07
「お疲れ様です」
定型の挨拶とともに、受付の人が笑顔になる。
「これで登録完了です、一番低い所からスタートですが、頑張ってください」
受付の人が差し出すカードを受け取りつつ、仮のカードを返す。一番低い所からスタートといっても、冒険者になるつもりはない。ただ言葉の問題の解消のためにカードを入手したかっただけ。少し受付の人の気を使った笑顔に、心の中で反論してみる。なんとなく口に出すのは良くない気がして。
「言葉はわかりますか?」
「ちゃんとわかる」
「ではこれは読めますか?」
受付の人が看板を指し示しめした。不思議な感覚だけど、ちゃんと読める。日本語に見えてるわけじゃない。どこをどうやっても知らない言語を見てるのだけど、理解できる。
「受付窓口、だよね」
「はい、ちゃんとカードは機能していますね、これで登録作業は終了です、ではギルドの説明を……」
「私がするわ、サワ、行きましょうか」
受付の人の言葉を遮って、リーヴェがそう言った。そのまま私の手を掴むと、受付に背を向けて歩き始めた。
「リーヴェさん! もぅ」
受付の人の怒り気味の声が、背中に降りかかる。ギルドを深く利用する気はないから、説明を聞くのは面倒で助かったけど、ちょっと申し訳ない気持ちが沸き上がる。
「ギルドの堅苦しい説明じゃあ、退屈しちゃうもの」
リーヴェがいたずらを仕掛けた時のような笑顔を見せる。なんだかこの子はいい子な気がする。私は好きなタイプだ。
「冒険者ギルドは、冒険者を支援する団体よ、そこは言葉通りね……依頼を出して、それを達成したら、報酬を出す、モンスターを討伐したら、報酬を出す……大まかにこういう感じかしらね」
「へぇー」
「なんか興味無さそうね」
もうすでにここでの用事は達したから、住処になる爽やかな風が吹く小高い丘を、探しに行きたいところである。私の気持ちと裏腹に、リーヴェは説明を続けた。
「依頼にはいろいろあるわ、何かを探してほしい、何かを取ってきてほしい、何かを届けてほしい、結構何でもあるわね」
「へぇー」
「それから、モンスター討伐が花形かしら」
にわかにリーヴェの鼻息が荒くなった気がした。そこに重点を置いている様だった。もし私が依頼を受けるとしたら、戦うのが必ず入ってくる物はやらない。だから、探すとか取ってくるとか、届けるという物だけだろう。モンスター討伐なんてもってのほかだ。
「どうしてそんなに興味無さそうなのよ、立派な冒険者になれないわよ」
「うん、冒険者なる気ないし、言葉の問題を解消するためだけの登録だから」
リーヴェの表情が驚きに満ちる。ちょっと雲行きが怪しい。