圧力
「これは・・・」
受け取った手紙に押された封蝋印は、騎士団で働いていた時に何度か見た事がある、ガザリ帝国皇帝直々を示す正式な封蝋印だ。
バルドは手紙を見つめる俺に言った。
「その手紙は、陛下からの招待状だ。あの方は、あんたとあんたの連れを宮殿に招待したいらしくてな。悪いが一緒に来てくれるか?」
軽く言っているがバルドの言葉には有無を言わさない圧がある。
断れば実力行使も辞さない感じだ。
俺は少し考えてからバルドへ言った。
「明日には帝都を発つ予定なんだ。あまり時間は取れないぞ」
「問題ない。陛下も忙しい御方だからな。何事もなければ直ぐに終わる」
何事もなければ、か・・・
いやに含みのある言い方をする。
正直、偉い人とは関わりたくないのだが、この国の最高権力者である皇帝の招待を断るのは難しい。
騎士団にいた頃に学んだ事だが、生まれながらにして偉い人はかなり面子を重んじる。
そして、その面子が潰されるのをよしとしない。
皇帝がどんな人物なのかは、外聞でしか知らないが、行かなければ最悪犯罪者として追われる可能性もある。
俺はちらりとルキアの方を見て、それからバルドに言った。
「・・・分かった。だが、先ほども言った通りあまり時間は取れないからな。それと荷物を部屋に置かせてくれ」
「いいとも。もし良ければ手伝うが?」
「いや、気持ちだけで十分だ。行こう」
俺はルキアを促して階段を上がり、荷物を置くために部屋へと向かいながら、彼女に小声で語りかけた。
「すまない。少し面倒な事になった。おそらく冒険者ギルドで金を下ろしたから、俺がこの国にいると分かったのだろう」
一応、ギルドには国の干渉を受けず、冒険者の個人情報を守るという建前があるのだが、どうやら今回は役に立たなかったらしい。
「まぁ、愚痴っても仕方ない。嫌な事はさっさと終わらせて・・・どうかしたか?」
「えっ?」
「いや、ぼうっとしているように見えてな。疲れたか?」
俺が尋ねるとルキアは首を振って否定して、逆に聞いてきた。
「そういう訳ではありませんが・・・あの、さっき軍人の方が言った『龍狩り』というのは・・・」
「ああ、アレか。アレは・・・」
俺が答えようとした時、下の階からバルドの声がした。
「おーい。まだかー?馬車を待たせてるからなるべく早く頼むー」
俺はその声に若干顔をしかめるとルキアへ言った。
「この話はまた今度にさせてくれ。先に厄介事を片付けよう」
「・・・分かりました」
ルキアはそう言ってフードをさらに目深に被り直す。
それから俺達は階段を降りてバルド達と合流した。
「よし。それじゃあこっちだ」
バルド達に案内され宿屋の外に出る。
少し歩くと大通りから離れた舗装された道に豪華な馬車が止まっていた。
乗車口が開くと俺達はそれに乗り込む。
そして馬車はそのまま宮殿へと走っていった。
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