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悪友

投稿頻度頑張って上げます。

アルマ聖王国はソーン大陸、別名、「神々の跡地アトゴウラ」全域を支配する世界で一番の国力を有する巨大宗教国家である。

 肥沃な土地に加えて、質の良い魔力を含んだ大森林から調達される豊富な資源により、人族が営む中では一番の豊かさも誇っている。


 アルマ聖王国が抱える数ある神聖騎士団の1つ【銀の鶴翼かくよく

 団長であるディーン・マッケンロイは大司祭ロンド・ベルゲから遠征任務を命じられた。

 内容は50キロメートルほど離れた場所に位置する大森林の調査。

 末端の神聖騎士の仕事はこの大森林から発生する魔物の討伐である。

 しかしどういうわけか近頃、魔物の姿が見えないという報告が上がっているのだ。

 聖王国上層部は事態を究明するため、大森林を調査するべきだという結論に至った。

 そこで【銀の鶴翼】に白羽の矢が立ったというワケである。

 (※この世界における騎士団のは少数精鋭で、大体の人数は一部を除き5~6人程度)

 

 「全く、せっかくの休暇だったってのによぉ、何だって森へピクニックに行かにゃなんねーんだ」

 「良いじゃないかピクニック。サンドイッチでも持って行こうか?」

 「いらないですよ……。それにもし行くんなら俺は妹と行くんで」

 「レストは相変わらずシスコンっスね……あいたっ」

 

 和気藹々《わきあいあい》とした雰囲気で談笑する団員達。

 厳格な神聖騎士団の中でも取り分けアットホームな点が【銀の鶴翼】売りである。

 

 自分がシスコンである事を否定はしないレスト・バーナード、

 そんな彼をいじる少女が、リン・フェルマン。

 二人は幼馴染の関係で、両名は今年入団したばかりの新人だ。

 

 「もう少し冒険者が来てくれれば、オレらも楽になるんだけどな」

 「この国冒険者少ないっスからねぇ。アタシらが頑張んないと市民が泣いちゃうっス」

 

 アルマ聖王国は冒険者が少ない。

 その理由は神聖騎士団が優秀過ぎて冒険者の稼ぎが無いからだ。

 

 この国に来た冒険者のほとんどは地味な採集系の依頼か、

 迷宮探索といった比較的難易度の高い依頼の二択を強いられる事になる。

 よくある魔物討伐系の仕事は全て神聖騎士団が解決しているからだ。

 そのため、冒険者の多くは「アルマじゃ稼げん」と言って依頼を受けようとしないのである。

 

 「団長、全員準備整いました!」

 「よし。今回は大森林周辺の調査だけだが、くれぐれも油断しないように」


 いち早く準備を終えたディーンが部下に声を掛けた。

 団員達も談笑しつつテキパキと準備を進めている。

 腰に剣を差し、盾を背負い、兜をかぶり準備完了。


 「では出発だ。総員、馬に乗れ!」

 

 「「「「はっ!」」」」

 

 彼らは銀の鎧、その胸の部分に位置するは、団を象徴する鶴翼を模したエンブレム。

 そこにそっと手を触れ、馬に跨る。

 手を触れるのはちょっとした願掛けのような者だ。

 銀の翼に勝利あれと。

 

 斯くして、【銀の鶴翼】一行は、大森林へ出発した。


 五頭の馬が風を切って走る。

 陣形は団名と同じ「鶴翼」。

 左右Vの字に広げた最も基礎的な陣形だが、それ故に強固な陣形と言えるだろう。

 

 陣形の最奥、一番後方を凛々しい顔立ちの白馬を駆るのが団長ディーンだ。

 くるんとカールした前髪をたなびかせ、目標地点に目掛けて鞭を打つ。


 暫く走ること小一時間、

 大森林が目と鼻の先まで来たところで右翼側の先頭を走っていた団員が声を上げた。


 「報告!前方、大森林手前に魔力反応を感知!魔力針が壊れそうだ!」


 魔力針とは、円形の羅針盤の形をした魔力を検知すると、その方向に針が動くという仕組みの魔道具である。

 あくまで魔力探知機としてであって、方角を示す機能は搭載されていないが、魔力の発生源を辿るという使い方であれば疑似的な進路案内も可能ではある。


 報告を聞いて、リンは即座に望遠鏡を覗いた。

 しかし、それらしいモノの影は見当たらない。


「うーん、何も見えないっスけど…………」

「実は前から壊れてたりしてな」

「二人とも、姿が見えなかったから安全だとは限らないぞ。気を引き締めていけ」


 ディーンの一喝に、レストとリンは慌てて背筋を伸ばす。

 その様子に少し微笑ましさを感じたディーンだったが、彼もまた眼前の異常事態に対して思考を切り替えた。


 が、時すでに遅し。

 次の瞬間、ディーンの視界から天と地が入れ替わった。

 落馬である。


「ぐっ!」

 

 寸での所で受け身を取り、背部に来る予定だった強い衝撃を軽減。

 即座に立ち上がらず、屈んだ状態のまま速やかに状況を確認する。

 

 ディーンと同じように団員もまた全員落馬してはいるものの、負傷者はおらず全員が互いの状況を確認し合っていた。

 新人のレスリンコンビもまた、先輩騎士に習って、周囲の警戒に勤めている。


(負傷者ゼロ。初動は取られてしまったが、まだ立て直せる)


 ディーンは思考を巡らせた。

 

 馬はもう使えない。

 軒並み発狂し、今は半狂乱で野を掛け回っている。

 

 調査に使う予定だった装備は馬に積んだまま。

 手元にあるのは、盾と剣、それにナイフが一本。

 このナイフは枝や蔦を切り裂いて道を開く為の物なのでそれなりに頑丈で切れ味もある。

 ある程度の殺傷能力は期待できるだろう。


 ディーンは三回盾を叩いた。

 ゴンゴンと重た音が響く。

 これは集合の合図だ。

 数十メートル間隔で散らばった仲間たちが、一点に集結した。

 互いに背中を合わせ、丸い盾の様な形を取る。

 用人警護で使用する、360度に対して対応可能を可能とした盾の陣形だ。


「総員構えろ。敵は既に我々を捕捉している」

 

 ディーンは静かに言った。

 

 *******************

 

「ここがその大森林と…………」

 

 シュトラーフに言われるがまま、アルマ聖王国を脱走した俺はシュトラーフの経緯、もとい自慢話を聞きながらコイツの部下が隠れているというアジトまでやって来た。

 そこは大森林と呼ばれるに相応しい、立派な木々で囲われた場所だ。

 

「そういえば、神聖騎士団はどうなったんだ?」

「私の魔法で祖国に対する不満を爆発させ、襲うよう先導した。今頃は国家反逆罪で捕らえられているだろう」

「なるほど。俺達がアルマから簡単に脱出できたのは、既にクーデターが起きていたからか」


 シュトラーフは強力な魔族だ。

 生物の感情を自在にコントロールできる魔法を操り、これまで幾つもの国を大混乱に陥れてきた。

 彼の異名である【混沌卿こんとんきょう】もそこから来ている。

 

 その実力は【六魔公】の一人に数えられるほど。

 【六魔公】とは魔王に仕える六体の公爵という意味で、今はこの世にはいないイヴという魔王に仕える直属の部下を指す。

 

 死するかすみのライトゥルス

 

 獣王リンドヴルム

 

 滅翼のティルル

 

 混沌卿シュトラーフ

 

 不死のカイゼル

 

 未知なるマハーバ

 

 以下6名でお送りしている強力な魔族達だ。

 中でも上から三体は、序列が変わっていなければ魔王に匹敵する力を持っているはずだ。

 

「なんだ、怒らないのか?以前の貴様なら…………」

「うっせ、一々煽ってくんな鬱陶しい。どうだっていいだろそんな事」

 

 恩知らずの馬鹿共を、いまさら労わるわけねえだろうが。

 俺はもう人類には加担したくないんだよ。

 

「そう言えば、お前が捕らえられたのも国家反逆罪だったな」


 まだ言うかコイツ。

 もう駄目だ。

 イライラしてきた。

 さては聖剣ラグロンドのやつ俺から自制心を奪っていったな。

 

「あーハイハイ。そうだよ!俺はまんまと騙されるような愚かな奴で、

 助けた人間にも後ろ指さされるようなろくでなしだよ‼」


 大声で怒鳴りながら大の字で寝ころび、イヤイヤ期の子供みたいにジタバタ暴れてやった。

 

 俺が地下牢獄に監禁されていた理由…………。

 それはシュトラーフの言う通り国家反逆罪だ。

 何をもって国家反逆罪になったかというと、一番デカいのは教皇殺害の罪だろう。


 とはいってもこれは真っ赤な冤罪である。

 その全てを語るには実に十年の時を遡るため、要点を掻い摘んで説明するとこうなる。


「人類の敵だと思って戦っていた魔王は実は良い奴で、人間と友達になりたがっていたのだ!

 仲良くなった俺と仲間達は魔王の計画【人類みんな友達作戦(適当)】に協力する事に!

 ところがどっこい、友好条約調印目前で魔王が謀反!旧中央神聖協会(現アルマ聖王国)

 によって討伐されてしまった。俺は事件の真相を確かめるために教皇へ直談判に行った。

 教皇『やっぱり魔族怖いから殺そう』という事で騙し討ちにしたというのが真相だった。

 全く虫唾が走る…………。一発ぶん殴ってやろうと思ったその時、教皇が突然爆死。

 その場に居た俺がまんまと犯人に仕立て上げられた。それからはあれよあれよと終身判決。

 でも聖剣ラグロンドの恩恵で殺せないから、聖罰せいばつという名の人体実験に使われていた」


 というのがこれまでの俺の経緯だ。

 これで満足ですかシュトラーフさん?!


「いや、すまない……。怒らせるつもりは無かったんだ。むしろ感謝すらしている。

 あの時の貴様の行動に我々がどれだけ救われた事か」


 ………………………………………………。


「あの状況下で、我々は動くことが出来なかった。もし何か行動を起こせば、全面戦争になっていただろう。

 リュット・アロイ。貴様はその最悪の未来を阻止してくれたのだ。改めて貴君に感謝を。そしてすまなかった…………」


 

 なん………………だと……。

 

 頭を下げている。

 

 あの魔族が。

 

 あのシュトラーフが!

 

 頭を下げているだとぅ⁉


 目を丸くして固まっていると、シュトラーフが怪訝そうな顔で言った。


「どうした、聞いているのか?我々は貴様に感謝をだな……」

「聞いてたよ!一言一句全部!あの魔族が謝辞を述べる様をな!」


 するとシュトラーフはますます怪訝そうな顔で言った。

 

「何がおかしい?我々魔族を何だと思っている?」

 

「プライドだけは一丁前に高いコミュ障種族」

「今までの発言、全て訂正して良いか?」


 


 ………………………………………………



 

「はっ」

「フッ」


 しばしの沈黙の後、お互いに笑みが零れた。

 

 人族と魔族。

 相性最悪の悪友が誕生した瞬間である。


リュットアロイの経緯について軽く補足

リュットが冒険者として活動を始めたのは15歳の時、そこから仲間を集めるのに1年、聖剣を手にして名乗りを上げるまで3年、魔王と仲良くなるのに2年かかりました。以降5年間、シュトラーフが助けに来るまで、

聖王国の地下牢に監禁され、朝は人体実験、夜は聖剣に関する情報を開示させるための拷問の毎日を送っていました。

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