憂鬱と訃報
「はぁ・・・」
アヴァンス王国の王都、エレギム。
そこにある騎士団本部の執務室で俺ことグリス・アノールは、憂鬱な気分で深いため息を吐いていた。
原因は、目の前にある立派な机の上に広げられた手紙の山だ。
先ほどまで目を通していたそれは、貴族から俺への嫌み事が綴られた紙の束だった。
俺が第2騎士団の副団長になってから平民の犯罪者が増えただの、魔獣討伐に駆り出される騎士団員の損害率が上がっただの・・・
はっきり言って書かれている事は全部いちゃもんだ。
王国全体の犯罪率は減少傾向だし、騎士団の損害率が増加したのもまともに訓練もしていない貴族の子弟が勇み足で魔獣に突っ込んだからに過ぎない。
しかも事情を聞くとその無謀な突撃は、平民である俺が副団長に収まってるのが気に食わず、引き摺り下ろす実績が欲しかったかららしい。
それを聞いた王と騎士団長は、ブチギレてその貴族の実家をとり潰そうとした。
結局、俺が間に入ったお陰で取り潰しにはならなかったが、そんな事があったのにも関わらず嫌みな手紙を送りつける辺り、貴族連中は本当に俺が嫌いなようだ。
まぁ、彼らの気持ちも分からんでもない。
平民から騎士団の副団長に成り上がってきた俺など特権階級にいる彼らからすれば、自らの立場を脅かしかねない、都合が悪い存在なのだろう。
むしろ手紙だけで暗殺、毒殺といった直接的な手法が取られてないだけ穏便と言えるかもしれない。
「はぁ・・・・・・」
俺はもう一度大きなため息を吐くと机に広げていた手紙を仕舞い始める。
その時、執務室の扉がノックされた。
「入っていいぞ」
俺がそう言うと、「失礼します!」という緊張した声がして扉がガチャリと開かれた。
姿を見せたのは金髪の騎士団員、俺の直接の部下であるカイルだった。
彼は声と同じく緊張した面持ちで執務室の中へと入ってくる。
その手には一通の手紙が握られており、俺は貴族からの手紙の内容を思いだして「また嫌みか・・・」と内心辟易としながらカイルに尋ねた。
「どうした?また貴族様からのありがたいお手紙か?」
「い、いえ、そうではありません・・・こちら病院から送られてきたものでして・・・至急、副団長に届けるようにと」
「病院からだと?」
俺はカイルが渡してきた手紙を受け取ると封を切って中身を確かめる。
そこに綴られていたのは――――
「副団長殿・・・?」
「・・・カイル。悪いが俺は直ぐに病院へ向かう。団長には話を通しておいてくれ」
「ええっ?」
「頼む!」
そう告げた俺は、カイルの返事を待たずに執務室を飛び出した。
外に出ると雨が降っていたが構わず病院へと駆け出す。
手には先ほどの手紙を握り締めたままだ。
その手紙には――――母が亡くなった事が書かれていた。
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