氷の洞窟
洞窟内に逃げ込めたのは、俺とルキアにバルド、ノックスとリサ、それと俺が抱えてきた者を含めた一般兵士の計九人だった。
それ以外の兵士は雪崩に飲まれ、洞窟の入口も押し固められた雪によって完全に塞がれてしまった。
こうなると装備しているシャベルだけで入口を掘り返すのは不可能だろう。
それにそんな事をしている余裕もなかった。
「上だ!」
洞窟に逃げ込むと直ぐに兵士の一人がそう叫んだ。
その声に洞窟の天井を見上げると冷気を纏った蝙蝠型の魔獣、『フローズン・バット』が不規則に飛びながら俺達を襲おうとしている所だった。
俺はパルシアスを鞘から抜くと魔力を込めて飛んでいる『フローズン・バット』へと振るう。
「『カッター』」
パルシアスから水の刃が放たれて空中にいた『フローズン・バット』の何匹かに当たり、その身体は引き裂かれて地面に落ちてくる。
バルド達も魔導銃を打ち『フローズン・バット』を落としていく。
だが落とせば落とした以上に『フローズン・バット』の数は増え続け、ついには天井を覆い尽くすほどになった。
「っ・・・!奥だ!奥に逃げ込め!」
このままだと切りがないと判断したバルドが洞窟の奥へ逃げるよう指示を出す。
ノックスが先頭となり向かってくる『フローズン・バット』を倒しながら俺達は洞窟の奥へと向かっていく。
暫く進んでいくと『フローズン・バット』の襲撃はピタリと止んだ。
「切り抜けたか・・・!」
それを確認したバルドが呟く。
他の皆も走っていた足を止め一息吐いた。
俺も足を止めたがその時、前にいたルキアの身体がガクリと崩れた。
「ルキア殿!?」
俺は彼女の身体が地面にぶつかる前に抱き止めるとそのまま壁に寄り掛からせた。
「はぁ、はぁ、す、すいません・・・ゲホッ、ゲホッ!」
ルキアは荒い呼吸をしながら苦しそうに咳込む。
ここまでの旅からルキアは一般的な女性よりもずっと体力がある事は分かっていたがバルド達のような訓練された軍人ではない。
加えて『ヒエムス山』の厳しい環境と魔獣の襲撃の危険もある。
ここらで休ませないと保たないだろう。
俺はバルドの方を見る。
それで俺の言いたい事を悟ってくれた彼は部下達にここで休息するよう命じてくれた。
「大丈夫。ゆっくり息を整えてくれ」
俺は尚も荒い呼吸をして咳込むルキアの背中を擦りながら言う。
途中、ルキアが落ち着いてくるとリサが温かい飲み物を持ってきてくれたので彼女にそれを飲ませた。
そうしているとバルドから呼ばれたので彼の元へと行く。
バルドはノックスと共にいて、二人で何やら話しているようだった。
「どうした?」
そばに来た俺が聞くとバルドは洞窟の奥を指した。
「この道の先をノックスの風魔法で探知してたんだが、どうやら外へは繋がっているらしい」
「本当か!」
俺がノックスの方に顔を向けると彼は頷きながら言った。
「冷たい外の空気が流れているので間違いありません。ただ・・・」
ノックスがハキハキとした彼にしては珍しく少し言葉を詰まらせる。
「何か問題があるのか?」
俺がそう尋ねるとノックスは自信無さげに答えた。
「探知していた時に思ったのですが、風の流れが外からの空気を取り入れる為に作られたような流れをしていて・・・進んでいる道も余りにも規則正し過ぎるというか・・・まるで誰かが作った、そんな気がするのです」
ノックスに言われて俺は周囲を見渡す。
確かに魔獣に襲われ、天井も壁も地面もずっと分厚い氷に覆われていて気づかなかったが、この洞窟の道は自然に出来たにしては進み易す過ぎるように思える。
「因みに帝国の歴史は数百年あるが、この山に、こんな大規模な通路を作る工事が行われた記録はない」
バルドが補足するように付け加えて言った。
それを聞いて俺は考える。
(誰かが作ったかもしれない洞窟に、吹雪を広げている何か、それに雪崩が起きる直前に聞こえた、あの音・・・)
低く鈍く響き渡った、あの咆哮。
「きな臭い事ばかりだ。だが・・・」
身を刺す冷気に混じり、ビリビリとした緊張感が流れてくる気がする。
まだ何も分からない、だが俺の全ての感覚が戦いが近い事を知らせている。
それも強敵との戦いが。
「・・・」
俺はその予感に覚悟を決めながら真っ暗な洞窟の先を見つめた。
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