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けれど彼女の予言には我が国の今一番の重要な案件が含まれていない。正直に言って彼女が予言したことは、スタンピードと私のこと以外は瑣末なことと言ってもいいくらいのことばかりである。
彼女の予知能力はどことなく胡散臭い。私ならば、カジノや競馬などに連れて行って本当に未来予知ができるのか試してみたと思うが、その辺りのことはやっていないそうだ。解せぬ。
彼女の予知は当たると言う話だが、以下の問題点もある。
A.基本的にいつ起こるかが一部を除いて曖昧である。
B.背景や理由がわからなくて、結果だけのことが多く、詳細な情報がないこともよくある。
C.時折訳の分からない言葉が混ざることがある。
D.彼女の独特な価値観が予知に反映されていることが多々あり、どこまで信じて良いか分かりかねることがある。
E.バッドエンドやハッピーエンドなど、不思議な理由で途中で途切れる。
F.北部地方の不作や、帝国の不穏な動き――10日前に陛下が追い返して以降帝国からの使者ががぴたりと来なくなったのだ。その上で武器を集めているという情報が影から来ている。恐らくもう間も無く帝国は我が国に宣戦布告するのでないだろうか――など、結構大きな事柄であっても予言していない。つまりムラがある。
「申し訳ありません、お嬢様。この程度しか分かりませんでしたわぁ。」
「私も何かを呟いているところを聞いたりするのですが、よくわからない言葉が多くて…シナリオがどうとかは言ってるんですけど…。意味がわからなくて。」
お父様やお母様、お兄様はすごく難しい顔をしている。わかります、もうこの国に後はありませんよね。
「良いのよ、皆。ありがとう、十分だわ。これで私の取るべき道がわかったわ。恐らくこれが最適解でしょうね。
アメリア、私の荷造りは終わったかしら?」
「はい、いつでも出発できます。ほとぼりが冷めるまで修道院に行かれますか?
なんだか負けたみたいで気分が悪いですが、お嬢様の生命には代えられませんものね。」
「いいえ、行く場所は修道院じゃないわ。
……ねぇ、みんなが言う様に私って魅力的かしら?」
「「「もちろんです(わぁ)」」」
「そう、信用するわ。
お父様、お母様、お兄様、私リーンバードに行こうと思います。もし失敗したら生命はないでしょう。けれど、恐らく私が一番使者として適しています。うまくいったら卒業パーティーには帰ってきます。それで…」
侍女達の言葉を聞いて私は家族に私が取ろうと思っている行動を報告する。
「うむ、それしかなかろうな。もうそろそろ無理だとは思っていたが…しかし、リズ。本当に行けるのか?せめてわしが着いて…」
「いいえ、お父様。この国でなんとか踏ん張ってくださいませ。私もクラース家の娘、領民のためにも成功させてみせます。」
「多分それ以上の方法はないわね。」
「こちらでも、きちんと対策を進めるけど、リズ、絶対に無理だけはしない様に。リズはめんどくさがり屋のくせに、いざ動くとなったら思い切りが良すぎるところがあるから。」
お父様やお母様は納得してくれたのに、お兄様だけは私に釘を刺してくる。お兄様は時間が許す限り私といるので――侍女達が言うにはすごいシスコンというものらしい――私のことをよく理解している。
「私の生命がかかっておりますし、何よりこれ以上被害を出すわけには参りませんもの。民を守るのは貴族の務めです。少しばかりの無茶でなんとかなるなら、大目に見てくださいませね。」
「少しばかりの無茶ならね。」
「それと、オーウェンのことは…」
可愛い弟だが、このままでは諦めるしかないかもしれない、とお兄様に言いかけた。我が家は家族仲が良いのできっと皆悲しむだろう。
けれど、お兄様は実に晴れやかに笑って言った。
「あぁ、オーウェンのことは心配いらないと思うよ。」