一蹴
「オイオイ。まだ生き残りがいやがったのかよ」
白髪の女性の首を締め上げ引き摺っている、修道服姿の男が、俺を見るなりそう吐き捨てる。
もう片方の男も気だるげにため息を吐くと面倒くさそうに言った。
「みたいだねぇ・・・まぁ、通りすがりの誰かさんかもしれないけど、目撃者は全員消さないと・・・ねぇ!」
男はその言葉と共にどこからともなく黒い剣を出現させて手に握ると、面倒くさそうな物言いとは裏腹に迷いなく俺へと迫ってくる。
「うっ・・・くっ・・・に、逃げて・・・!」
首を締められている白髪の女性が苦しげに呻きながら逃げるように言った。
ふーむ・・・
さて、どうしたものか。
未だに俺には状況がよく分かっていない。
パッと見、女性の方が襲われている被害者に見えるが案外彼女の方が極悪人で、修道服の男達はそれを捕らえた正義の人なのかもしれない。
「・・・って、そんな訳あるか」
生き残りだの目撃者だの物騒な事を平気で喋ってる連中だ。
この人達を惨殺したのもこの連中だろうし、間違いなく敵だ。
ならばやる事は一つ。
俺は"水剣パルシアス"を引き抜くと自分の魔力を込めた。
応えるようにパルシアスの刀身が青く輝く。
男の持つ黒い剣とパルシアスがぶつかり合って・・・
「『パリィ』」
そのまま俺は男の剣をパルシアスを滑るように受け流した。
「えっ・・・」
その受け流しがあまりに完璧過ぎたのか、男からは間抜けな声が漏れ、その上、大きく態勢を崩した。
俺は隙だらけになった男の首に狙いを定め、一太刀で首を落とした。
撥ね飛ばされた首が落ちてゴロンと転がる。
「なっ!?き、貴様・・・!」
仲間の死を受けて白髪の女性の首を締めていた男が黒い剣を手にとる。
だが、俺に意識を向けたせいで女性の首を締めていた力が緩んでしまった。
彼女はそれを見逃さず、どこかに隠し持っていたのか拳大の石を握りしめるとそれで男の顔面を思いきり殴りつけた。
「ぐはぁ!」
衝撃で男が鼻血を出しながら剣を落として倒れる。
彼女はその剣を拾うと、倒れた男に馬乗りになって胸を剣で貫いた。
「ふっー・・・ふっー・・・」
男達が死に静かになった森の中で彼女の荒い息づかいだけがやたらと響く。
「大丈夫か?」
俺はそんな女性に声を掛ける。
彼女も俺の声にこちらを見た。
その時、改めて彼女の姿形をはっきりと視認する。
髪色は遠目からでも分かったが珍しい白髪で、瞳もこれまた珍しい緋色の瞳をしていた。
鼻筋も通っていて、髪と瞳の珍しさを除けばどこかの貴族令嬢かと思う位にとても美しい容姿をしている。
だが、先ほどの男への反撃といいただのお嬢様とは思えない。
「あの・・・」
そんな風にまじまじと見つめていたせいか、彼女がバツが悪そうに身体をよじり顔を逸らした。
俺は慌てて謝罪する。
「申し訳ない。俺はグリスという。色々聞きたいんだが、またあの連中に襲われても面倒だ。ここから離れたい。立てるか?」
「はい・・・痛っ・・・!」
そう答えて立ち上がろうとした彼女だったが足首を押さえて痛みを訴えた。
見てると男に止めを刺す時にどこかで捻ったのか足首が少し腫れていた。
折れてはいないようだが、歩くのは難しいだろう。
「失礼する」
「あっ・・・」
俺は一言声を掛けると彼女に触れて抱え上げた。
見ず知らずの女性の身体に触れるのは少々気が引けるが動けない歩けない以上我慢して貰うしかない。
「・・・」
抱えられた彼女は、特に嫌がる素振りは見せなかったが、倒れた馬車の方を向いて、地面に倒れている遺体を見つめている。
「悪いが埋葬してる時間は・・・」
「分かっています。お願いします」
彼女はそう言うと、複雑そうではあったが遺体に向けていた顔を元に戻した。
そして俺はこの場から離れる為に駆け出した。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
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次は土日に投稿出来たら良いなと思います。