フロル・イエティ戦②
イエティが放った氷のブレスと激突する。
轟音とともに積もった雪が四散し、奔る冷気の余波が瞬く間に周囲を凍てつかせていく。
俺は吹き飛ばされぬよう足に力を込め、炎と水の障壁を張り続けるが、イエティは一際野太い咆哮を上げ、ブレスの威力をさらに高めてきた。
蒼白の奔流が太く、鋭くなって俺へと迫りくる。
「ぐっ・・・!」
強化されたブレスは、パルシアスが生み出す水を瞬時に凍らせ、ルグニカの炎すら貫こうとしてくる。
何とか直撃だけは防いでいるが、着実に押し込まれていた。
このままではいずれ破られるだろう。
(まだか、バルド・・・!)
その刹那、イエティの方角で何度か爆ぜるような音が響いた。
バルドの魔導銃による攻撃だ。
それによりイエティは体勢を崩し、ブレスが逸れる。
だが、ヤツはそれでも吐息の放出を止めようとはしなかった。
「ブガアアァー!!!」
放たれたままのブレスは山の峰を抉り飛ばし、ヒエムス山全体を大きく揺らす。
その直後、ルキアたちがいる洞窟の方から、不穏な轟音と叫び声が聞こえた。
嫌な予感が背を伝い、すぐさま洞窟へ駆け出したが遅かった。
すでに出入口は崩れ、岩と巨大な氷塊によって押し潰されている。
周囲を見回すも、ルキアたちの姿はなく――すなわち、彼女達は完全に閉じ込められてしまったのだ。
あの、魔獣がひしめく氷の洞窟の中に。
「っ・・・!」
事実を理解した瞬間、俺の足が一瞬止まる。
たった一秒。だが今の相手にとっては、それだけで致命的だった。
「後ろだ!」
バルドの警告に反応し振り返る。
視界の端に、白銀の巨影が閃いた。
咄嗟に剣を構えて防御態勢を取るもイエティの巨体から放たれた体当たりは俺を直撃し、岩壁へと叩きつける。
「グハッ・・・!」
胸の辺りから骨が折れる音が響き、口内に血の味が広がる。
そのまま雪の積もった地に崩れ落ちた。
「グリス!!!」
バルドの叫び声に顔を上げると、地響きを立ててイエティがさらに迫ってきていた。
「うっ・・・おおお・・・!」
どうにか身体を起こし、剣を構える。
その時、山頂からあの旋律が響き渡ってきた。
耳を劈く、不快で、まるで悲鳴のようなあの"歌"が。
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