朝
静かな風が吹く草原の岩陰で、私は横になりながら空に浮かぶ星空を見つめる。
身体も心も疲れている筈なのに眠れない。
眠るのが怖い。
眠ればきっとまた夢に出てくる。
あのありとあらゆる"痛み"を与えられた牢獄の中の出来事が。
時々思う。
私はまだあの牢獄にいて今この瞬間、ここにいる私こそが夢なのではないか、と。
・・・分かっている。
私はちゃんと助け出されてここにいる。
現に手枷も足枷もつけられてないし、傷つけられた身体は、出来うる限り元に戻っている。
ただどうしても、悪夢が拭えない。
「はぁ・・・」
不安が身体にこびりつく。
覚悟という名の後悔が私の身体を動かしているが、こんな自分に本当にやり遂げられるのだろうか?
『神秘』の力が戻ったとしても私は一度"邪神"の封印に失敗してる。
そのせいで教皇を仕留められず、邪神の眷属である『邪龍』も逃して捕まったのだ。
今日だってローゼン達が身を挺して私を守ってくれて、そしてたまたま旅の剣士が通り掛かったから生き残れただけだ。
そんなローゼン達はもういない。
私なんかを守って死んでしまった。
父も私を逃がす為にバクラオンに残って行方不明だ。
「・・・」
そんな中出会った旅の剣士。
彼はグリスと名乗り、今は私がいる岩の上で見張りをしてくれている。
身なりこそ貧相だが、身体も剣技も抜群に鍛え上げられていて、教団の戦闘員を一蹴する実力がある。
(一体、何者なのでしょうか・・・?)
どうせ眠れないし、起きてても不安しかないから彼の事を考えてみる。
(私が捕まってる間に名を上げた冒険者でしょうか?)
一番考えられるのはこれだ。
ただ、それならやっぱり格好が貧相過ぎる気がする。
浮浪者よりは幾分かマシだが、それでも名のある冒険者には見えない。
(うーん・・・)
やっぱり分からない。
分からないし、どうして私は彼に全てを伝えてしまったんだろう?
"邪神"の事、教団の事、目的の事。
考えれば幾らでも誤魔化せた筈なのに。
どうして?何故?
グリス、貴方は何者?
私・・・は・・・
チュンチュン。
小鳥の囀りによって目を覚ます。
いつの間にか眠っていたらしい。
日が出てからまだかなり早い時間なのか、草原全体に薄く霧が掛かっている。
(悪夢、見ませんでしたね・・・)
ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら辺りを見回す。
するとすぐ近くでは、グリスが火を起こして焚き火にあたっていた。
「あっ・・・」
「ん?ああ、起きたか。おはよう、ルキア殿」
「お、おはようございます、グリス様」
互いに朝の挨拶を交わすとグリスは焚き火で水を温めて、干し葡萄やビスケットといった食べ物を取り出した。
「少し早いが朝食にしよう」
「はい」
お湯を入れた容器を受けとると少し冷まして口をつける。
紅茶などとは違い本当にただのお湯だ。
だけどそれは確かに私の身体を温めてくれた。
「足の具合はどうだ?」
食事をしながらグリスが私に尋ねる。
私は捻った足首を触って確かめてから答えた。
「良いと思います。少なくとも歩くのに支障はありません」
「そうか、それは良かった。だが無理はしないでくれ」
「はい・・・あの、その、グリス様・・・」
私はグリスに何者なのか聞こうとした。
だけどそれよりも早くグリスが言った。
「ああ、そうだ。昨日の夜、見張りをしながら考えてたんだが・・・貴女の旅に俺もついていきたい」
「えっ」
「勿論、迷惑でなければなのだが・・・」
「め、迷惑だなんてそんな・・・!でも良いんですか・・・?私が嘘を言ってるかもしれないのに・・・」
せめて『神秘術』の一つでも使えれば良いのだが、今の私ではそれさえ出来ない。
私が『聖女』であった事を証明する手段はない。
それでもグリスは軽く笑った。
「俺には貴女が嘘を言ってるようには見えなかった。全て事実なら放ってはおけない」
そう言ってグリスは改めて名乗った。
「俺はグリス・アノール。アヴァンス王国の騎士団で働いていた、元『騎士』だ。今は騎士団は退団して旅をしている」
「元・・・『騎士』様・・・ですか」
グリスが頷く。
そんな彼に私も改めて名乗った。
「私はルキア・ローカスセインです。バクラオンの元『聖女』です」
グリスが手を差し出す。
私よりもゴツゴツとして大きなその手を握った。
「よろしく、ルキア殿」
「よろしくお願いします、グリス様」
こうして、元『騎士』と元『聖女』は出会った。
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次は金曜日か、土日になるかも。