手当てと事情
「この辺でいいか・・・」
森を抜け平原へと入り、さらに暫く進んだ所にあった一本の木の下に、俺は抱えていた白髪の女性を下ろした。
「あの・・・」
下ろされた彼女が何か言おうと声を上げる。だがそれより先に俺が言った。
「待て。まずは怪我の具合からみせてくれ」
俺は屈むと捻った彼女の足首を看る。
少し触れ痛みの有無を確認するが、やはり骨までは折れていないようだ。
俺は旅の道具を入れてる背負い袋から清潔なタオルを取り出すと、水魔法で濡らして冷やし彼女の腫れている足首へと当てて、包帯で固定した。
「よし、少し時間がかかるがこれで良くなる」
「ありがとうございます」
女性はペコリと頭を下げてお礼を言う。
それから俺は、話して貰い易くするために水筒を彼女へと渡した。
「飲みながらでいいから何があったか話してくれるか?事情によっては力になれるかもしれん」
「・・・はい」
女性は、一口水筒の水を飲むと口を開いて事情を説明し始めてくれた。
「まずは、助けて頂きありがとうございます、グリス様。私の名前はルキア。バクラオン聖国の元『聖女』です」
「なに?『聖女』だと・・・?」
俺が驚いて聞き返すと彼女、ルキアは苦笑いを浮かべて続けた。
「元、です、グリス様。今の私には『聖女』の証である『神秘』の力は欠片も扱えません。"コレ"のせいで」
ルキアは、そう言って自分の首元を俺に見せる。
すると禍々しい黒い文様が彼女の首筋に浮かび上がってきた。
「これは?」
俺はその文様について彼女に尋ねる。
ルキアは自分の首に触れて答えた。
「"首輪"です。私の『神秘』の力を封じ込める為の。記憶はありませんが、幼い頃に刻まれたようです」
「誰がそんな事を?」
俺の言葉にルキアは目線を下に向け、遠慮がちに言った。
「現在のバクラオン聖国の指導者、教皇デスペラティオ三世です」
「教皇が?」
傷を治し、病を癒す『神秘術』は通常の魔術とは異なり『神秘』の力を宿した者にしか扱えない。
おまけに『神秘』の力は、バクラオンの首都近郊に生まれる女児にしか宿らないという不思議な縛りがある。
故に、あの国は『聖女』という存在を作り上げ、他国とは違う特殊な立ち位置を築き上げてきたのだ。
それなのに、何故わざわざ自国の権威の象徴ともいえる『聖女』にそんな事をする?
反乱でも恐れたか?
そんな俺の疑問をルキアは首を振って否定した。
「いえ、反乱ではありません。恐れたのは『神秘』の力そのものです。ですが同時に、『神秘』は必要な力でした。彼らの"神"をこの世界に復活させる為に」
「『神』・・・?」
ルキアは頷く。
「はい。教皇とバクラオンを影から支配し続けてきた存在、『メンダマルム教団』が信奉する"神"。かつてこの世界に災いをもたらした・・・"邪神"です」
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
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