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計画

 『行きはよいよい帰り』は怖いなんて言葉がある。

 

 『行くときは何事も上手く行くが、そういう時に限って帰る時には恐ろしい事が起きる』という意味だ。

 

 要は最後まで油断すんなよってコト。


 その結果がコレなのかは分からないが、この惨状を見るに『恐ろしい事』というのが起きてしまったらしい。


「シュトラーフさま!だれか!だれか!」

 

「落ち着けよ。魔族ならすぐ治るだろ」

 

「ダメ!この剣普通のヤツじゃない!」

 

「何だよそれ………………あーこれか……」


 何が起きたかって?


 シュトラーフの脇腹にグッサリと、それはもう深かぶかと剣が突き刺さっているのだ。

 天使の羽を模した装飾が成された銀色の剣。

 忌々しい事にこの俺をボコボコにして地下牢にぶち込んでくれたアルマ聖王国最強の証。

 【円卓騎士ラウンド・ナイツ】を統べる騎士王カインの象徴だ。


 ************


 リュット達が転移した直後に遡る。


「もうすぐ会議が始まります。席についてください騎士王」


「すまないエクレール。客人に土産も持たせずに帰らせるというのは気が引けてしまってね」


 騎士王と呼ばれた男は爽やかにそう言った。

 男の名をカイン・アルトルード。


 アルマ聖王国が誇る最高戦力【円卓騎士ラウンド・ナイツ】の頂点である。

 

 アルマ聖王国が世界の実権を掌握し続けていられるのは、カインがいるからだと言われている。

 逆に、カインが寝返れば、アルマは滅ぶとも言われている。


「さて、用語とも済んだ事だし向かうとしよう。皆はもう揃っているのかい?」

「はい。八名が円卓にて待機、残る四名が別任務で行動中です」


 ありがとう。

 そう言って円卓の間に続く扉を開けた。


 白を基調とした部屋には、大きな円形のテーブルと人数分の椅子が用意されている。


「あ~。騎士王遅刻~?いっけないんだぁ~」

 

「口を慎みなさいマルクト。ていうか貴方、また円卓に枕を持ち込んで…………」


「で?遅刻の理由を聞こうか騎士王サマよ」


「客人に手土産をちょっとね」


「客人?あー外にいた彼らの事だね」


「ちょっと待ちなさい!手土産ですって⁉私の時には何もくれなかったのに!」


「落ち着きなよペネロペ。耳がキンキンする」


「それで?手土産には何を選ばれたんですの」


「あぁそれはね、ちょうど手持ちが無かったから腰の剣を……」


 瞬間、カインは己の背筋が凍る感覚を覚えた。

 恐る恐る振り返ると、そこにはエクレールが鬼の形相で立っていた。


「私、前にも言いましたよね…………。貴方の剣は特別製だから簡単に無くさないで下さいって」

「言ってたっけ?そんな事…………」

 

 カインはすっとぼけた。

 

「は?」


 しかしエクレールに効果は無かった。

 

「すみませんでした。言ってました。忘れてましたッ!」


 カインはその場に土下座した。

 他の円卓騎士が感嘆の声を上げるほどの完璧な土下座だ。

 騎士王の称号を持つ者にあるまじきその情けない姿に、エクレールはため息を吐いた。


「はぁ……お説教は後にしましょう。今は会議を優先に」

「かしこまりました」

「ちょっと!やめて下さい!」


 礼儀正しくお辞儀するカインを手で押しながら席に追いやるエクレール。

 

 騎士王の椅子は、分かりやすいように他の物に比べて装飾が異なる。

 端的に言って豪勢な仕様だ。

 

 カインが席に着くと、それまで各々にとって楽な座り方をしていた円卓騎士が一斉に姿勢を正す。

 そこには、一切の緩みが無い厳粛な空間が広がっている。


「ではこれより、第3回円卓会議を始める。議題は…………ほぅ」

 

 カインは議題の書かれた書類を見て、興味深そうに目を細めた。

 

 会議の回数が少ないのは、それだけアルマが平和だからだ。

 

「議題は”リュット・アロイ脱走”の件と”六魔公の活動再開”及び両者の関連性についてだ」


 裏を返せば、円卓会議が行われるという事は、国に何らかの危機が迫っていることを意味する。

 

 ************

 

 「こちらです」


 メイドに案内され、屋敷の一角にある部屋へ通された。

 

 「大丈夫か?」

 「問題ない。少し気分が優れない程度だ」


 そこには腹部に包帯を巻いたシュトラーフがベッドの上で横になっている。

 

 あれから、俺は血まみれのシュトラーフと泣きじゃくるマハーバを担いで森中を走り回った。

 森を抜けた所で、この屋敷の前で誰かが手を振っている事に気づいた俺はひとまずそこに向かった。

 後になって知ったが、ここはシュトラーフの屋敷だったらしい。

 

 そして、部下の迅速な治療によってシュトラーフは何とか一命を取り留めたのだ。

 当の本人は涼しい顔でこんな事を言っているが、あと少し治療が遅れれば死んでいたかもしれないらしい。

 

 「マハはどうしている?」

 「泣きつかれて今は寝てるよ」

 「そうか……。ここへはどうやって?」

 「担いで来た」

 

 それはもう大変だった。

 特にマハーバ。

 

 「情けない所を見せてしまったな」

 「いや、別に」


 そう言ったシュトラーフは明らかに弱弱しかった。

 今なら殺せるのでは?

 そう思った時、誰かが部屋をノックした。

 先程のメイド魔族だった。


「シュトラーフ様。車椅子をお持ちしました」


 そんな物まであるのか…………。


 シュトラーフはメイドの手を借りて車椅子に座ると、部屋を後にした。

 俺も着いていく。


 下層世界【魔界】

 魔族が住む世界だ。

 とは言っても上を見れば普通に青空が広がっているし、草花も生えている。

 海は分からないけど広い湖だってある。

 下層にあるというだけで、地下ではない。

 そこには【人界】と変わらない豊かな風景が広がっている。

 違いがあるとすれば若干森が多めな感じか。

 

 広いバルコニーに出た。

 そこから庭を一望できるようになっている。


「そろそろ本題を話してもらおうか。俺は何のために助けられたんだ?」


 シュトラーフは振り返らない。

 メイドがバルコニーから出ていくのを確認すると、ゆっくりと口を開いた。


「我々の目的は、聖王国から魔王様の遺体を奪還する事だ」


 ほぅ…………。

 

「しかし人手が足りない。このまま挑んでも殺されるのがオチだろう」


「そうだろうな」

 

「そこでだリュット・アロイ……貴様には散らばった他の六魔公を見つけ出し、呼び戻して欲しい」

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