04
「言葉が……分かんないぞ」
よく聞いてみると、周りの人が喋っている内容が、全く理解できない。露店の店名だったり、たぶん値段と思われる表示も、見た事がない文字で書かれている。
「……マジか」
完全に失念していた。言語の違い。世界が違えば、当然使っている言語が変わってくる。国が違うだけで、言語が違うのだから、それは想定に入れておくべきだった。何の対策もしていない。妖術に言葉を翻訳する物なんてないしな。新しい妖術を研究、開発するのは、百年単位の時間がかかる。それを今からやるしかないのか。
「だったら、勉強した方が早いなぁ、はぁ……え?!」
突然、女の人が私に声をかけてきた。何を言ってるか全くわからない。怒ってる様子はないから、私が困っているように見えて、助けようとしているのだろうか。お互い言葉が理解できないのだから、どうする事もできない、という事を伝える事もできない。
そうしていると女の人がカードを取り出して、差し出してくる。何だろうか。女の人は、身振り手振りで、カードを掴むように促している気がする。私はとりあえず、差し出されたカードを掴んでみた。二人で向かい合って、一つのカードのそれぞれの端を掴んでいる格好だ。
「良かった、伝わったようね」
「え?! 言葉が分かる?」
「あなたが聞いた事ない言語使ってたから、言葉が通じなくて、困ってる気がしたの……このギルドカードには持ってると、言葉を理解できる機能があるのよ、当然、文字も読めるようになるわ」
「すごい! なんて便利な物が! グー〇ル先生なの?!」
「ちょっと何言ってるかわかんないわ」
簡単に言ってしまえば受信だけできる翻訳機能という事か。発する言葉を翻訳は出来ないから、さっきカードを持ってるこの人の言葉を、私は理解できなかった。逆にこの人は私の言葉を理解できていたわけね。
「冒険者はいろんな所に行くから、言葉の壁を無くすためよ」
女の子は私に向かってウィンクをした。
「ありがとね、かなり困ってたから、そのカードって、どこで手に入れられる? 買うとか?」
「冒険者ギルドに登録すれば、貰えるわ、今から行くけど、一緒に行く?」
「行く! 助かるよ」
「じゃあ行きましょうか……しばらく、言葉が分からなくて不安だと思うけど、ごめんね」
「大丈夫だよ」
私は掴んでいたカードを離す。途端に周りに聞こえていた喧騒が、理解できない雑音のように変わった。女の人が手招きをする。私は、はぐれないように女の人の背中を追った。