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我が国、アルディス王国はそう大きな国ではないが、肥沃な穀倉地帯を持っており、農業で成り立っている中堅国家である。どこか牧歌的な雰囲気を持つ我が国の人間はのどかで、おおらかな人種だが、どこか排他的である。王家を始め、この国の人間はあまり、国外の人間と接触がなく、必要とすら思っていない。つまり、我が国には外交が得意な人間が少ない。国王陛下ですら、今日も隣国の使者を追い返してご満悦な表情を浮かべていたと言うのだから、目も当てられない。
そんな国民性の中で、我がクラース家と分家だけは国外に目を向け、外交の大切さを認識して学びながら生きてきた。そのため、我が国での国外との唯一の窓口となり、近隣国との協定や貿易なども一手に引き受けている。だから、ある意味王家よりも強い力を持つ。これが我が家が陰の王家と言われる所以であり、私とマーティー殿下の婚約が取り決められた理由である。
我が公爵家以外に国外と関係しているのは、もはや隣国となった軍事国家である大国のリーンバード国に留学――人質とも言う――に行っている第二王子のニコラス殿下のみである。
侍女たちは私の方を向いて、私の指示を待っている。私がどの様に動くか、その上で自分たちが何をすればいいのか指示が欲しいのだろう。
「結婚するまではある程度自由にしてもいいとは思っていたから放置してたけど、私に害を及ぼすなら色々と手を打たなくてはいけないかしら?
あぁ、めんどくさい。遊ぶなら遊ぶで適当にバレない様に遊んで欲しいものなんだけれど。いちいち対処させられるこちらの身にもなって欲しいものね。私だって暇ではないのよ。
それで、ベラ、殿下はどうしてそんな馬鹿なことを言い出したの?例の聖女さまにとうとう傾倒なさったのかしら?」
私たちが通う学園に『聖女さま』がやってきたのは去年のことだ。私たちの通う学園は貴族は義務として、平民はある一定のレベルに達しており、かつ本人が希望すれば入れる五年制の学校だ。
問題の聖女さまは昨年入学してきた。男爵の庶子で市井で育ったという彼女は私たち貴族の女性から見たらとても掟破りな方だった。
婚約者でもない方に馴れ馴れしく触り、愛称で呼んだり、呼び捨てにしたりする。しかも男性と密室で2人きりになることも厭わないという、なんというか、はしたないと言われる様な行動をとる女性だった。
私たち女性から見るととんでもない!の一言だが男性たちから見たら魅力的に映ったらしい。彼女の周りには高位貴族の子息たちが、いつも彼女を取り巻いている様になった。恥ずかしいことにその中には私の弟であるオーウェンもいる。
彼女は珍しい光属性の持ち主で、噂によると未来予知ができるらしい。例えば火事や事故、スタンピードの出現時期などを次々と予言しているそうだ。また、マーティー殿下の側近である宰相子息のドリーや、騎士団長子息のトレルや弟のオーウェンの悩みや今後についても次々と当てて、彼らに寄り添い、彼らの心を鷲掴みにしたらしい。
そのために彼女は取り巻きの子息たちに、『聖女』と呼ばれ、尊ばれているらしい。未だ国や教会からは聖女と認められていないので、下手に名乗ると面倒なことになると思うのだが、そこは第一王子のご威光か、今のところ問題視されていない。