バトルトワイライト
放課後、同級生達は明日から始まる冬休みに心を躍らせているようだった。それに引き換え、今日は英語の授業が2つもあったので、俺の精神は疲弊していた。俺は部活をやめってしまったのでこの後の予定はなかった。
「さっさと帰るか。」
校舎を出て見上げた空はまだ明るい。俺は既に慣れた通学路を歩いた。その途中で今日が小説の新刊の発売日であることを思い出した。ここから本屋に向かうには裏路地を使うのが近道だ。俺は裏路地を目指して、車の多い大通りを右に曲がった。そこから少し歩くと裏路地の入口があった。そこには裏路地へと入って行く一人の女の子がいた。一瞬で姿を消してしまったが、間違いない。あの赤い髪留めをつけているのは俺の知り合い、二階堂 秋だ。二階堂と俺は、家が真向いにあり言うなれば幼馴染というのかもしれないが、中学生以降まともに話していなかった。高校が別だったからだ。
「なんで、こんなところにあいつがいるんだ。」
彼女に気づかれるのは嫌だが、今から道を変えるのもなんだか癪にさわる。悩んだ末に俺は二階堂の後を追うことにした。
傾いた日が路地裏に差し込むことはなく、周囲は薄暗かった。そのため俺は二階堂の姿を見失ったが、幸いこの裏路地は一本道だ。俺はところどころ落ちている空き缶を踏まないように気を付けながら、道を進んだ。路地の中程まで来たとき突如俺の頭上から何かが激突したような音が聞こえてきた。びっくりして頭上を見上げると、廃ビルの屋上から室外機が落ちてきた。俺は間一髪で横っ飛びしてそれを避ける。地面に落ちた室外機は衝撃で粉々になった。飛んだ破片が俺の頬を切り抱く。俺はただならぬ事態が屋上で起きていることを察知した。俺はそれに二階堂が関わっているのではないかという疑念に駆られて、屋上に続く外付きの階段を駆け上がった。
「これはいったい、、、」
屋上に広がる光景を目にした俺の口からそんな言葉が漏れ出た。俺以外にいるのは二人。一人は全く知らない奴だ。手にピンクの炎の玉を浮かべていた。もう一人は二階堂だった。二階堂の横には鉄製のドアが浮かんでいた。先に動いたのは二階堂だ。彼女が手を前に突き出すのと連動するようにドアが相手に向かって飛んでいく。あのスピードで当たったら相手は無事では済まないだろう。しかし、相手はその顔に薄く笑みを浮かべた。
「まずい」
俺は二階堂めがけて駆け出す。男の手の上に浮かんでいたピンクの炎の玉が形を変えて柱となり天を穿つ。男はその炎を、まるで手に持った剣のように振り下ろす。
「やめろおおおお」と俺は叫んだ。
炎の柱はドアもろとも二階堂を焼き払った。そこには初めから何もなかったかのように、残されたのは俺と男だけだった。
「そんな、、、、」
呆然と立ち尽くす俺。そんな俺に男が声を発した。
「なんだ、能力者かと思ったが、あの女の知り合いか・・・それならば相手にする必要はない。」
男が身を翻し、俺の目の前から立ち去っていく。それを見て俺が感じたのは恐怖はなく怒りだった。
「待てよ。くそ野郎。」
「・・・フハハハハハ。愚かな奴。大人しくしていれば見逃してやったものを。そんなに死にたければ死なせてやる。」
そいつは振り向くと、手に先ほどのピンクの炎の玉を出現させた。炎は形を変え剣になる。そしてこちらへ歩いてくる。俺は後退ることしかできなかった。
「ハハハ、無様だな。」そいつが言った。
流石に素手で太刀打ちするのは無謀すぎる。何か使えるものはないのか。思考の末に俺は背負っているリュックの中から水筒を取り出した。
「そんな物で何ができる。」とそいつが言った
俺は手に持った水筒を思いきりそいつに投げつける。この距離でそれを避けるのは難しい。俺が思った通りそいつは剣を一閃させて水筒を切った。その瞬間、起きたのは大爆発。俺は予期していた衝撃波を避けるために地面に倒れこむ。もろに爆発をくらったそいつは吹っ飛んで行って落下防止用の柵に激突した。柵は衝撃に耐えきれず根元から折れる。そいつは両手で縁を掴むことで何とか落下をまぬがれていた。俺がそいつの真上まで行くとそいつが言った。
「やめろ、私にはやらなければいけないことがある。あの女を殺したのは仕方なしにやったことだ。」
俺にとってそんなことは知ったことではなかった。俺は縁を掴む片方の手を足で蹴った。そいつは肩上の手で体を支えている。その手を蹴ればそいつは地に落ちるだろう。
「や、やめてくれ。」
「死ね」と言って俺は足を振り上げる。この足を振るうだけでこいつは終わりだ。
「まって、その男を殺してはダメ。」俺の後ろから声が聞こえてきた。
「誰だ?」俺は振り返った。そこにいたのは一人の女。
「お前はこいつの仲間か。」俺がそう尋ねると女は答えた。
「いいえ。私はあなたの味方よ。」
「そうか、なら何故止める?こいつは秋を殺したんだぞ。」
「それは、あなたが命の重さをしらないから。」
「知っているさ。もう二階堂が笑うことはないんだ。こいつは二階堂の仇だ。」
女は俺の方に歩いてきて言った。
「それに秋もそんなこと望んでいない。彼女は殺される覚悟をして戦っていたんだから。」
「なんだよ、殺される覚悟って?この世に自分の命より大切なものなんてあるのか?」
「ふん、わからないさ。お前のようなガキにはな。」そこで俺の敵が口を挟む。
なんて、ふてぶてしさだろうか。自分は殺されないと高をくくっているのだろう。
「今すぐ殺してやる。」そいつに向き直った俺の肩を女がつかむ。
「おちついて。簡単に相手に乗せられないで。」
その時、その男は片手を縁から放した。
「バカめ、貴様らが会話していたおかげで、私の力は少なからず回復した。」そう言って手の平を俺に向ける。。まずい油断していた。あの手から放射されるであろう火の柱を避けることは出来そうにない。
まずったな。俺は自分の敗北つまり死を意識した。しかし、そいつの手からは、火の柱どころか炎さえ出ない。
「な、何故炎が起こらない。」と男が困惑の声をあげた。
「能力の無効化。それが私の能力よ。」そう言ったのは俺の隣にいる女だ。彼女はそいつに向かって続ける。
「原書を出して。」
「くそっ。私の悪運もこれまでか。」そいつはそう言いうと片方の手で懐から一冊の小説を取り出した。
女はその本を受け取るとカッターナイフでそいつの指を切った。
「サインして。」そう言って本に血文字のサインをさせた。
そして女が俺に言う。「あなた、その男を引っ張り上げて。」
この女は何を言っているのだろうか。「なんで俺が。君がやればいいじゃないか。」と俺は抗議した。
「私の力では無理よ。」
「・・・」
俺は死ぬほど嫌だったが、そいつを引っ張り上げた。
「では私は失礼するよ。」
「・・・」何とか蹴とばすのをこらえた俺を褒めてほしい。そいつはそういうと屋上から去って行った。
「で、能力って何なんだよ。二階堂は何に巻き込まれていたんだ。なんで殺されたんだよ。」俺は隣にいる女を問い詰めた。
「説明する前に私の名前を言っておくわ。私は夕日 瑠香。君は帳 火炉十ね。秋から君について聞いたことがあるの。私は秋の仲間だったから。じゃあ、帳の質問に答えようか。まず能力について。これは異能の力のこと。異能は多岐に渡って存在している、さっきも言ったように私の能力は能力の無効化。そして二階堂 秋の能力は物体浮遊。そして能力の習得方法はこの本を読み終えること。」そう言って女は男から取り上げた本を俺に見せた。「これは原書と呼ばれている。1つの原書で取得できる能力は1つまで、一人が取得できる能力も一つまでだ。一度誰かに読まれた原書は例外を除いてその効力を失う。この例外というのは二つあるの。一つ目がその能力者が死んだとき。二つ目がさっき行った通り、能力者が他者と能力破棄の契約を結び、その印として原書に血文字でサインしたときよ。そして一度能力を破棄したものは二度と能力を得ることができない。二つ目の質問について。当たり前だけど、原書には著者がいる。原書には北川 作と書かれているわ。原書の内容は習得できる能力についてともう一つ。」
そこまで言って夕日は持っていた原書のある一ページを開いく。俺は夕日から原書を受け取り、
そのページに目を走らせる。
ここに書かれている事項は強制ではない。各々の判断に任せる。
以下の条件のどれか一つでも満たした者には、どんな望みも一つ叶えよう。
ただし叶える望みを増やすって望みは無しだ。ズルだからね。
一 十冊の原書を集める。
二 十人の能力者を殺す。
祝福しよう。新たなる物語のはじまりを。
今ここにバトルトワイライト勃発を宣言する。
「つまり今の戦いはこの条件を満たすための物だったてことか。」
「そう。私と秋はこの戦い、バトルトワイライトで1つ目の条件を満たすために戦っていた。でもさっきの男のように能力者殺しをいとわない奴もいる。」
「なんでそんな奴がいるんだ?」
「それは、そっちの方が効率がいいからよ。例えばAという能力とBという能力があったとするわ。そしてそのAの能力はBの能力に対して有利だったとき、Bの能力を持つ術者を殺してその原書を奪い、別の誰かにBの能力が発言する原書を読ませたとき、Aの能力者はまたBの能力者と戦うことができるのよ。これを繰り返せば、簡単に条件を達成することができるわ。」
「ちょっと待ってくれ、さっきのあいつは秋ごと焼き殺したんだぞ。原書のことなんて考えてなかった。」
「えっと、言い忘れていたけど原書が消滅することはないのよ。」
「え?つまり、二階堂の原書は?」
すると夕日はポケットからさっきの物とは別の色の原書を出した。
「これが秋の原書。秋の能力は決して守りに向いた能力じゃなかった。だから私が預かっていたの。」
「くそっなんで、なんで二階堂はそんな危険なことしてたんだ。」
俺は夕日に詰め寄った。
「それは・・・私にはわからない。でも、たぶんあの子は戦ったことに後悔してないと思う。」
「なんで、どうして俺に助けを求めてくれなかったんだ。」
「・・・・」
もう遅いというのだろうか。
「秋を生き返らせるほうほうならある。簡単なことよ。バトルトワイライトの条件を達成すればいいのよ。でもあなたは死ぬかもしれない。その覚悟はある?」
そうか、まだ俺にはできることが一つだけ残っていた。
「やるさ。こんな終わりなんて冗談じゃない。」
「そう。それで、帳はどっちの条件達成を狙うの?」
「一さ。二の方は秋に怒られそうだからな。」
「提案なんだけど、私と協力しない?」
「君と?」俺がそう問うと夕日は頷いて言った。
「勿論、条件の達成報酬は帳にあげる。私はこの戦いを終わらせるために戦っているだけだから。」
「そっか。じゃあよろしく。」
「うん、よろしくね。」
夕日は華奢な手を差し出す。少し照れ臭いが俺も握手に応じた。
「明日、帳は何か予定はある?」
と夕日は俺に聞いてくる。明日は土曜日。ずっと暇しているだろうな。
「いや。たぶんずっと暇だ。」
「そう。なら明日私の家に来てくれない?集合は十時にきさらぎ駅の時計塔前でいい?」
「ああ、それで大丈夫だ。」
「それと、持ち物だけど明日から私の家で過ごしてもらうことになるだろうから宿泊用の準備もよろしくね。」
「ふぇ?」思わず俺は情けない声を上げてしまった。
「心配ならいらないわ。家には私一人しかいないから。」
「そういうことじゃなくて、俺は未成年だ。そう何日も家を出られないよ。」
「そこは、ほら友達とお泊り会だとかなんとかいくらでもあるでしょう。敵はいつ襲ってくるかわからないもの。二人でいた方が安全だし、それにあなたも家族を危険にさらしたくはないでしょう?」
たしかに夕日が言うことにも一理ある。
「わかった、そうするよ。」
(よかった。)小声で夕日がそういうのが聞こえた。
夕日も一人でいのるが怖かったのかもしれない。
「それじゃ予定も決まったことだし、家に帰りましょうか。」
「そうだね。」
そうして俺たちは廃墟ビルの階段を降りる。
「じゃあ、また明日な。」
「うん、また明日。」
俺と夕日は降りたところで別れた。
「今日のゲストは注目の若手マジシャン、府鬼頭 葵さんでーす。」
「どうもーよろしくおながいしまーす。」
「聞くところによると、新井さんは府鬼頭さんのファンだそうなんですよー。」
「いやー僕は初めて彼女のマジックを見たときはね。驚きましたよー。物が一瞬で出たり消えたりしてね。実は超能力とか使ってるんじゃないのー」
「新井さんも超能力では?と疑ってしまうほどのマジック。後ほど番組でも披露していただきますので、楽しみにしてお待ちください。それでは、今朝のニュースでーす。」
「話題の怪盗 メサ、なんと、今日の午前零時、予告通りブルースピリッツダイアを盗み出したようです。」
「警察は何をしているんでしょうねー。あんな予告上なんて、完全になめられてますよ。」
付けっぱなしのテレビを横目に俺は荷物を確認する。
「よし、これで問題ないだろう。」
戸締りを済ませた俺は準備していたリュックを背負って家を出た。晴れているとはいえ冬のきさらぎ市は寒い。マフラーを巻いてきて正解だった。自転車を二十分ほど走らせると、きさらぎ駅に到着した。
時計塔の前には既に、夕日の姿があった。夕日はまだ俺に気づいていないみたいだ。俺は自転車から降りて声をかけた。
「おはよう。」
「わあ」夕日は驚いたようだった。可愛いところもあるじゃないか。夕日はこちらに顔を向けると言った。
「えっと、おはよう帳。ついてきて。」夕日は取り繕うようにそう言った。俺は歩き出す夕日の後を追う。
「そういえば、もうすぐ昼だけど、どっかで食べてく?」と俺が聞いた。
「えっと、昼食は家で私が作るつもり。嫌だったら外食してもいいけど・・・」とそんなことを夕日は言った。
「嫌なんかじゃないよ。手料理なんて、夢みたいだ。」女の子の手料理なんて人生で初めてのことだ。俺は素直な感想を述べたと思う。
「なんだか大袈裟ね。」
やっぱり夕日の言う通りだったかもしれない。
駅を出て川を渡ると、川沿いの道の隣にコンビニがあった。小腹が減ったらお菓子でも買いにこよう。俺は頭のメモに位置を記録しておく
「こっちよ。」
俺が真っすぐ行こうとすると夕日はその川沿いの道に曲がった。俺は慌てて方向転換する。その時俺は後ろから視線を感じたような気がした。
「ん?」俺はその違和感に立ち止まって振り返る。だが、そこには後ろから来るのは乗用車だけだ。
俺の勘違いだったかもしれない。俺は気になっていたことを夕日に聞いてみた。
「そういえばどうやって他の能力者の居場所を見つけているんだ。」
「決闘の日時と場所がインターネットの掲示板に張り出してあるのよ。」
夕日はそう言った。俺は頭にきた。だってもし夕日の言っていることが本当なら二階堂の死は偶然ではなく必然だったってことになる。それは二階堂や夕日の意思次第で避けられたということ。
「昨日もそんな誘いに乗ったていうのか。」
俺はつい声を荒げた。
「それが、私にもわからないのよ。インターネットの掲示板にそんな書き込みはなかったから。昨日何故秋があの場所にいたのか誰が秋を誘ったのか。」
「・・・」
「お邪魔しまーす。」夕日の家は駅から歩いて十分とかからないところにある一軒家だった。
「ご両親は?」
「この家にはいないわ。」
「そうなんだ。」
夕日の言う通り、この家には夕日の他に住んでいる人の痕跡がなかった。つまり夕日の両親は長いことこの家を留守にしているということになる。昨日も聞いていたが、まさかこんな一軒家に一人で住んでいるなんて驚きだ。
「適当にくつろいでて。漫画とかも本棚にあるわ。」
「へー夕日も漫画とか読むんだな。」
「意外だった?」
「まあ。」
「私も普通の女子高生よ。」
普通の女子高生が異能力バトルはしないだろうという突っ込みはやめておいた。なんだか夕日は普通でありたいと望んでいるように思われたからだ。俺は本棚に何の漫画があるのか探す。少年ステップ系列の漫画もちらほらあった。俺はそれを何冊か手に取って読むことにした。海賊もの忍者ものと読み進めたところで、夕日の料理が出来上がったようだった。たくさんの料理がテーブルに並んだ。俺はさっきのことを誤ることにした。二階堂の死の責任が夕日にあるわけじゃない悪いのはあの男ただ一人だ。
「ごめん、さっきは言い過ぎた。」
「いいわよ。怒るのは普通だとおもうわ。何かのために命を懸けるなんて今の時代簡単には理解できないから。」
「ごちそうさまー」
夕日の料理はめっちゃうまかった。自炊ていると言っていたので、料理に慣れているのだろう。本当にこれから一緒に過ごすのなら、すべて夕日に任せるわけにはいかない。現時点での俺の料理スキルは高校の家庭科の成績で3と言ったところ。ちなみに噂では家庭科の成績が3以下の生徒はいなかったらしい。つまり実質一番下の評価ということだったし、俺自身もその評価の通りの実力だと思っている。これから勉強していこうと心に決めた。俺が食器をキッチンに運んでいくと、自動洗浄機がついていた。俺の母さんが欲しがってたっけ。たしか結構な値段だったはずだ。やはり夕日の家はお金持ちなのかもしれない。食器洗いは機械に任せて、俺たちはこれからのことについて話し合うことにした。夕日が口を開く。
「まずは帳の戦力が今のところはとんどゼロっていのが問題よね。」
いきなりそんなことを言い出した。この発言を黙って見過ごすわけにはいかない。
「昨日は能力者相手に勝ったじゃないか。」と俺が講義する。
「たまたまよ。それに相手の油断もあったわ。」
「・・・じゃあどうするっていうんだよ。」
「帳にも能力が必要よ。今私が持っている原書は3つ。1つ目は昨日の男が持っていた炎を操ることができるようになる原書。2つ目は二階堂 秋の物体浮遊の能力が得られる原書。最後の一つは、私と秋で取った原書。そしてたぶん最強の原書の一角。得ることができる能力はコピー能力。原書の能力をコピーすることができる能力だと思われるわ。」
そう言って夕日は3つの原書を順番にテーブルに並べた。俺は夕日が言っていることの中に気になった部分があったので、それについて聞く。
「なんで、夕日は今、コピーする能力だとおもわれるって不確定な言葉を使ったんだ?。」
「それは原書に記載されている説明は比喩を多様していて読む側が再解釈しなければならないからよ。」
そう言われて俺は、試しに男が使っていた原書を読んでみた。
{赤き竜がその身を守るだろう。だが気を付けることだ、赤き竜は過ぎ去る時に抗うすべなし。}
「つまり、この赤き竜っていうのが炎を現していて、抗うすべなしっていうのは時間経過による弱体化を現していたわけだ。」
そう俺が納得する。
「そう。こっちも読んでみて。私では気づかなかったことがわかるかもしれないから。」
と夕日は言う。俺は渡された原書に目を通した。
{リボルバーに込められる弾は8発。弾は特別性で集めるのには多大な苦労ないしは強運が必要だろう。弾丸の発射には強い衝撃がその身を襲う。}
弾を集めるというところがポイントだろう。これは多分、原書のことだ。原書の集め方は二種類あり人から奪う方法と自力で見つける方法だ。この文言の二文目はそのことを示唆していると解釈すれば、意味が通る気がする。つまり集めた原書の能力を使用することができるということだろう。
この文言の最後の文は、能力の使用には何かしらのリスクがあることを示しているのではないだろうか。
「俺も夕日の解釈であっていると思う。でも、当たり前のことだが本物の銃は一度打った球を再装填することなんてできないんだよな。」
と俺が言う。喉が渇いた俺は夕日が入れてくれた紅茶を手に取った。すると夕日が言っのだ。
「どうして?ビービー弾は使いまわせるじゃない。」と。
俺は危うく口に含んだ紅茶を夕日の顔にかけるところだった。
「あのなあ、銃の弾は撃鉄の力で発射しているんじゃないんだよ。弾に含まれた火薬が爆発することで弾は飛んでいくんだ。」
「へ―そうなんだ、でもそれがどうしたの?」
「つまりさ。一度使った能力をまた使うことができるかどうかはわからないんじゃないか。」
「なるほどね。」
俺と夕日はしばらく悩んでいた。
「わかった。ここはリスクを取ろう。」俺は3つ目の本を手に取って、その中身を読んでいく。
まず、初めに書かれていたのはこの本を最後まで読めんだ時、特定の能力が付与されること。そしてその能力の説明。これはさっき見た物だ。次に書かれていたのは能力の発動方法だった。そこには能力発動のトリガーとなる動作を設定しろと書かれていた。夕日に説明してもらっていない部分なので、念のために聞いておく。
「この能力の発動づするための予備動作の設定ってのはなんなんだ。」
「それはね。能力の発動を誘発するための動作を頭の中でイメージして設定するのよ。なんでもいいんだけど、私は手を握ることにしてあるわ。」
「それって、偶然能力が発動しちゃったりしないのか?。」
「そこは大丈夫。能力の発動は自分の意思で決められるから。」
「なるほどな。」
俺は能力発動のための予備動作してまばたきをイメージした。これで予備動作の設定は終わったはずだ。最後に書かれていたのはバトルトワイライトのルール説明だ。それ以降のページはすべて白紙だった。
「読み終えたぞ。」
俺は能力を会得したことを伝える。なにも違和感がないことが逆に恐ろしかった。
「そう、なら自分が設定したトリガーを使ってみて。私は無効化の能力が及ばないところで見ているから。」
そう言って夕日は玄関まで離れて行った。
「いくぞ。」
俺は能力の発動を意識してまばたきをした。その結果俺の周囲で何の異変も生じない。すると突然俺の意思とは別の意思が入り込んでくるような感覚に襲われた。。その意思が俺に告げる。原書を持てと。俺は無作為にテーブルの上の原書を手に掴んだ。その瞬間俺の周りにあるすべて物が宙に浮いた。それと同時に酷い疲労感が俺を襲う。俺の意識はそこで途切れた。最後に見たのは落下した本棚がその中身を盛大にぶちまけたことだった。
俺は目を覚ました。あたまには冷たいタオルが載っている。俺はどのくらい寝ていたのだろうか。窓から見える景色はすっかり夜の帳に包まれていた。ベットの横には一つの明かりが、その存在を自重するようにともっている。俺は起き上がろうとするが、体が言うことをきかない。ドアが開いて夕日が入ってきた。
「起きたのね。調子はどう?」
「全身筋肉通みたいにな感じだ。能力を使ったからなのか。」
「たぶんね。程度は人によるけど能力を初めて使うときは体がびっくりしちゃうから。」
「ごめん。いろいろ滅茶苦茶にしちゃって。」
「まあ、いいわ。幸い何か壊れたりはしてないから。それと、雑炊を作ったから今持ってくるわ。」
そう言って夕日は部屋の外に消えて行った。すこしして夕日は雑炊をお盆の上にのせてやってきた。
「その様子じゃ自力で食べるのは無理そうね。」
「いけるさ、それくらい。」
俺はもう一度体を起こそうと試みるがそれを支える筋肉が悲鳴を上げる。
「くっそ。」
できたのは少し背中を浮かせることだけだった。
「無理そうね。」
もう一度、今度は確信のこもったような声音でそういうと夕日はお盆を膝の上におき、スプーンで、すくった雑炊を俺の口元に運んだ。
「はい。食べて。」
口の中に入ってくる雑炊の味は格別だった。傷んだ体に染みわたっていくようなそんな感じだった。食べ終えた俺はまた眠りに落ちた。
次の日。太陽の光に目を覚ますと体の調子はすっかり良くなっていた。きっと夕日が作ってくれた雑炊のおかげだろう。キッチンに向かうと既に夕日が朝ご飯の仕度を始めていた。
「おはよう。気分はどう」と俺に気づいた夕日が言う。
「おはよう。すっかり良くなったよ。だから俺にも料理を作るとこ見学させくれ。」
俺がそういうと夕日は困ったような顔をしていった。
「見られていると、なんだか落ち着かないんだけど。」
「頼む。」っと言っ俺は頭をさげる
「しょうがないなー、まいっか。」
夕日の了承を得ることができた俺は隅っこで夕日の作る料理をメモを取りながら見ていた。料理のレシピ、道具の使い方覚えることはたくさんある。
まもなくして、夕日は調理を終えたようだった。
朝ご飯を食べ終えた俺たちは昨日起きたことについて話し始めた。まず切り出したのは夕日だった。
「帳が原書を手に取った時、その原書の能力が発動したのよね。つまり帳の能力は手に持った原書の能力をコピーして発動できる能力ってことかしら。」
「たぶん。だけどまだわからないことの方が多い。調子も戻ったし早くこの能力の詳細を確かめないと。」
「そうね。それならいい場所があるわ。」
俺が夕日に連れられてやってきたのは、周りを林に囲まれた、田んぼだった。
「ここなら、ほとんど人は来ないし、見通しも悪いから誰かに見られる心配も少ないわ。」
俺たちはちょうどいい空きスペースをみつけることができた。
「よし、さっそくやってみるぞ。」
俺はすくむ体に気合を入れて、物体浮遊の原書を手に取り俺の能力を発動した。
「くっ」
少しめまいがするが、昨日の症状に比べるとだいぶましだった。これなら我慢できる。それに昨日みたいに能力が暴走することもなかった。俺は近くに落ちている木の枝を浮かべようとした。すると木の枝はまるで何かに吊るし上げられているかのように浮かんだのだ。俺は思わずガッツポーズをした。これで発動条件は分かった。原書手に触れた状態でその能力を何度でも発動することができる。次はこの浮遊能力について知らなければ。俺は浮かせられる物の質量や大きさに制限があるのか調べてみることにした。田んぼに張ってある水を球の形状に浮かび上げる。そして宙に浮かんだ水の玉を少しずつ大きくしていく。田んぼの水はどんどんと吸い上げられていき、丁度、風呂の浴槽に入るくらいの水が浮かび上がったところで、それ以上水を持ち上げることは出来なくなった。量にして200Lつまり重さにすると200キログラムと言ったところだろう。
俺は不思議に思った。何故あの時、二階堂は物体ではなく人を浮かばせて操らなかったのだろうかと。その答えは距離にあった。俺は水の玉を少しづつ自分から話していった。すると10メートルから15メートルほど離れたところで水は俺の能力に反応しなくなり、落下した。やはり距離に制限があったらしい。たしかにどんな距離からでも物を操れたらチートもいいところだ。俺がそんなことをかんがえていると
「かくれて!!」
俺はいきなり夕日に押し倒された。
「うわ。」
地面に倒されても背の高い草が緩衝材として働いたので痛いと感じることはなかった。
「いったいなん、もごもご。」
「静かに‼」
夕日は俺の口をその手で押さえる。俺と夕日はその状態で、草の中に身を潜めていた。すると道から人がやってくる気配がした。すると女の人のものと思われる声が聞こえてきた。
「おーい。どこかに隠れてるんだろーでてこいよー。」
俺と夕日は顔を見合わせた。俺の口は夕日の手でふさがっているので返事をすることはできない。夕日は返事をしなかった。
「私は怪しいもんじゃないさ。いや十分怪しいか。実は私も君らと同じ異能力者なんだ。私と君たちは協力できるとおもうぜ。」
そこまで聞いたとき、夕日は俺の口から手を放すと立ち上がった。俺も夕日と一緒に立ち上がる。
「お‼そんなとこにかくれてたのか。」
そう言う女の人の恰好はジーンズの上に白いシャツ。シャツの下のボタンが外れているせいでへそがみえている。その背は高く俺と同じくらいあった。その人は俺たちを見つけるとこちらの方に歩きだそうとした。すると
「とまって。」
そう夕日が言った。その人は踏み出した足を止める。
「おっと悪い。危害を加えるつもりはないんだ。」
そういうとその人は両手を挙げた。
「なら私の質問に答えてください。まずなんで私たちの居場所が分かったんですか?」
夕日が聞くとその人は答えた。
「理由は二つあるな。一つ目は君たちを一昨日からつけていたからだ。二つ目は私の能力に関係がある。私の能力は原書を感知できる能力だ。正確な位置までは分からないがな。いうなれば原書に反応するコンパスのようなものさ。」
昨日感じた視線の正体はこの人の物だったのか。
「なんで私たちをつけていたんですか?あなたの目的はなに?」
夕日が聞く。
「さっきも言ったが、私は協力者を探してるんだ。いや協力者というのは正しくないかもしれないな。私は君たちに守ってもらいたいのさ。実はふとしたことで私の能力が明るみになってしまってね。私の能力は強くはないが有用な能力だ。その市場価値は私が思っていたよりもずっと高かったらしい。私は命を狙われているんだ。勿論、私の提案に乗ってくれるなら全面的に協力する。」
それはお俺たちにとって願ってもみない申し出のようにおもえた。
「あなたの言っていることを証明することはできますか?」
「なんなら今からお二人さんを他の能力者のもとへ連れて行ってやってもいいぜ。」
「そうですか。あなたの言いたいことはわかりました。でも今すぐに返事をすることはできません。明日まで待ってくれませんか?」
と夕日は言う。
「そうか、分かった。それでもいい。」
その返答を受けて夕日が言った。
「なら、明日の午後1時にこの場所で会いましょう。」
「オーケーだ。じゃあまた明日。」
そう言って女の人は去って行った。
「それで、自分の能力は確かめられた?」
どうやら夕日は俺が能力を使って実験していたところをよく見ていなかったらしい。周囲の警戒をしていたのかもしれない。
「ああ、だいたいな。昨日より体にかかる負担もだいぶ減ったみたいだ。これなら能力の連続使用もできるかもしれない。炎を生み出すことができる原書の方も貸してくれないか。」
「ええ、いいわ。」
夕日がポーチに入れていた原書を俺に渡して俺から距離を取る。俺はそれを手に取って能力の発動を試みる。すると俺の右手にピンク色の炎が現れた。自分では熱さを感じなかったが、それがとてつもない熱量を持つことは地面の草が燃え始めたことを見てもわかる。って普通にやばくないか。こうしている間にも炎は燃え広がっていく。夕日は大丈夫かとそちらを見るが夕日の傍だけ炎が及んでいない。そうか、こいつは能力を無効化できるのだった。問題は今まさに地面を伝って林にまで燃え広がろうとしている炎たちだ。俺が放火魔になるなんて冗談じゃない。俺は手に持っているものとは別の原書つまり物体浮遊の原書を取り出す。すぐさま能力を発動し、くらりとくる体に鞭をうって田んぼの水の操作を試みる。田んぼに張られた水はまるで消防車のポンプから出たかのように勢いよく発射した。エイムをうまくコントロールして燃え広がった炎を鎮火させていく。ようやく全部を消し終えたときには俺の精神も肉体も疲労で限界だった。夕日が俺の方に駆け寄って来て言った。
「その能力の使用には注意が必要みたいね。」
「ああ、考えて使わないと自分の身さえ滅ぼしかねないな。」
これ以上能力で遊ぶ気力も体力もなくなった俺は家に帰ることを提案した。家に着いたとき、時計の針は既に正午を示していた。思いがけないことの連続で気づかなかったが俺はとても腹がすいていた。
「今から作るのもなんだし食べに行きましょうか。」
「それがいい。」
二人で向かったのは近場のハンバーグチェーン店。ちなみに店を決めたのは俺だった。そこで俺が注文したのはチーズハンバーグ、夕日は和風ハンバーグを注文していた。
帰宅した俺は自分に夕日が与えてくれた個室に入る。昨日このベットで熟睡したせいだろうか。この部屋がすっかり俺になじんできた気がする。俺が部屋のベットで横になっていると夕日が部屋をノックした。
「帳、ちょっと話したいことがあるんだけど。」
「ああ。」
俺は立ち上がって部屋を出た。夕日は洗濯物をたたみながら俺に話した。
「話したいことって言うのは昼間に会った。あの女の人のことよ。」
「ああ、俺もそれ手伝うよ。」俺は脇に置かれている洗濯物に手を伸ばす。俺が手に掴んだのは服が重なった横から出ている紐らしきもの。
「ん?なんだこれ。」
不思議に思った俺はそれを引っ張った
「それはダメー!!!」
夕日が俺の手を止めようと座った姿勢からダイビングジャンプをした。
しかし悲しくも夕日の必死の抵抗は失敗してしまう。
「これは、、、」
俺が手に持っていたのは夕日のブラジャー。色はピンクで真ん中に赤いリボンがついていた。俺の目の前に倒れたまま起き上がらない夕日の背中がある。
「悪気はなかったんだ。」と俺はその背中に向かって声をかける。しかし帰ってくるのは沈黙のみ。
俺はもう一度謝罪しておくことにした。
「なんか、ごめん。」
暫くして夕日が言うことには「少し一人にさせて。」ということだった。なんだか気の毒になって俺は家の外に出た。あの様子じゃしばらく帰れそうにない。夕日にとっては俺に下着を見られたことはよほどショックだったのかもしれない。でも一緒に生活しているのだからそこまで大袈裟にならなくてもと思わなくもない。逆にこっちまでそういうことを意識してしまいそうだ。それにせっかく仲良くなれたと思っていたけど拒絶されたみたいで少し凹んでいた。そんなことを考えながら俺は茜色をした空のもと川沿いの道を歩いていく。
すると道の向こう側から歩いてくる女の人が一人。その人も散歩をしているのかもしれない。この道は一般車両立ち入り禁止になっているので、散歩をするにはうってつけだ。そんなことを考えていると目の前まできた女の人が言った。
「あれ?もしかして帳君?」
その言葉に俺はよくよくその人の顔を見てみると、そこにいたのは俺と同じクラスの諸星 涼香だった。
「ああ。君は諸星さん?。」
諸星さんは赤いスカートにグレーのコート、下には黒いストッキングのようなものを履いていた。手には青バックを持っている。相変わらず綺麗な人だなーというのが俺の感想。俺の友達にも当たって砕けて行った奴は多い。
「ええ。そうよ。帳君はこんなところで何をしてるの?帳君の家ってこっちの方だっけ?」
「ええっとそれは散歩に夢中になっていたというか。」
俺の家はここから歩いて1時間以上かかる。この嘘は無理があったかもしれない。
「ふーん、そう。」
諸星さんは俺のこれ以上追求しないでくださいオーラを感じ取ったのかはたまたこの話題に興味を失ったのか、そんな短い言葉を言った。
「諸星さんの方こそなんでこんなところに?」
「私はこれから塾があるのよ。」
「それは大変だな。」
「そうでもないわ。」
「ところでさ。変なこと聞くけど女子にとって例えば俺みたいな男子に下着を例えばブラジャーなんかを見たり触られたりされるのってどうなのかな?」
俺がそういうと諸星さんは俺から一歩身を引いて両腕で胸を抱えるような姿勢になった。
「なに?セクハラ?」
俺は慌てて答える。
「いや単純に気になったっていうか。」
「帳君ってもしかして変態?」
「やっぱ変態だなって思うのか。それが故意にやったことではなかったとしても?」
「えっ今の話って妄想とかじゃなく・・・もしかして帳君、女の子のブラジャー触ったの?」
「えっなんでわかったんだ?」
「思春期の男の子だから性欲が爆発してしまったのかもしれないけれど、女の子としては優しくしてほしいものよ。」
「もしかして、諸星さんそういう経験があるの?」
「ないわ。それより気を付けた方がいいわよ。私この前、ビルの屋上で戦闘している人たちを見たのよ。一人はガスバーナーで戦っていたわ。これを言っても見間違いだろうって誰も信じてくれないのだけどね。」
諸星さんは話題を転換させたかと思ったらそんなことを言いだした。諸星さんはあの日の戦いを目撃していたらしい。俺は冷や汗を垂らしながら言った。
「きっと子供がチャンバラとかしていたんじゃないか?」
「帳君も信じてくれないのね。ま、いいわ。長居してると塾に送れるから私はもういくわ。」
俺はおもわず「それでいいのかよ!」と突っ込んでしまいそうになったがこの話題は早めに切り上げるに越したことはない。そこで俺と諸星さんは別れた。諸星さんって意外と鋭いけど本人はその刃に気づいていないのが救いだな。周囲は薄暗くなり始めている。もうそろそろ夕日も落ち着いたころだろう。俺は夕日の家に戻ることにした。
「帳、戻りましたー。」と俺が帰宅したことを主張しておく。夕日は一階にはいなかった。自分の部屋にいるのかもしれない。こんな時くらい俺が夕飯を作ろうとそう決心をし、冷蔵庫の中身をあさってみた。あったのは、鯵、キャベツ、卵、トマト、玉ねぎ、ねぎなど。俺は鯵のフライを作ろうと決心する。一時期釣りにはまっていたことがあって料理は出来ないけれど魚を捌くことはできるのだった。ご飯を炊飯器で炊いている間、魚を揚げるのは最後がいいんじゃないかという推測の基、まず、キャベツをみじん切りにした。ソースはタルタルソースがおいしいかなと思った俺はレシピをスマホで検索する。意外と手間がかかったがタルタルソースは無事完成し最後に3枚におろした鯵の身の部分だけ揚げて料理は完成した。トマトも脇に添えてテーブルに並べ終わると自分でもちゃんと料理が出来たことに感動を覚えたりもした。冷めてしまってはフライを最後に作った意味がないので夕日を呼ぶことにする。二階まで上がり夕日の部屋のドアをノックする。
「おーい、俺、鯵のフライを作ってみたんだ。夕日の料理なんかより出来も味もいまいちかもしれないけどさ冷めないうちに一緒に食べようぜ。」
すると。ガチャリと部屋のドアが開いて夕日が出てきた。
「その、ごめんなさい。帳は悪くないのに。」
「いいよ。これからは別々に洗濯物を回すようにしよう。そうすれば今日みたいなことは避けられるかもしれない。」
「そうね。」
なんとか夕日とは仲直りできたみたいだ。
「でね。さっき私が話したかったことはあの朝方会ったあの女の人のこと。あの人は嘘をついていた。本人に自覚がないだけかもしれないけど。」
「嘘?」
俺にはあの人が嘘をついているようには見えなかった。
「あの人が自分の能力を例えた言葉覚えてる?」
その時の会話は集中して聞いていたので、暗記の苦手な俺でも思い出すことができた。
「たしかコンパスだったっけ?」
「そう。そこに矛盾があるのよ。その後にあの人は私たちを別の能力者のもとへ案内できると言った。本当にあの女の人の能力がコンパスのようなものだというのなら。」
そこまで夕日が言った時、俺は夕日が何を言っているのか何を疑っているのかを理解した。
「そうか。コンパスは周りに強い磁器があると正確に測定できなくなる。」
「そう。つまりあの女の人の能力はコンパスとは明確に違う点があるはず。私が言いたいのはなんでそこに差異が生まれたのかということよ。」
「ええっと、つまり?」
よくわからなくなった俺が聞いた。
「コンパスの例えとその能力に違いがあるのが、ただの言葉の綾のようなものなら問題ない。だけど、すべてが嘘だったという最悪の可能性もある。嘘には矛盾が生じやすいから。」
「すべてが嘘って言うのはどういう状況だ。」
「それはあの女の人が私たちと接触したのには別の意図があるってことになるんじゃないかな。まあすべて杞憂ならいいんだけど。」
「警戒するに越したことはなさそうだな。」
翌日、俺たちは約束の時間にあの場所へと向かった。俺たちがつくと既に女の人はそこにいた。少し以外だった。
「お、やっときたか。」
俺たちを見つけて女の人が言った。
「で?昨日の返答は?」
そう聞かれて、俺は昨日決めた答えを口にした。
「ああ、俺たちは君の申し出を受けることにしたよ。」
「お?私はてっきり断られるかと思ってたんだけどな。これで私と君らは晴れて仲間になったってわかだ。私は大文字 玲奈だ。よろしくな。」
「俺は帳 火炉十だ。よろしく大文字さん。」
「私のことは玲奈でいい。」
「私は夕日 瑠香です。よろしくお願いします。」
「で?これからどうする?」と玲奈が聞く。
俺と夕日は昨日、仲間になった後俺たちの行動を誘導するそぶりがないか観察することにしていたのだが第一声からこちらにすべてをゆだねてきたので肩透かしだった。
「玲奈さんはどうするべきだと思いますか?」と夕日が聞く。
「昨日も言っただろう。私はやりたいことがあるわけじゃない。襲われたときに一緒に戦ってもらえれば文句はないさ。そうだ連絡先っと。」
そう言って玲奈は俺たちに携帯の電話番号を伝えた。一応俺たちの電話番号も伝えておく。
「これで私のすべきことは終わったかな。」と玲奈が言う。
「そうですか。なら私たちに協力してください。」
「つまり、能力者のとこまで道案内しろってことだな?」
「はい。」
玲奈の案内でたどり着いたのは、大型ショッピングモールの中にあるカフェだった。
「このあたりだ。」と玲奈が言う。玲奈の能力は正確性に欠けるのかもしれない。俺たちは取り合えずカフェに入って注文を取った。俺は小腹がすいていたのでコーヒーとハンバーガーをオーダーした。夕日はストロベリーホワイトモカ、玲奈はアイスティーを頼んでいた。
「よくこんな時に食べられるわね。」と夕日が言ってくる。
「別にいいだろう。お腹がすいては戦が出来ぬっていうし。」
そんなどうでもいいことを話していると
「おい、能力者を見つけたぞ。多分あいつだ。」と言って玲奈が目くばせしたのは今まさに店を出て行こうとしている男だった。上下グレーのスーツで背は俺より高く180センチ以上あるだろう。
「帳、お会計しておいて。」
夕日はそう言うと立ち上がり男の後を追った。玲奈もそれに続く。残された俺は無理やり口にハンバーガーをつめこんで、レジへと向かう。その間にも横目に移る夕日の姿はどんどんと遠ざかっていく。
「もあいえい、もえばいいまう。」店員は俺が財布を取り出すのを見て俺の意図を察したに違いない。
「会計ですね?伝票はお持ちですかって帳君??」
俺はその声に驚いて見ていた夕日から目を外して店員見た。そこにいたのは昨日も川沿いで出会った諸星さんだった。さらに驚き、俺の口からピクルスが飛び出して行ってしまう。その先にいるのはもちろん諸星さんなわけで、ピクルスは諸星さんのほっぺたにくっついた。
「ちょっと。」こうしている間にも夕日たちは先へ進んでしまう。これ以上話していたらきっと夕日たちに追いつけなくなるだろう。俺は財布から5000円札を取り出して伝票とともにカウンターに置くと店から飛び出した。
「お釣りはどうするのー?」
後ろから聞こえてくる声に振り替えると、店先に諸星さんが立っていた。
「あげる!!」
俺はそれだけ言って遠くで見え隠れする夕日の背中を追った。混雑している人をかき分けやっとのことで夕日に追いついた。
「さっきの男は?」
「あそこ。」
夕日が指さす方を見る。さっきの男は本屋に入るつもりのようだ。随分と余裕があるようにみえる。自分が能力者から狙われる立場にいることをわかっていないのだろうか。散歩とかしている俺が言えたことではないけど、少し俺は違和感を感じた。俺たちは男が見える位置で本を読んでいる振りをすることにする。すると隣に立っている夕日が言った。
「帳が読んでいるの原書じゃない。」
俺は視線を本に戻すと俺が手に持っていたのは確かに原書だった。おかしいな。さっきまで文庫本を持っていたはずなのに。
「帳ってもしかしておっちょこちょい?」と夕日が言う。
不可解だったが、いつでも原書が出せるように意識していたことが無意識で実行されてしまったのかもしれない。俺が原書をしまっていたはずのズボンのポケットに手を入れると中から出てきたのはさっき手に取った文庫本だった。でもおっちょこちょいはすこし言い過ぎだと思う。すると男は目当ての本がなかったのかすぐに本屋を出ていった。俺は急いで棚に文庫本を戻してから男を追いかけた。
その後も男はいろいろなとこを回って買い物を楽しんでいるようだった。俺がいい加減後を追うのも疲れ始めたとき夕日が言った。
「ねえ、なんかおかしくない?私たちが追いかけていた男ってあんな格好だった?」
そう言われて俺はきずいた。その男の背が俺より低いことに。そして俺たちはやっとその幻影から目をさましたのだった。
「そういうことだ?」俺が現状を理解できずにそう尋ねると夕日が言った。
「やられた、たぶん男は私たちに付けられていることに気づいて幻影を見せる類の能力を使ったのよ。みんな、原書は持ってる?」
そう言われた俺はポケットに手を伸ばす。良かったそこに本は入っていた。俺は念のためそれを取り出して確認した。しかし俺が手に持っていたのは原書ではなく本屋で手にした文庫本だった。しかも最悪なことにそれは俺だけでなく夕日と玲奈もだった。俺たちが絶望をしていると、近くに警備員が来て言った。
「本屋の本を盗んだのは君たちだね。話があるから一緒に来てもらえるかな?」
すると隣の夕日が鞄から何かを取りだしたと思ったら、それは札束だった。
「警備員さん私たちを見逃してここにある30万を手にするのと、私たちを警察に渡して感謝を得られるのとどっちが得かわかりますよね?」
すると警備員言った。
「来い。ここには監視カメラがある。」
警備員は俺たちをトイレまで連れてきて言った。
「その金をよこせ。」
夕日が渡す。それを受けっとった警備員は係員専用通路のカギを開けて言った。「ここからまっすぐ行けば出口だ」と。そうして俺たちは何とかショッピングモールから出ることができた。既に周囲は薄暗かった。
「あんた、かわいい顔してなかなかやるじゃないか。」と玲奈が言う。
「そんなことより早くあの男の人を探さないと。」と夕日が言う。
「でもなあ、能力の反応から見るに相当遠くへ逃げているようだぞ。」と玲奈が言うと夕日が俺を見て言った。
「帳の能力で移動できないかしら?」
「だから、俺の原書はあいつに・・・」そこまで言って俺は気づいた。盗まれたのは炎の原書の方だったということに。
「でも、そんな急ぐ必要はないんじゃないのか?」と俺が夕日に聞くと夕日は困ったように言った。
「言っていなかったけど、原書には所有権があって一日でそれは持ち主に移るの。つまり猶予は一日しかないの。」
「帳ーもっととばしてー。」後ろから夕日の声が聞こえてくる。
「大声出すなよ、人に見つかったどうするんだ。」と俺は注意した。
「気持ちいねー。」と言うのは玲奈。
俺たちが乗っているのはショッピングモールで見つけた段ボールだった。操縦しているのはもちろん俺だ。こっちは集中して捜査しているのに夕日たちはまるでアトラクションに乗ったみたいにはしゃいでいる。
「ところで、お二人さんは何のために原書を集めているんだ?」と玲奈が聞いてきた。玲奈には言っておいていいかも知れないと思った俺は答えた。
「この戦いに巻き込まれて死んでしまったある人を生き返らせたいんだ。」
「そうか。」
玲奈の指示する方角を目指して1時間ほど走らせると玲奈が言った。
「あの家だぞ。」
それはいかにも普通の家だった。俺が路上に段ボールを着陸させると乗っていた夕日と霊夢が地面に降りた。俺も段ボールから降りて言った。
「で?どうする?」
「ピーンポーン」と響くインターホンの音。玲奈が推したらしい。
「なにしてんだ(してんの)」と俺と夕日が動転すると。
「いやここにいたってすることがないからなあ。」
そうこうするうちに人が出た。たぶん俺たちが追っている男だった。
「はい。鈴木です。」
その声に玲奈が答える。
「私の原書を返してもらおうか。」
「私には何のことだかわかりかねます。お引き取りを。」
「あんたの能力は戦闘向きじゃないはずだ。こっちが本気を出す前に言うことを聞いておいたほうがいい。見たところ子供もいるんだろう。」
玄関の軒下には子供向けの自転車とママチャリが置いてあった。するとガチャリと玄関のドアが開く音がして、中から男が出てきた。
「さすがに三対一は分が悪いか。私はなりたかったものがあってね。いろいろあって諦めてしまったが。この本を読んでおもいたったのだよ。でも私はわかっていなかった。夢というのはズルをしていては叶えられないのにな。これは君たちの探し物だ持っていくといい。」
そう言って抱えている本を俺に渡した。
「全部で9冊ある。できれば君たちに願い叶えてもらいたいものだが・・・死ぬなよ。」
男は身を翻すと家に戻って行った。俺が渡された原書を月明かりに照らして確認してから言った。
「ほんとに9冊ある。」
「なんでこんなあっさり渡してくれたのかしら。あと少しで願いはかなったはずなのに。」と夕日が聞く。
「さあ?」
俺も拍子抜けした気分だった。
「じゃあ帰るか。」と俺は段ボール箱に入る。
「そうね。」と夕日が俺の後ろに入る。
「ああ。」と玲奈が夕日の後ろに入った。
夜の運転はとても難しい。俺の集中力は行きだけでとうに使い果たしていた。ぞしてそれは突然俺の前に現れた、直径3メートルはあろうかと言うほどの巨木だった。俺が急旋回しようと舵をきろうとしたとき。後ろから手が伸びてきて俺の手に持つ原書を奪い取った。操縦機能を失った段ボール号はその巨木へと突っ込んでいった。俺の意識はそこで途切れた。
朝の陽ざしに目を覚まして周りを見渡すと、俺の横に夕日が倒れていた。夕日の肺に手を当てるとかすかに上下しているのが分かった。夕日も気を失ったらしい。しばらくして夕日が目を覚ますと言った。
「原書は?」
俺は首を横に振った。9冊すべての原書が玲奈に持ち去られた後だった。
「さがさないと。」
「でも、どうやって?」
「わからない。」
俺たちはしらみつぶしにそこら中を探し回った。見つかる確率なんて相当低いだろうけど、何もしないよりはましだった。
「こんなことで、本当に見つかるのか。」俺の口から不満が漏れる。もう日は高く上り朝の静けさは遠くに消えさっている。俺たちが歩道を歩いていた時、俺たちの目の前を底知れないオーラを放った男が通りすがった。俺はそいつを呼び止めた。
「すいません。背が170センチほどあって黒髪をポニーテールにまとめた若い女の人を見ませんでしたか。」
こんな情報ではわかるはずがないし、玲奈が去ってから一晩経つのに目撃しているはずがない。
「ああ、その人なら四丁目の本屋の向かいの路地を進んだところの廃ビルに入って行くのをみたよ。」
とそう男は言ったのだった。俺は信じられずに聞き返したが、どうやら聞き間違いではなかったらしかった。そしてその場所は何の偶然か二階堂 秋が死んだ場所だった。俺たちはお礼を言ってその場所に急いだ。
俺たちは意を決して廃ビルの中に入った。廃ビルの一階には何もなかった。建物を支える柱だけその場にはあった。二階に上っても同じだった。あるのは柱だけ。しかしその奥に人がいた。玲奈だった。俺たちに振り替えると玲奈は言った。
「はは、見つかっちまったか。」
「なんで?玲奈がここにいるんだ。」と俺は聞いた。
「まだ、気づかないのか?それじゃあ、教えてやろう。あの日私が東寺と帳が生き返らせたいと思っている人を鉢合わせたのさ。私としては別にどっちが勝ってもよかったんだけどさ。」
「なんで?そんなことしたんだ。」と俺が聞く。
「それは君と一緒さ。私にも生き返らせたい人がいるんだ。私の弟でね。昔から体が弱かったのさ。」
「そうか、玲奈にも事情はあったんだな。けど、俺は引くわけにはいかない。原書を返してくれないか。手荒な真似はしたくないんだ。」
「はは確かに私の能力は戦闘向きじゃないからね、能力勝負じゃ勝ち目はないさ。でも私が何も対抗策を用意していないと思ったのならそれは間違いだ。」そう言って玲奈はリボルバーの拳銃を俺に向けた。
銃の発砲とともに戦闘は開始した。夕日は右に俺は左に跳んでそれを回避する。俺は建物の柱に隠れた。当たり前だが周囲に電灯はなく。頼りになるのは窓からの日差しだけ。俺は玲奈の位置をその陰から確認しつつ、柱の影を踏むようにして移動していった。俺は玲奈のすぐ後ろの柱まで来ていた。何か飛び出すきっかけが欲しいと思っていると、玲奈が発砲した。その瞬間俺は飛び出した。玲奈は頭を押さえている。夕日が投げたコンクリートが当たったらしい。俺は玲奈にタックルして組み倒すとその手から銃を奪った。
「おしまいだ。」
「君は強いな。」
決着を知った夕日が柱から出てきた。夕日は肩を手で押さえていて顔色が悪い。肩に銃弾が当たったらしい。そんな状態で夕日が玲奈に聞いた。
「原書はどこ?」
玲奈が指を差したところにはリュックサックが置いてあった。夕日はそこまで言って中を確認して言った。
「これ全部で十冊ある。」
その時コツコツと廃ビルの階段を上る足音が聞こえてきたのだった。入り口に姿を見せたのはさっき俺たちが出会った男だった。男は俺たちを見つけると言った。
「私は北川 作だ君たちの戦いは楽しませてもらったよ。実を言うと私は原書を通して君たちの戦いを観察していたんだ。そして君は原書を十冊集めた。約束通り君の願いを叶えようか。」
俺は立ち上がって言った。
「・・・それが俺の願いはたくさんあって一つには絞り切れなかったんだ。全部叶えてくれないか?」
「つまり?」
「俺の望みは俺と夕日と玲奈の願いを叶えることだ。」
「はは、何を言い出すかと思えば。君は原書を読んでいないのかい?それはできない決まり、ルールさ。」
ここまでは俺の予想通りだった。相手の言質も引き出せたしいけるかもしれない。
「そうか、ルールか。なら俺の願いを言おう。俺の願いは原書のルールの改定だ。」
「はは、ははははは。しまったなあ。僕もそこまでは考えていなかったよ。うんいいだろう。君の願いを今回に限り叶えよう。でも困ったなあ。君のせいでまた原書を書き替えるという仕事が増えてしまったよ。」
ひとしきり笑ったあとで北川 作と名乗った男はそう言ったのだった。
「火炉十、早くなさい。秋ちゃん、待っているわよ。」
そう俺をせかす母親。
「わかってるって。」
俺はトーストを口に詰め込んで家を出た。俺と秋は学校の途中まで一緒に通うようになった。俺は一つだけ気になっていることを秋に聞いた。
「秋は原書を集めて何を叶えたかったんだ?」
「それは。火炉十には秘密よ。」
何故だか秋は俺から顔をそむけた。
僕が初めて投稿する作品です。賞の応募に間に合わせるためにするために後半すっ飛ばし気味になってしまいましたが、楽しんでいただけると幸いです。




