協力
結局、ルキアは皇帝に全てを話した。
彼女は邪神とそれを信奉する『メンダマルム教団』、そしてバクラオン聖国の現状と自分の目的、何故『ヒエムス山』を目指すのか、俺にしたのと同じように説明した。
皇帝は、途中で逃げようとしたバルドを呼び止めた時を除き、ルキアの話を黙って聞いて、彼女が喋り終えると口を開いた。
「なるほど。気に食わない国だと思っていたが、俺の勘も捨てたものではないな」
「では・・・信じていただけるのですか?」
妙に納得したような皇帝にルキアが尋ねる。
それに皇帝はこう答えた。
「間者として潜り込むには、お前達は有名過ぎるしな。だがルキア、お前が『神秘』の力を使えないというのは非常にまずいぞ」
皇帝の言葉にルキアは表情を曇らせ頷いた。
「その為に『ヒエムス山』に行くのです。あそこは、ステラ程ではないにしても『神秘』の力が集まっている場所です。この"首輪"を外す事も出来るでしょう」
そう言うとルキアの首に禍々しい黒い文様が現れる。
それを見た皇帝は、バルドに向かって言った。
「良かったな、バルド。仕事だぞ。それも世界を救う大仕事だ」
「だから聞きたくなかったんですよ・・・俺には荷が重いですって・・・」
「いや、お前しかいない。適任だ」
皇帝の言葉にバルドが心底嫌そうな顔をする。
それにしても適任とはどういう意味だろうか?
ルキアと顔を見合わせていると皇帝が説明してくれた。
「バルドはその昔、『ヒエムス山』の登頂に挑戦した部隊の一人でな。あの山を熟知している。こいつと第4部隊を道案内として連れて行け」
「・・・いいのですか?」
正直、それは非常に有難い話だ。
そもそも道などあるのかどうかも分からない雪山だ。
案内がいるのは心強い。
だがバルドは帝国軍の隊長と言っていた。
そんな人物をこんな簡単に・・・
「構わない。実は、年々あの山からの吹雪の範囲が広がっていてな。近々、調査に赴く予定だったのだ。丁度良いタイミングだ」
「あのー・・・陛下?俺の意志は・・・というかこれでも隊長なんで急に居なくなると色んな所が困るというか・・・」
「空いた穴は第2と第3部隊が埋める。安心して行ってこい」
皇帝は渋るバルドに笑顔でそう命じる。
それを聞いたバルドは、諦めたように力なく「了解です・・・準備します・・・」 と言って部屋を出て行った。
それを見届けた皇帝は俺達に向き直った。
「あんな男だが、戦闘力は保障する。後の事は奴と相談しろ」
そう言うと皇帝は手を振って俺達にも出て行くよう合図する。
どうやら話しはこれで終わりらしい。
俺達は皇帝に頭を下げると部屋を出て、外で待っていたバルドについていった。
◆◆◆
「イチカ、クローセル」
「はい、陛下。ここに」
「おるぞ」
グリス達が出ていった応接室で俺はカップに残った紅茶を傾けながら名前を呼ぶ。
すると迷彩式の帝国軍服に身を包んだマスクで口元を隠した女、帝国軍第3部隊・情報部隊長のイチカが天井から、ドレスのような軍服を身に纏い、エルフ特有の長い耳と美貌を持った帝国軍第2部隊・主席魔法長のクローセルが部屋の隅から透明化の魔法を解除して出て来た。
イチカはそのまま俺の目の前で畏まって跪き、クローセルは俺が座るソファの隣に座り、しなだれかかってきた。
「二人とも聞いてたと思うが、バルドは『ヒエムス山』の調査に向かい、さらにこれからバクラオンと対立する可能性が高い。そこでイチカには国内の諜報の強化を、クローセルには国境防衛の強化を命じる」
「了解しました」
「分かったのじゃ」
二人は俺の命令を了承する。
それからしなだれかかったままのクローセルが言った。
「しかし、とんだ事になったのう。グリス・アノールを空白の第1部隊の隊長に勧誘する為に呼んだと言うのに。陛下も内心動揺しておったじゃろ?」
「そうなんですか?私の目には変わらないように見えましたけど・・・」
「甘いぞイチカ。陛下はな、動揺すると顎に手を置くのよ。昔からのクセじゃな」
「そうなんですね。勉強になります!」
「おい、真に受けるな。クローセルも妙な事を教えるなよ」
イチカは、真面目だから真に受けかねない。
それにあながち嘘でもないから質が悪い。
俺は眉を顰めてクローセルを見る。
彼女もその視線に気づき甘えるように俺の胸に擦り付けていた顔を上げ、悪戯っぽく笑った。
それを受けて俺は諦めの心境になってため息を吐くと、手を伸ばして擦り付けられたクローセルの頭を撫でた。
昔から、それこそ生まれた時からの付き合いのこいつには色々と敵わない。
帝位に就いた今となってもだ。
「・・・ともかく、ここから国が荒れるかもしれん。頼んだぞ」
「お任せ下さい、陛下」
「任せよ」
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
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※遅くなった理由
キャラ増やそう
→何か上手く会話させられないな
→全部消す
→やっぱり増やそう 以下ループ
しょうもない理由で申し訳ありません。