せそうに微笑む兄と汐屋は、さながら若夫婦のように見えた。

陸は兄に頼まれたしめ飾りを地元で調達してきて、玄関に吊るした―それは陸の唯一の役目だった―。低い空を見上げ、願う。今年も何事もなく平安でありますように、と。


たった1年前のことなのに、もう何年も昔のことのように感じる。陸は部屋の窓を開けて、空気を入れ替えた。1Kの狭い部屋の中はここ数日の忙しさのせいで、ろくに掃除もされていなかった。今日こそはと思い、部屋中に散乱した服やシーツなどを大量に洗濯し、掃除機をかけ、いらなくなった荷物をまとめて捨てる。

ずいぶんスッキリした部屋の中で陸はコタツに入り、昼間から日本酒を開けた。普段アルコールを摂取することはほとんどないけれど、正月だけは自ら進んで酒を飲む。儀式のようなものだ。これからしばらくはきっと、毎年こんな正月が続くのだろう。寂しくはなかった。ただ少しだけ、歳を取ったんだなと思い、郷愁に耽る。


テレビをつけると、静かだった部屋が突然煩雑とした空気になった。どこのチャンネルに合わせても、笑い声ばかりが届く。

明日、汐屋に電話をしよう。飲み慣れない日本酒をちびちびと干しながら、陸はそう決心した。





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