出発
設営されたテントの中に入るとそこは外の肌寒さとはうって変わって温かく快適だった。
さらにバルドの部下であるノックスとリサが待っていて、彼らは俺達に気づくと敬礼をしてきた。
バルドはそんな二人に応えるように軽く手を上げるとテント内にある椅子に座り、俺達にも座るように促した。
それを受けて俺達め椅子に座るとノックスが一枚の紙を目の前の丸テーブルに広げた。
それはどつやら『ヒエムス山』の地図のようで、俺達が今いる場所には赤い点が引かれている。
それを元にバルドが話し始める。
「さて、近くまで来た訳だが・・・ルキア殿、山はどんな感じだ?」
そうバルドに質問されたルキアは難しそうな顔をして答えた。
「山全体を『神秘』の力が覆っていますが、特に強く感じるのは山頂付近です。そこが目指す場所になると思います」
「そうか。じゃあ登るしかないか・・・」
ルキアの答えにバルドは軽く自分の頭を掻く。
どうするのか思案しているようだ。
「部隊の準備は?」
「防寒装備の中隊の準備が整っています。指示があれば直ぐにでも出発可能です」
バルドが聞くとノックスが直ぐに答える。
彼はそれを聞くと考えを固めて言った。
「よし。ではこれから出発し、まず山の中腹にベースキャンプを設営する。そこを拠点に山頂を目指していくぞ」
「「了解」」
バルドの指示を受けてノックスとリサの二人が部隊を率いる為にテントから出ていく。
それを見送ったバルドは俺達へ言った。
「それじゃあ、アンタらも登る準備を・・・っと、忘れる所だった。ほら」
バルドは青い液体の入った小瓶を幾本か取り出すとテーブルに置いて俺達の方へ渡してくる。
これはもしかして、
「耐寒の魔法薬か?」
そう聞くとバルドは頷いた。
これは本当にありがたい。
帝都では結局仕入れる事が出来なかった物だからな。
「今の内に飲んでおけよ。山に入ったら飲んでる暇なんて無いかもしれないからな」
「分かった」
俺は小瓶をバルドから受け取るとその内の一本をルキアへと渡す。
そして瓶の蓋を開けると青い液体を飲み干した。
冷たい食感と魔法薬特有の何とも言えない薬臭さが口内を満たすが我慢して身体の様子を確かめる。
粗悪な魔法薬だと身体の動きが鈍くなる事もあるのだが、今飲んだ魔法薬にそんな兆候はない。
相当上物の魔法薬だったらしい。
隣を見るとルキアも同じように魔法薬を飲み干し、身体の感覚を確かめている。
「問題ないか?」
「はい。大丈夫です」
俺の言葉にルキアが答える。
それからバルドへ礼を言って『ヒエムス山』を登る為の準備を始めた。
◆◆◆
数分後、防寒着に着替えた俺達はテントを出た。
外では既に防寒着と帝国軍の基本装備である六連式魔力銃で身を固めた部隊が整列しており、バルドの指示を待っていた。
そんな彼らの前に出たバルドは部隊を見渡して声を張り上げた。
「それでは、これから『ヒエムス山』への登頂を開始する!目標は山頂だ!山の中は魔獣が多く危険だが必ず生きて帰還するぞ!」
バルドの声を受けて部隊が動き出す。
俺達もそれについて歩き始める。
そうして遂に前人未到の雪山、『ヒエムス山』へと俺達は入って行った。
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