皇帝
馬車に揺られること数分。
俺達は帝都ザンレリカの中心にある宮殿へと到着した。
宮殿の外観は、左右対称の凹んだ構造になっており、周囲は鮮やかに整えられた帝国式の庭園で囲まれていた。
(当たり前だが立派な宮殿だ。アヴァンスの王城もデカかったが、それ以上か・・・)
俺は馬車から降りると、俺に続いてくるルキアが転ばないように彼女の手を取って降りるのをエスコートした。
そして先に馬車から降りていたバルド達は、宮殿の門を守る衛兵と少し話をした後、俺達へ言った。
「こっちだ、お二人さん。陛下が首を長くしてお待ちかねだそうだ」
「ああ・・・いや、ちょっと待て。このままで良いのか?俺は帯剣したままだぞ?」
俺の左右の腰にはルグニカとパルシアスが下げられている。
街中なら冒険者という事で目立つ事もないだろうが、皇帝のいる宮殿内に入るなら別だ。
流石に見えてない訳ないだろうし、取り上げられる覚悟もしてたのだが、バルドからの返答は思いもよらないものだった。
「ああ。陛下は気にしてない。むしろ帯剣した状態のあんたに会いたいんだとよ」
「?」
帯剣した状態の俺に?何故?
皇帝の考えが分からず頭に疑問符が浮かんだが、それを察したバルドが苦笑いしながら言った。
「分かるぞ。意味分からんよな。だが、陛下は普通の貴族、王族とは違う。じゃなきゃ俺みたいな不良軍人を捕まえて隊長に取り立てたりしない」
そうなのか。
それは、なんというか器が大きいというのか・・・
まぁ、あまり言及するのも面倒だし、相手が良いと言っているのだからこれで行かせて貰おう。
俺は気持ちを切り替えて、バルド達に案内されて宮殿内に入る。
内部もガラスや絵画が飾られた豪華な内装をしており、回廊にある調度品の一つ一つが最高級の品物である事が分かる。
そして何よりそんな品物よりも、働いている人の顔がとても明るい。
すれ違うメイドや衛兵は、バルド達を見ると期待と尊敬を込めた視線で丁寧に挨拶し、バルドもそれに気さくに返している。
(人間関係も良好か・・・ますますアヴァンスとは違うな・・・)
アヴァンスは王族派閥と貴族派閥と辺境伯と大商人を中心とした第3勢力の三派閥で対立しており、表立ってバチバチにやってる訳ではないが、一致団結出来るほど空気は良くなかった。
皇帝の名の元に一致団結してる帝国と水をあけられるのは仕方ないのかも知れない。
そんな事を考えながら回廊を進んでいくと、ある扉の前でバルドが足を止めた。
「陛下、お連れしました」
バルドが扉の前で畏まった声を出して呼ぶと、中から「入れ」と酷く爽やかな声が返ってきた。
それを受けてバルドが扉を開けて中に入るので俺達も続いて部屋へと入る。
中は帝国の国旗が壁に掲げられた応接室になっており、部屋の中心に置かれたソファーには、一人の男性が腰掛けていた。
鮮やかな金髪に爛々と輝く碧い眼、そしてどこかの絵画から出てきたかのように整った容貌。
「こうして面と向かって会うのは初めてだな」
こちらに語り掛けるその声は、部屋に入る前に聞いた声と同様に酷く爽やかで自信に満ち溢れている。
「必要ないと思うが一応名乗っておこう。俺がガザリ帝国皇帝、ノンブル・ドレ・ガザリだ。よろしくな、グリス・アノール」
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