吹雪山の怪物
それからその場で少し休憩した俺達は、体力が回復するとまた氷の洞窟を進み始めた。
洞窟内は螺旋状の緩やかな登りとなっていて途中、何度か魔獣に襲撃されもしたが迅速に討伐した事で事なきを得た。
そして洞窟の道は進めば進むほど寒さが増していき、さらに暗かった洞窟内も氷が光を反射しているのか段々と明るくなってくる。
どうやら外が近いらしい。
その証拠にノックスが外からの風が強くなっている事を報告してくる。
報告を受けてからさらに幾度かの休憩を挟み進んでいくと、遂に洞窟の出口らしき縦穴が現れた。
縦穴の大きさは入ってきた入口の穴よりも少し小さいようだが人が通るのに問題はない。
ただ外は猛吹雪のようで視界が悪く、登る前に見た山の外観から予想するに山頂に近いのだろうが自分達が今どこにいるのかは分からなかった。
バルドは出口から程近い僅かに拓けた横穴に皆を集めると指示を出した。
「ノックス、お前達はここで待機しろ。グリスは俺と一緒に外へ偵察に出るぞ」
「分かった」
俺はバルドの指示を受け外へ向かう為に簡単に装備を整える。
そんな俺へルキアが声を掛けてきた。
「グリス様・・・」
「ん、どうかしたのか?」
俺が尋ねるとルキアは少し迷うような顔をし、それから言った。
「その・・・どうかご無事で」
「ああ、待っててくれ」
俺はルキアの言葉に短くそう返すとバルドと共に洞窟から出た。
◆◆◆
外に出ると直ぐに風と雪が俺達に襲いかかってきて、視界が一面真っ白に染まった。
隣にいるバルドの姿すら視認しづらい。
そんな中、先に進めそうな場所がないか手探りで探していると、目の前に小山のように雪が積もっているのが分かった。
その小山を掻き分けてみると、中から胴体が潰れた『ブリザード・ホース』の死体が出てきた。
その死体を見ながら俺は言う。
「身体が凍ってない。死んでからまだそれほど時間は経ってないようだ」
「みたいだな。だが一体何が・・・」
バルドが言いかけたその時、突然、荒れ狂うように吹いていた吹雪がピタリと止んだ。
風の音が消え、僅かな静寂が場を支配する。
そして次の瞬間、雪崩が起きた時に聞こえた、あの低く鈍い咆哮が近くで辺り一面に響き渡った。
「ブオォォーー!!!」
それと同時にドスンドスンと山頂の方から雪肌を駆ける足音が聞こえ、ソイツは高く跳躍すると俺達の前に飛び降りてくる。
『アイス・ジャイアント』を超える体躯に、先ほどの跳躍からも分かるアレとは比べものにならない運動性能。
純白の体毛と、それと相反するかのように身体中に刻まれた、ルキアの首筋に浮かぶ"首輪"に似た黒く禍々しい文様。
俺も噂でしか聞いた事がない、雪山に潜むとだけ言われている伝説的な魔獣。
名前は――――
「雪男か・・・!」
俺がそう言葉を発する。
するとそれに応えるように、吹雪山の怪物は、再び咆哮を上げた。
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