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出発

 

 魔王イヴ。

 人魔共存という名目で人族の完全支配を目論んでいた魔王。

 広義では計画に気づいた聖王国によって討伐された事になっている。

 本当のところはただ純粋に人族と仲良くなりたとかっただけの女の子。

 遺体はとっくの昔に魔族達によって弔われていたと思っていたが、まさか聖王国が持っていたなんて。

 復活しないよう厳重に封印しているのだろう。


「要は頭数揃えてカチコミに行くってワケか。面白そうじゃん」


「野蛮人みたいに言うな。あながち間違いではないが…………」


 シュトラーフもそんな風に思ってたらしい。

 まあ聖王国みたいな巨大な国を相手にする場合、どうであれ数は欲しい所だ。

 個人的には六魔公の他にもう一勢力欲しい所ではある。

 例えば円卓騎士ラウンドナイツとか…………。


「でも俺一人で行くのはちと厳しくないか?魔族は人間を嫌ってる奴らがほとんどだろう。六魔公なんて特にそうだと思うんだが…………」


 六魔公の中には何度かボコった奴もいる。

 俺に何らかの怨みを覚えている者もいる筈だ。

 皆がみんな、シュトラーフの様に友好的とは限らない。


「それについては手を打ってある。マハを連れて行け」


「マハーバを?六魔公とは言えまだ子供だろ。アイツが交渉とかできるように見えないんだが?」

 

「何も交渉だけが全てじゃないだろう。マハは他の六魔公にも好かれているから出会って即戦闘というシーンは避けられる。それに…………」


「それに?」

 

「いや、これ以上は口で説明するより実際に行動を共にすれば良く分かるだろう。ともかく、あの子はお前が思っているよりも優秀だ」


 そういう事らしい。

 まぁ固有魔法も使い勝手良さそうだし、足手まといにはならないか。

 あとは出発日だけだな。

 

「出発は明日にしよう。客室を用意してあるから、今日はそこで休んでいてくれ」


 メイドに案内され、客室に入った。

 凄く広い。

 しかも清潔。

 当たり前の事なのだろうが、長らく牢獄生活が続いたせいでそこら辺の感覚がバグっているのだ。

 部屋の一角には、大の大人が四人同時に寝ても問題なさそうなくらい大きなベッドが設置されている。

 牢屋にはもちろんベッドなんて無かった。


「何かございましたらそちらのベルでお呼びください」

「分かった」


 メイドは一礼して部屋を後にした。

 残された俺は特大サイズのベッドに思いきり身を投げてみる。

 ベッドはふかふかで柔らかい。

 睡眠機能なんてとっくの昔に失くしたはずなのに、どうしてだろうか今なら眠ってしまえそうだ。


 二時間ぐらいたった頃だろうか、目を瞑ってベッドに倒れているとメイドに扉をノックされた。

 夕飯の支度が出来たので呼びに来てくれたらしい。

 相変わらず眠ることは出来なかったが、身体と心はとてもリラックスできた。


 夕飯は一階の食堂で取る。

 いつか映画で見たような長方形の細長いテーブルに、豪華な料理が並べられている。

 

 席に着いたタイミングで、遅れてシュトラーフとマハーバが下りてきた。

 シュトラーフは車椅子ではなく松葉杖になっており、マハーバがそれを小さな体で懸命に支えている。

 

 しかし、もう歩けるようになったのか……。

 流石は魔族、回復が早い。


 全員が席に着き、夕食を頂く。

 

「いただきます」


「食べる前に両手を合わせるのか。変わった作法だな」


 シュトラーフとマハーバが興味深そうにこちらを見ている。

 文化違うし、魔族はやらないよなこういうの。


「ああ。これか」


 どうすれば分かりやすく説明できるだろうか。

 染み付いた動作なので難しい。


「人族のマナーだよ。食材と作ってくれた人に感謝ってな」


「良いマナーだ。早速取り入れさせてもらおう」

「マハもやる」


 そう言って二人は手を合わせた。


「いただきます」

「いただきます」


「おー。良い感じ良い感じ」


 ただ一つ間違っている点を除けば…………。


「それやるの一回だけでいいぞ……」


 俺が指摘するまで、二人は食べる度に合掌していた。


 ***************


 翌日の朝。

 いよいよ出発の日だ。

 

 シュトラーフは俺に人間でも扱えるレベルの装備一式を用意してくれたが、その中から最低限の荷物と手軽な剣だけを貰った。

 防具は着けなくていいのかと聞かれたが、俺は聖剣を握る以前からそういう物は着たことがない。

 師匠に教わった動きを実現するには、少しでも重量を落としたいからだ。

 メタルプレート(鉄製の胸当て。安価で軽量だが防御力はお察し)一枚でも落としたいところ。

 それに当たらなければ問題無いしな。


 一方、今回の旅のパートナーであるマハーバは、大きめのリュックサックを背負っていた。

 彼女はメイドから荷物に関する説明を受けている。


「良いですかマハーバ様。食べた後は必ず歯磨きをする事、他人から貰った食べ物にすぐ手を付けない事。おやつは右ポケットに甘い物、左ポケットにしょっぱい物、非常食は………………」

 

 まるで遠足前の園児とその母親の様だ。

 その内容はほとんどおやつに関する事だけど…………。

 てかあの中に入ってるの全部おやつなのか?

 

 昨日の夕飯の時もそうだったが、マハーバはその体躯に見合わずよく食べる所謂”大食いキャラ”だった。

 幼気な少女には悪いが、財布も紐はきつめで行こう。

 食費で破産だけは何としても避けたい。


 最後に、シュトラーフから軍資金を託された。

 俺の不安を察してか、少し多めに用意してくれたらしい。

 最終準備を終え、いよいよ旅立ちの時が来た。


「時間だな」


「おう、こっちは準備完了だ。お前の方は?」


 俺は隣に立つマハーバを見た。


「ばっちおーけー」


 彼女は両親指を立てて見せた。

 こちらも準備完了の用だ。


「セラ転移魔法の用意を」

「はい」


 あれ?あのメイド少し泣いてる?

 マハーバと別れるのがそんなに寂しいのか。


「転移魔方陣の準備ができるまで少し時間が掛かる」


「どこまで飛ぶんだ?」


「エルカド王国だ。そこにティルルがいる」


 エルカド王国は一言表すと冒険者の国だ。

 かの国が誇る最大の冒険者ギルド【クォーツ】には、古今東西あらゆる冒険者が世界中から集まって来る。

 富、名声、仲間、商業、冒険稼業に関連する事ならエルカドが世界一と言っても過言ではないだろう。

 そのくらい、エルカドという国は冒険者達の間で親しまれているのだ。


「準備整いました」


 メイドの合図を受け、魔方陣の上に立つ。


「そうだシュトラーフ、お前はこれからどうするんだ?」

 

「そうだな、先の件があって私もまだ万全とは言い難い。だが身体が回復し次第、私の方でも捜索に当たるつもりだ」

 

「そうか。あんま無理すんなよ」

 

「皆まで言うな」


 足元の魔方陣が一際強く輝き始めた。

 どうやら時間のようだ。

 マハが俺の服の裾をキュッと握ったのが分かった。


「じゃあ、行ってくる」

 

「行ってくる」


「ああ。頼んだぞ二人とも」


 別れの言葉は手短に、俺とマハーバはエルカド王国へと旅立った。

 

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