02
「ついた?」
とりあえず、どこかには到着したらしい。まずは一安心。私は周りを見渡してみる。湿り気の無い心地よい風。柔らかい日差し。大きい石が転がっている草原。遠くの方に視線を移すと、山々が見える。その山の頂上付近だろうか。ドラゴンに見える生き物が飛んでいる。
「成功した?」
明らかに日本ではない事は確かだった。日本の夏の昼間の日差しは、刺すような強さがあるし、風にはいつも湿り気が帯びる。まぁここが夏かどうか分からないのだけど。それに妖怪の中にあんな姿の龍は見た事がない。海外にはいるかもしれないけど。
「まぁいいや、成功したという事で良いでしょう!」
私は嬉しくなって、小躍りしそうになった。別の世界に来た。やっと、闘いの日々から解放される。
「思えば、千年前から始まったんだ」
私はおよそ千年前の、平安時代に生まれた姫君だった。それなりに裕福な家に生まれて、毎日不自由なく暮らして、容姿にも恵まれて、順風満帆だった。ある日、殿方が夜這いきて、私は恋に落ちた。その人は二日目も来て、ついに結婚かと、私はとても喜んだ。でも三日目の夜に、その殿方は私の元へは来なかった。使いの者に確認させたら、別の姫君の所に通って、ちゃっかり結婚してやがった。私はブチギレた。それはもうブチギレた。当然、その殿方の元に赴いて、姫もろとも、八つ裂きにしてやった。その時、すでに私は妖怪に転じていた。目的をはたした後も怒りで、我を失っていて、百年くらいはずっと、誰彼構わず襲いかかって。怒りをコントロールして、理性を保てるようになってからも、なんとなく消えるのも嫌で、現世にとどまり続けて、いつの間にか最古の妖怪として、妖怪の王になっていた。
「思い返してみると、怒り狂っていた時に招いた、復讐の連鎖がずっと続いてた感じだなぁ」
まぁ、それも今日で終わりだ。断ち切る事ができた。私はこの世界で、人間のふりをして、爽やかな風が吹く草原に家を建てて、スローライフを送るんだ。
「いい場所を探そう、いい感じの小高い丘」
私はこれから送るスローライフに適した場所を探すため、ウキウキしながら、歩き始める。
しばらく歩いていると、スライムがいるのを見つけた。まれに、草木の間に妖精のような物もいる。どの世界でも、人間とは違う異形の物はいるらしい。
「なんか、ラノベのような世界だなぁ」
私は元人間なだけあって、姿形が人間だ。そのおかげで、街に遊びに行ったりもしていた。その時に見かけた、アニメやラノベ、そういう物の世界観に似ている。
そんな事を思いながら、私がスライムを見つめていると、スライムが私に気付いた。