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スケッチ
アキアカネが川面を渡ってゆく。鮮やかな赤い胴体が、浮草に生えて美しい。岸辺でスケッチしている青年が、ふとこちらを見た。なんとなく会釈をする。目があったので、意味のない言葉を交わした。
「スケッチですか」
「ええ」
「赤トンボですね」
「はい」
迷惑そうな青年にもう一度会釈して、そそくさとその場を後にする。青年は、近づく足音に邪魔されることを警戒して見ただけだったのだろう。
小さな川は長閑に流れ、人通りは稀である。岸辺のフジバカマが賑やかに揺れる。アサギマダラが誘われて、ステンドグラスのような羽で優雅な舞を見せる。
カシャリとスマホを鳴らして写真に収めた。待ち受けにしよう。上手とは言えないが、疲れた心が癒される気がした。
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