帝都へ
ルキアを助けると決めた俺は、彼女と共にガザリ帝国領内にある『ヒエムス山』を目指していた。
『ヒエムス山』は帝国の北に位置する雪山で、一年中猛吹雪に襲われている。
その上、山の中には、その極寒の環境に耐えられる強力な魔獣が闊歩しており、山頂までたどり着いたという話は聞いた事がない。
過去には帝国も領地開発の一環として調査隊を送っていて、山の中腹辺りまで進んだが、そこでSランク魔獣の『ブリザード・ホース』の群れに襲われて撤退している。
当たり前だが、何の備えもなく登れるような山ではない。
防寒着や食糧、その他もろもろ、必要な物は山のようにある。
俺とルキアは旅をしながら計画を練った。
「火は俺が用意するからいいとして、出来れば耐寒の魔法薬が欲しいな」
魔法薬とは魔術的処理がされた薬液の事だ。
味は酷いが飲めば暑さや寒さに強くなったり、集中力が増したりといった効果を自身に付与できる。
おまけに副作用も殆どない。
魔法薬頼りという訳にもいかないだろうが、あれば山登りが楽になるだろう。
そんな俺の意見にルキアが言った。
「確かに、魔法薬は便利ですが、高価で希少です。揃えるとなると確実なのは・・・」
「帝都、しかないか」
ガザリ帝国の帝都、ザンレリカ。
発展を続ける帝国の政治、経済、文化の中心地であり、俺達の欲しい物は大抵売っている筈だ。
問題は、邪神復活を目論む集団、『メンダマルム教団』の刺客が潜んでいるであろう事だ。
「私が帝国に入った事はバレてますし、追っ手の連絡も途絶えてる筈ですから」
「そうだな・・・」
ルキアが言うには、バクラオン聖国の表立っての国教は"白き秩序の女神"を信奉する『女神教』で、指導者は教皇デスペラティオ三世だ。
そしてその教皇の下に三人の司祭が控えているが、コイツら全員『メンダマルム教団』の者で、邪神の信奉者だそうだ。
大多数の国民や下級神官はともかく、バクラオン聖国は、実質的に教団が支配していると思った方が良い。
唯一まともだったのは、バクラオンの首都、聖都ステラを守護する『聖都騎士団』だけだったが、彼らは『神秘』を封じられたルキアを救う為に教団と戦い、ほぼ壊滅したらしい。
つまり俺達は孤立無援。
そんな中、敵が待ち構えている場所に行くのはリスクがある。
「うーん・・・」
ルキアを襲っていた黒い修道服姿の男達、あの程度なら百人いようとも俺が勝つ。
だが人の多い帝都で、さらにルキアを守りながらとなると話は別だ。
「ただ、それでも行くしかないか」
たとえ帝都が危険であったとしても、山登りの途中で準備不足で力尽きては意味がない。
「ルキア殿、帝都ではそのフードを外さないでくれ。貴女の白髪はかなり目立つからな」
「分かりました」
こうして俺達は、ガザリ帝国の首都、帝都ザンレリカへと向かう事にした。
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