疑い
ノンブル・ドレ・ガザリ。
この十年でガザリ帝国を大躍進させた名君で、その名前は俺が騎士団に入る前から諸国に響き渡っていた。
こうして会うのは彼の言う通り初めてだが、やはりオーラというか纏う雰囲気は常人のソレではない。
絶対的な自信と、溢れんばかりのカリスマ。
(傑物というのは、こういう男の為にある言葉なのだろうな・・・)
そう思いながら俺は後ろにいるルキアを皇帝から隠すようにして恭しく頭を下げた。
「お初にお目にかかります、皇帝陛下。グリス・アノールと申します。本日はお招き頂き、大変喜ばしく・・・」
「硬い、硬い。そんなに畏まるな。今日は聞きたい事があって呼んだだけだ」
「聞きたい事?私にですか?」
皇帝は俺の言葉に頷く。
それから俺を値踏みするように見ながら言った。
「グリス・アノール。五年前、彗星の如く現れ、瞬く間にCランク冒険者まで駆け上がった男。非公式ながらAランク魔獣『ミミクリー・スコーピオン』を単独討伐し、その後、アヴァンス王国に襲来した『黒い龍』をも討伐。その功績を持って王国第2騎士団の副団長に任命される――――合っているか?」
「ええ」
なるほど。
別に隠していた訳でもないが俺の素性はある程度調べてある訳か。
皇帝は続けて言った。
「だが貴族連中と折り合いが悪く、つい先日騎士団を退団。アヴァンス王国から姿を消した。そんなお前が俺の国で何をしているのか、これから何をするつもりなのか、ぜひ聞かせて貰いたい」
「・・・」
さて・・・これは、どう答えるのが正解なのだろうか?
正直に言うか、はぐらかすか、嘘を吐くか。
普通に考えて『ルキアの"首輪"を外して、邪神を封印します』、なんて言っても信じては貰えないだろう。
だがこの男に生半可な嘘が通用するとも思えない。
俺は少し悩み、それから言った。
「私達は、これから『ヒエムス山』に向かうつもりです。理由は、申し上げられません。ただ、この国に害を為すつもりはありません」
結局、言える所は言って、言えない所は言えないとはっきり伝える事にした。
後ろに控えていたバルド達が俺の答えを聞いて少しざわつく。
皇帝はそれを黙らせると顎に手を置いて言った。
「いくらお前でもあの山を登るのは容易ではあるまい。まして・・・そこの『聖女』を守りながらなんてな」
「っ!?」
皇帝の言葉に俺は目を見開く。
それを見た皇帝は少し笑い、それから言った。
「俺は記憶力には自信があってな。昔あの国に行った時に見かけただけだが、どうも雰囲気が似てると思ってたんだ。お前はバクラオンの『聖女』で名は・・・ルキアと言ったか?」
ルキアの名前まで知っている。
動揺する俺を余所に皇帝は続けてルキアへ言った。
「フードを取れ。俺の記憶が確かなら、お前は珍しい白髪と、これまた珍しい緋色の目をしていた。片方だけならともかく、両方同じで別人とは言わせん」
皇帝の言葉にルキアは観念したのか被っていたフードを取った。
「お久しぶり・・・なのでしょうか?失礼ですが私には陛下とお会いした記憶がないのですが・・・」
素顔を晒したルキアは皇帝に尋ねる。
それに彼はこう答えた。
「本当に昔、それも一瞬だけだからな。挨拶すらしてない。『聖女』だのなんだの、あの国は秘密だらけで気に食わない」
そうして皇帝は「だが」と言ってルキアに鋭い視線を向けた。
「ようやくその秘密の一端に触れられそうだな。元『騎士』と『聖女』が二人で何をするつもりなのか・・・納得出来る説明をして貰おうか?」
俺は皇帝から視線を逸らしてルキアの方を見る。
彼女は少し俯き、それから顔を上げると言った。
「私達は・・・」
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