暗闇の中で
ここからルキアさん視点になります。
「ゲホッ・・・!ゲホッ・・・!」
「ルキア様!大丈夫ですか!」
「は、はい、なんとか・・・」
崩れてきた岩を押し退けて、リサから差し伸べてられた手を掴み立ち上がる。
どこかに強く打ち付けたのか動くと身体が少し痛んだがこの程度なら問題ない。
痛い事には慣れている。
それよりも周囲を見回すと氷の洞窟からの出入口は、先ほどの崩落によって完全に塞がれてしまっていて、ただでさえ薄暗い洞窟内は、より暗くなってしまっていた。
幸い内部に残っていた帝国兵はリサを含めて全員生きていたが、一般兵の内の一人は、足が岩の下敷きとなり、ノックスは頭を打ち付けて出血していた。
状態に気づいた私達は直ぐに彼らの応急処置を始め、岩を退けて兵士の足を引っ張り出し、意識が朦朧としているノックスを寝かせて止血する。
その間も外での戦いの影響か振動で洞窟内が揺れていた。
そして、あの"歌"も同じように聞こえてきていた。
最初に聞いた時からどこか聞き覚えがあったが、今ならはっきりと分かる。
これは、
(『聖歌』・・・!)
酷く歪み悲鳴のようになっているが、この"歌"は、間違いなく傷を治し病を癒す、『神秘』の力を用いた術の一つだ。
(一体、誰が歌って・・・)
あの国の聖女であれば殆ど誰でも使える『聖歌』だが、この山の中に歌える者がいるとは思えない。
私がそう考えた時、一つの記憶を思い出した。
捕らわれた私の爪を一枚一枚剥がしながらドロルが漏らした一言。
――――
『聖女の使い方にも色々ありましてなぁ。単に邪神様の復活の為に利用するだけではないのです。まぁ、今の貴女は、私が与える"痛み"を全力で感じて頂ければ結構ですぞ』
ベリッ
『づ・・・ッあ"あ"ぁ・・・!』
――――
漠然とした嫌な予感が背中を伝う。
それはあの痛みに苛まれた日々を思い出してしまったからだけではない。
どこかで感じていた疑念。
あの国に、教団に、邪神復活に、牙を向いた聖女は歴代で本当に私一人だけだったのだろうか?
もしかして邪魔になった聖女は、各地の禁足地に・・・
「ルキア様!」
考え込んでいた私をリサの声が現実に引き戻した。
気がつくと暗闇の中からフローズン・バットが一体、私に向けて迫って来ている。
「っ!」
私は咄嗟に診ていた兵士の腰にあったナイフを抜き取り、それを向かってきていたフローズン・バットへ突き刺した。
「ギギッ・・・!」
顔を貫かれたフローズン・バットは、断末魔を上げ力なく羽ばたきを止めた。
ナイフを引き抜くと血が撒き散らされ私の頬を汚したが、それを拭う余裕はなかった。
洞窟の奥に目をやると暗闇の中でいくつもの光る眼光が私達を狙っていたからだ。
そして、唸り声と共に大量の魔獣が私達の方に押し寄せてくる音がした。
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