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元騎士、元聖女と出会う  作者: エビス
第一章 「吹雪山の怪物」

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怪物の咆哮

 降り積もった雪を踏み締めながら山の斜面を登っていく。


 道の整備などされてはいないが、まだ山の麓辺りというのもあって雪の量は少なく、歩く事にそれほど支障はない。


 ただ、襲ってくる魔獣は容赦がなかった。


「10時方向『フロストエイプ』五体!接近してきます!」


「一班、二班は射撃開始!近寄らせるな!」


「了解!」


 バルドが報告してきた部下へ指示を飛ばし、それを受けて兵士達が魔力銃を構えて向かって来ていた猿型の魔獣『フロストエイプ』に射撃を開始する。


 魔力銃は、使用者の魔力を消費して魔弾と呼ばれる弾を発射する道具で、魔力量の少ない兵でも火力が出せる強力な武器だ。


 さらに使用する魔弾に属性を付与する事で魔獣の弱点を突く弾にもできる。


『ヒエムス山』は雪山だから炎が弱点の魔獣が多く、部隊もそれが分かっていたからか炎の魔弾で魔獣を攻撃している。


 ガン、ガンと銃声が山に轟き、放たれた炎の魔弾は向かって来ていた『フロストエイプ』に着弾し、その身体を燃え上がらせる。


「グオォォー!!」


 火だるまになった『フロストエイプ』は断末魔の叫びを上げて、走って来ていた勢いそのままに雪の上を滑り転げ息絶える。


 一先ず凌いだが、直ぐに今度は『フロストエイプ』が向かって来た方向とは逆の方角から地面が割れる音と雪煙が上がって、そこから氷でできた巨大な人型の魔獣『アイス・ジャイアント』が現れていた。


「三班、射撃開始!足を狙え!」


 またバルドから指示が飛び、兵士達が前に出て『アイス・ジャイアント』へ向けて射撃する。


 魔弾が当たり『アイス・ジャイアント』の氷の足が燃え上がるが、奴はそれに怯む事なくズンズンと前進し部隊との距離を詰め、巨大な氷塊のような腕を振り上げた。


「マズイ!退避・・・」


 バルドが攻撃を避けようと部隊に指示を出したが、俺は間に合わないと判断して腰から"炎剣ルグニカ"を引き抜き、雪の大地を駆ける。


 そして『アイス・ジャイアント』に迫ると手にしたルグニカに自分の魔力を込めた。


 魔力を受けてルグニカの刀身が赤く輝く。

 そのまま『アイス・ジャイアント』の拳が振り下ろされるよりも早く、ルグニカでその巨体を切り裂く。


「『スラッシュ』」


 赤い一閃が『アイス・ジャイアント』の胴体に刻まれそこから爆炎が発生し、火柱が上がる。


 炎によって一瞬で『アイス・ジャイアント』は焼き尽くされ、跡形もなくなった。


 周囲を見渡してもこれ以上魔獣が襲ってくる気配はない。


 俺はそれを確認するとルグニカを鞘に納めバルド達の元に戻った。


「怪我はないか?」


 戻ると直ぐにバルドがそう聞いてきたので彼に頷く。


「問題ない。が、ここは話に聞いてたよりも遥かに厳しい山だな」


『フロストエイプ』の集団も『アイス・ジャイアント』も魔獣の脅威度でいうならBランク、並の冒険者や兵士なら徒党を組んで犠牲を覚悟で討伐するレベルの魔獣だ。


 それがこの山では当たり前のように生息していてこちらに向かって襲い掛かってくる。


 さらにこの山には、Sランクの『ブリザード・ホース』も生息していると聞いている。


『ブリザード・ホース』は冷気を纏った大きな馬型の魔獣で、その体躯と速度を生かした突進攻撃を仕掛けてくる強敵だ。


 もしさっきみたいな他の魔獣との交戦中に乱入されたら被害を出さずに始末するのは難しいだろう。


 俺の言葉を受けてバルドが言う。


「俺が昔登った時は、ここまでじゃなかった。雪の範囲の拡大に合わせて魔獣も数を増やしていったのかもしれないな・・・」


「それで、どうする?このまま進むのか?」


 未だに部隊に損害は出てないが、想像以上の絶え間ない襲撃で魔弾も体力も失っている。


 加えて当初の予定だったベースキャンプの設営もこれだけ魔獣が多いと維持出来るか怪しくなってきた。


 損害が出る前に一度山を降り、体制を整える事も視野に入れるべきだろう。


 そんな事を話していると前方の部隊を率いていたノックスが報告にやってきた。


「隊長、進んだ先に氷洞窟を発見しました。かなり大きく、どうやら山の内部に続いているようです」


「なに、洞窟だと?」


 その報告を受け、洞窟を確認する為にノックスについていく。


 そして、やってきた氷洞窟は裂け目のような入口をしていて、どこまで続いているか伺う事が難しい程広く、山の上方向に向かって伸びているようだった。


「うーむ・・・」


 見つけた氷洞窟を前にバルドが唸る。

 どうやら内部を調査するのか悩んでいるようだ。


 だが彼が悩み始めたその時、低く鈍い音が山全体に響き渡った。


「なん・・・だ?」


「声・・・?」


 響き渡るその音は、まるで獣の咆哮のようで、兵士達に緊張が走る。


「落ち着け!慌てずに隊列を組んで・・・」


 緊張する兵士達にバルドが指示を飛ばすが、それよりも早く先ほどの咆哮のような音とは違う、ゴーという幾分か静かな音がした。


 嫌な予感がして全員、山頂に視線を送る。


 吹雪いているせいか全体的に薄暗く、雪もあって視認しづらい山頂付近であったが、迫ってくる影はっきりと分かった。


「雪崩だ!!!」


 誰かがそう叫ぶ。


 その間も白い津波は、勢いを増し、俺達を飲み込まんとスピードを上げている。


 最早斜面を下って雪崩の範囲外に逃げる猶予はない。


 規模から見ても飲み込まれればほぼ確実に死ぬ。


 生き残るチャンスがあるとすれば、それは―――


「くっ・・・!」


「きゃっ!」


「おわっ!」


 俺は傍にいたルキアと兵士を抱えて、雪崩を避ける為に目の前に開かれた氷洞窟の裂け目に飛び込む。


 バルドも同じ判断をしたのか兵士達に氷洞窟に入るよう叫びながら中に飛び込んでくる。


 バルドが入った僅かに後、ノックスとリサ、それと数名の兵士が氷洞窟の中に入ってきた所で雪崩が直撃し、ドウドウという音を立てて部隊を雪崩が飲み込んだ。


 そして、洞窟の入口は入り込んだ雪で完全に埋まってしまった。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。


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