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 そして3日後、ナターリエはお茶を入れながら、結果を報告してくれた。


「お嬢様ぁ、残念ながらあの似非聖女の裏にはなにもない様ですぅ。隣国とは接点もないですしぃ、国粋主義の老害達も一度近寄ろうとしたけどぉ、あまりにも馬鹿なのでぇ、近寄るのをやめたみたいなんですぅ。まぁ、賢明な判断ですわよねぇ?あとあと、頭でっかち(ドリー)脳筋(トレル)の実家も彼女を消したいみたいですよぉ。ただ、国王陛下と妃殿下だけはぁ、彼女に歩み寄りの姿勢を見せてるみたいですねぇ…きっともっとダイヤの鉱山が欲しいんですよぉ。でもそのせいで妃殿下は、国粋主義の派閥から非難されてるみたいですぅ。」


 彼女の入れてくれた紅茶を飲もうとしたが、やはりいつもより飲みにくい。聖女さまの未来予知を覆す策の一つとしてあの日より実行していることがあるが、とても不便である。


「そう、……教会の可能性は?」


「それも一応調べてみましたけどぉ、あそこまで恥知らずな真似をする様な聖女はいらないそうですぅ。というよりぃ、できれば教会としても品位を落とす似非聖女を消したいみたいなので白ですぅ。」


 苦労して紅茶を飲んでいると、いつかの再現の様にベラがまたもや部屋に飛び込んできた。


「お嬢様!それでもなりませんでしたわ!未来は変わらないそうです。」


 やっぱりダメだったかと私はベールを投げ捨てた。そう、ニコラス殿下が私に一目惚れをすると聞いていたので、三日前から顔の前に厚いベールをつけてみたのだ。『曽祖母の実家では女性は婚姻後はベールをつけて暮らす習慣があり、それに感銘を受けた。慣れるために先日からしている』と言う説明をして、毎日ベールをつけた。もちろん大嘘である。外出時だけでなく、家族にも事情を説明して、家の中でもベールをつけた。王妃教育に行くときですらつけたので、周りにドン引きされたのに、全くもって無駄であった様だ。

 まあ、ダメ元の作戦ではあった。私が殺されたり内乱が起きたりするよりも、私がどん引かれる方がまだマシだと思って決行したのだが、思ったよりダメージが大きかった…。


「あの暗愚もお嬢様がベールをしていらっしゃるところを見て、ちょっぴり引いたそうですけど、『これなら問題ないんじゃないか?』って似非聖女に確認したんです。そしたら、『お嬢様の絵姿は残っていらっしゃる』し、お嬢様の女神もかくやと思われるお姿を『想像して余計に欲しくなる』そうです。まぁ、ニコラス殿下がお嬢様に一目惚れをするのは間違いないとのことで、そのせいであの暗愚も迷っていたけど、作戦の決行を心に決めた様です。」


 もう、ちょっぴり引いたのならそのまま私のことは諦めてほしいものなのだが…。あの軽率殿下にすら引かれていたとか言われると流石の私も少し傷つく。


「じゃあ、どうしても私が直接動かなきゃいけないわね。あぁ、もう面倒くさい!さて、どうすべきかしら。」


「お嬢様に惚れると言う見る目はあるけど、王族として自覚のない馬鹿を暗殺するのは如何でしょうか?」


「今のところ、ニコラス殿下は隣国の城内で人質中よ。そこまでたどり着いた上、暗殺しなきゃいけないのよ?まず無理ね。しかも暗殺者が捕まってうちの人間と判明してごらんなさいよ、同じ国の民とは言え、人質を殺そうものなら宣戦布告と取られても仕方がないわ。

 それに帰国は卒業パーティの1週間後らしいから、帰国後の暗殺はしても無意味ね。きっと私はニコラス殿下に会う前に毒杯を賜るでしょうから。」


「旦那様に頼んで、婚約解消をしてもらった後に、他の人と結婚してみるって言うのはどうですか?」


「そもそも私が他の男に取られるのが嫌で私を殺そうとする男よ?死期が早まるだけな気がするわ。

 そう言えば聞き忘れてたんだけど、ベラ。そもそも私はどんな罪で裁かれる予定なの?」


「頭が痛くなりそうなのであまりお聞かせしたくありませんが、『似非聖女を虐めた罪』だそうです」


「現在進行形で私の方が被害を被ってる気がするんだけど?しかも、公爵令嬢が男爵令嬢を虐めたくらいで死刑ならこの国には貴族なんて誰も残らないわよ。本気なの?」


「えぇ、本気も本気です。『将来王妃になる予定の男爵令嬢を虐めた罪で、更に彼女を階段から突き落として殺人未遂を行ったと言う罪を捏造する予定』らしいです。」


「言いたくはないけど、我が家がその気になったら教会とでもアンナ様やミア様、それにドリー様やトレル様のご実家と手を組んで、彼女の家を潰すなり彼女を闇討ちするなりなんなりした方が確実だと思うんだけど…。私と違う世界(お花畑)に生きている人間の考えることってついていけないわね。」


 はっきり言ってそんな馬鹿な理屈が罷り通る国なんて滅びてしまうと思うのだが、どうなんだろうか。


「じゃあ、あの愚鈍をぉ、サクッとやっちゃいましょうかぁ?」


「うん、それをやっちゃうと私が犯罪者になるわね。だって殿下は私を殺そうと考えてはいるものの、()()私を殺してないんですもの。下手したら我が家は叛逆者扱いされて一族郎党、首ちょんぱね。

 もし私が『ビンセント嬢のご神託とやらで冤罪を被せられて毒杯を賜りそうになったんです。理由は男爵令嬢を虐めた罪で…』なんて言ったところで信用されないわね。絶対に謀反を起こそうとしていると判断されるわ。だって私でもそう思うもの。

……非常識な人間って本当にどこまでいっても迷惑ね。」


「国王陛下に彼らの企みを話して、卒業パーティーにお越しいただいて、あの凡愚を止めていただくっていうのはどうでしょうか?」


「卒業パーティーには本来陛下も私のお父様もお越しになるはずなのよ。それでも聖女さまが『私を断罪して、毒杯を授ける』と言う案を殿下に推奨するからには、きっと『陛下もお父様も抑制剤にはならない』ってことじゃないかしら?

 それにしても『男爵令嬢が正妃になる未来』も、『公爵令嬢が男爵令嬢を虐めたくらいで死刑になる未来』もあり得ないくらいの非常識よ。そんな非常識が罷り通る未来なんてどう防げって言うのよ。」


「確かにはっきり言って異常ですね、あの凡愚がどうしても似非聖女を迎え入れたいと言うなら、どこかの家に養女に入ると言う手があるかもしれませんが…。」


「ないわねぇ。だってあの似非聖女を養女にするってことはぁ、下手したら教会を敵に回す行為よぉ。普通の貴族なら辞退するわねぇ。

 それにぃ、男爵令嬢ならよくて側妃止まりだわぁ。正妃になんてしようものならあちこちから反対されるでしょうねぇ。」


「ねぇ、ベラ。あの凡愚はそれでも似非聖女と結婚しようとしてるの?」


「うぅん、暗愚は似非聖女には本当に靡いてないの。でも似非聖女云く『結ばれる』そうよ」


「あぁ、もう、未来予知ができる聖女とやらを相手にしてどう戦えって言うのよ。まだ起こってない未来に対処しようにも、相手はどこまでも非常識にできているし。こちらが常識的に対処しようとすればするほど、私たちの良識を疑われそうよ!」


 正直頭を抱えるレベルの難問である。今まで色々な面倒に直面してきたけど、こんなにどうすれば良いかわからない状況は初めてである。

 しかし、だからと言って諦めてはならない。ことは私の生命もだが、内乱も関わってくることなのだ。


「ベラ、悪いんだけど殿下を上手いこと煽てた上で操って確認して欲しいの。私が生き残る未来があるかどうか。あと、聖女さまとやらが予言したって言う今後についてもまとめてくれるかしら?

 ナターリエ、貴女は聖女さまとやらが、予言した事柄を調べてくれる?できれば、当たったものも当たってないものも全て含めて。

 アメリア、貴女は万一のために私が修道院に入れる様準備を進めてちょうだい。」

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