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(密)入国

エルカド王国に到着した。

 俺とマハーバは茂みに隠れ、遠くから検問所の様子を伺っている。

 

 予想通り、街は多くの冒険者で賑わっているようだ。

 入国こそまだしていないが、検問所に形成された長蛇の列を見れば、その様相が容易に想像できる。

 

「相変わらずの人気だな。これは別の意味で入国に時間が掛かりそうだ」

「………………人混みきらい」

「我慢しろ」


 気のせいか、以前にも増して検問が厳しくなっているように見える。

 一人あたりに割かれている時間が長い。

 ざっと5分くらいだろうか。

 前は通行証を見せればすんなり入れたのだが………………。


 まぁ、心配はいらないだろう。

 そういう問題は全てマハーバが解決してくれるとシュトラーフが言っていた。

 彼女の”未界の表層エニグマ・サーフェイス”の効果は高度な偽装。

 それによって、自分達の身分を偽装して入国するという作戦だ。

 

 名前も既に決まっている。


 俺はリュット・アロイを文字ってリト・アーロイに。

 役職は剣士。

 遠方から遥々やって来た新米冒険者という設定だ。


 マハーバはシュトラーフが読んでいた”マハ”をそのまま使う。

 彼女はリトの使い魔という設定だ。

 使い魔の種別はケットシー。

 角を隠し、代わりに猫耳と尻尾を生やす。

 

 昨今では仲間の代わりに、使い魔を使役する冒険者も増えてきているらしいので俺達も流行りにあやかる事にした。詳しい理由は分からないが、使い魔は主人に絶対服従という制約があるので、裏切られる心配がないからとかだろうか。


「かかんで」

「おっ、おう」


 マハーバに言われるまま、その場に跪く。

 頭を彼女の目線の位置に置くと、マハーバは粘土で遊ぶみたいにペタペタと顔に触れ始めた。

 魔術、マハーバの場合は魔法か……。これらの発動は詠唱の他に儀式を行うモノもあると聞く。

 マハーバの場合は対象に触れる事が儀式になるのだろう。

 正直、魔法を掛けられている感じはあまりしないが……。


「ん。終わった」

 

 マハーバが顔から手を離した。

 だいぶ揉みくちゃにされたけど、これで本当に偽装が完了しているのだろうか。

 念のため確かめてみよう。

 確か腰のポーチに手鏡があったはず…………。


「おお、これは凄いな。凄いけど…………」


 鏡にはおっさんが写っていた。

 もみあげから顎にかけて伸びた無精ひげ、年期を感じさせる肌感に深く入ったゴルゴライン。

 かと言って老い過ぎないくらいの丁度いいラインのナイスガイがそこにいた。

 でもこれは………………。

 

「なぁ、マハーバ。ホントにこれで行くのか?どう見ても新米冒険者には見えないんだが……」


 どっからどう見ても歴戦の冒険者だ。

 背中にゴツい大剣とか似合いそうな。

 

「バランスの事なら大丈夫。からだの方もこれから変える」

「いや、そういう問題じゃなくて。言ったろ?新米冒険者で行くって。これじゃ新米どころかSランク冒険者だと思われちまう」

「でも新米は舐められる。舐められたら情報聞き出せない」


 待て待て、どんなやり方で探るつもりだったんだよ……。

 とにかく、これでは変に目立ってしまう。

 ここに来たの目的はティルルに関する情報収集なのだから、なるべく目立つのは避けたい。

 エルカドに来た冒険者の中にはもちろん手練れもいるわけで、剣士なら挙動だけでどこの流派だとか、大体の実力を測れてしまう輩もいる。

 俺が看破されるという確率はかなり低いだろうが、万が一の事もある。


 マハーバには”モンスター一匹殺した事なさそうな奴”という注文をした。

 彼女は気が乗らなさそうにしていたが見事、注文通りの姿に仕上げてくれた。


 ********

 

 無事入国を終えた俺達は、都市最大のギルド”クォーツ”を目指し、今は商店街を歩いている。

 街並みは店の入れ替わりはあるものの、全容は依然と変わっていなかった。

 

 左右を多くの露天商が横並びに広がり、祭りの屋台を思わせるこの感じ。

 整備されていない茶色い土の道に刻まれる多くの人々の足跡。

 正面そびえる場違いなくらい巨大できらびやかな宮殿……に見えるがあれこそ”クォーツ”。

 

 何も変わっていない。

 あの頃のままだ。

 

 ただ一つ、先程から視界の端にちょくちょくすれ違う人達だ。

 彼らは武器の代わりに光る棒と派手な装飾の団扇を装備しており、女性のシルエットが描かれたTシャツを着用している。

 マハーバは何か知っているだろうか。


「なぁ、さっきからチラホラいる光る棒を持った人達は何者なんだ?」

「あれは最近流行ってる”ドラゴン・シスターズ”の応援団」

「ドラゴン・シスターズ?」

「うん。何だっけ……”あいどる”?って言うらしい……」

 

 アイドルか。

 どこか既視感があると思ったが、そういう事か。

 応援団もファンの事を指しているのだろう。

 つまりあの人達の正体はドルオタというワケだ。


「でも何でアイドルがエルカド何かに来てるんだ?真逆の場所だろここは」

「それは”ドラシス”がただのアイドルじゃないから」


 ドラシスって訳すのか……。


「というと?」

「ドラシスは歌って踊って戦える冒険者アイドル。メンバーの五人全員が腕利きの冒険者」


 という事は歌いながら魔物を討伐したりするのか。

 想像すると中々シュールだ。

 

 その後もマハーバの解説(語り)は続いた。

 だが、その内容はアイドルというより先頭集団のソレに近く、聞けば聞くほどアイドル要素はおまけに思えてくるものだった。


 以下要約。


 マハーバ曰く、ドラシスの面白い所は二点あると言う。

 一点目はメンバー入れ替え。

 新メンバーがドラシスに勝負を挑んで、勝つとそのメンバーと入れ替わる。

 新メンバー候補は正規メンバーの中から一人選んで勝負を挑み、そして挑まれた側はこれを断ることは出来ない。

 敗者はその日で引退。

 形式は勿論武器を使ったマジバトル。

 今年入った”テル子”という少女が一対五の勝負を挑み、これを瞬殺した事で話題を呼んだらしい。

 

 二点目はセンター争い。

 こちらは年に一度開催され、メンバー同士でデスマッチを行う。

 ルールはシンプルで最後に立っていた者がその年のセンターに選ばれ、後は倒れた順に立ち位置が変更される。

 これの面白い所は、彼女達の使用する装備の練度が”推し金”の額で決まるという点。

 ”推し金”というのはファンが貢ぐ金の事で、アイドルはその金額の範囲内で装備を整えるというシステムになっている。

 つまり、貢げば貢ぐほど推しは強くなり、センターにも近づくというわけだ。

 

 ちなみに今年のセンター争奪デスマッチは開催されなかった。

 理由は言わずもがな、テル子にある。

 既存メンバーの全員をのしてしまった事と、彼女が強すぎて誰も新メンバーに立候補する者がいないため、現在のドラシスはテル子一人のワンマン状態になっているからだ。


「今さらだけどさ、もしかしてそのテル子のファンなのか?」

「ファンじゃない。”大ファン”」


 マハーバばどこに隠してあったのか、リュックサックから素早くサイリウムを取り出した。

 両手で二本のサイリウムを構える彼女の瞳は、キラキラと輝いている。


「そうか…………。じゃあ時間があったら見に行こうな」

「うん!……でもまずは腹ごしらえから」


 完全に目的がすり替わってしまっている気がする…………。

 さらに余談だが、テル子はアイドル界隈で大人気らしい。

 

 その肩書きは”世界でサイコーのドラゴン娘”。


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