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そう、どう考えても私をそんな目に遭わせたら我が家が黙っていないはずだ。もし、どうしてもそれをするなら、我が家を抑えつけることのできる存在が必要である。今の王家にその力はない。それならば隣国からの介入か、もしくは国粋主義と呼ばれる貴族たちの後押しがある可能性がある。
国粋主義とは、我が国だけで十分に生きていけるから、他国と付き合う必要がないと考えている貴族たちの鷹派であり、この派閥の長とも言える家は王妃さまのご実家である。我が家は他国との唯一の交易の窓口であるため、彼らの攻撃の的になっている。
しかし、彼らに言いたい。我が国と隣国は陸続きである、ということを。北側は海だが、東は小国のアウスドル王国。西南方向は大国である軍事国家のリーンバード帝国に隣接している。国粋主義は『我が国だけでも生きていける』と主張しているが、こちらが関わり合いにならずとも向こうからやってくる可能性だって大いにある。
実際に隣国は今まで我が国にほとんど干渉してこなかったが、これからは違う。今もかなりの頻度で我が国に使者を送ってきている。
隣国の先代の皇帝は10年以上前に35歳と言う若さで崩御した。そのあと帝位についた現皇帝のレオンハルト陛下は、11歳という若さで即位した。彼は好戦的な性格をしているという話でーー我が家の影はなかなか腕がいいのだが、それでも現在の帝国に入り込むことは難しく、殆ど情報がないのだーー近隣の国を攻め、併呑している。
併呑された国は国名こそなくなり、言葉も隣国のもの――ただし、リーンバード語は公用語なので喋れない人間はほぼいない――を使う様に強要されるが、敗戦国と言っても酷い扱いを受けることはあまりない様だ。併呑して3年間は他の地域に比べて税金が2割高く取られるらしいが、4年目以降は現在の国民と同じ税金になる。奴隷にされることや率先して戦争の先兵にされることもなく、また、福利もきちんとしているため、併呑された方が生活が楽になっている地方もあると聞く。
そんな国王としての評価に比べ、男性としてのレオンハルト陛下はあまり評判がよろしくない。彼には正妃がまだいないので、本来なら引く手数多だと思うのだが、嫌厭される傾向にある。なぜなら併呑された国との関係を強めるためか、側妃が二十人以上いるためである。帝国が強大な力を持っているにも関わらず、一度も戦わずして降参した国は少ないと聞くのはレオンハルト陛下の評判の悪さがひと役買っているのかもしれない。
肥沃な穀倉地帯を持つ我が国に対して、レオンハルト陛下が放置しているはずもなく、彼が即位してから我が国も人質を要求され、実際に第二王子を人質として取られている。つまり、我が国としても対岸の火事ではないのだ。
歴史書を開いてみるとお分かりいただけると思うが、好戦的な国というのは、ある一定周期で誕生するものだ。とある人が言っていた。『平和とは戦争と戦争の間である』と。つまり、平和が続いているからと言って油断していいわけではないのだ。
だから、我が一族は国を守るためにずっと他国の動きを注視しながら生きてきた。そんな我が家に対してよくもそんな舐めた真似をしようと考えたものである。