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お化け屋敷のファウスタ  作者: 柚屋志宇
第2章 霊能メイド現る

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95話 天使の光

 ――魔道士ギルド。


 貧民街にマグス商会として表向きの看板を掲げる魔道士ギルドの会館では、七つ星魔道士が緊急招集され会議が開かれていた。


「なんの会議でしょうね」


 男装の魔女ブリギッドは魔女ヘカテの派閥の部屋で、会議に出席した七つ星魔女ヘカテの帰りを待っていた。


「吸血鬼ギルドから何か通達があったようです」


 魔女ハーミアがお茶を煎れながら、ブリギッドの呟きに答えた。


「誰かが何かやらかしたんですかね」


 つい最近、巻き込まれた状況であるとはいえ、吸血鬼ギルドと問題を起こしたばかりのブリギッドがしれっと言った。

 ハーミアは苦笑いしながらも、ブリギッドにお茶を差し出した。


「そういえば、ハーミア、タニス氏の様子はどうです?」


 ブリギッドは、ハーミアの元でメイド修行をしているタニスの消息を尋ねた。


 魔女タニスは、魔眼の子の近くに侍りたいという強い願望を示し、その実現を目指して邁進していた。


 タニスは使用人として無能であることや、礼儀作法が全くなっていないという反論をねじ伏せるため、現在ハーミアの元で魔道士ギルド会館のメイドとして研鑽を積んでいる。


 魔眼の子の近くに連絡員として送り込まれる魔道士の候補として、魔女ハーミアは最有力候補であったが、本人はそれを望んでいないため、タニスに快く協力していた。


「大変熱心に頑張っていますよ。ただ……」

「さっそく何かやらかしました?」

「いえ、やらかしてはいません。むしろ優秀です。タニスは性格に難はあれど、もともと器用で頭も良いですから、技能的にはすでに使用人として採用できるレベルに達しています。座学も進んでいます」

「座学? メイドに座学があるのですか?」

「礼儀作法の教本や流行小説を読んで学ぶよう薦めました。タニスは学習能力が高いので、身の振り方を知識として学ばせています」

「流行小説は何のためです?」

「人間の価値観を学ぶためです。いちいち注意をしていてはきりがないですから、根本的な部分を知識として理解させるべきと思いました」

「なるほど。非常識な言動をしないように常識を養っているわけですか。流行小説なら会話の話題としても役立ちそうですから良い案ですね」

「ただ、タニスの健康が心配です」

「健康?」


 ブリギッドは首を傾げた。

 魔道士は不死者(アンデッド)である。

 健康などほぼ気遣う必要はない。


「タニスは昼はメイドとして研鑽を積み、夜は座学を進め、睡眠を一切とっていないのです」

「ええっ?!」


 不死者(アンデッド)は睡眠によりエーテルを回復する。

 活動しているだけでエーテルは消費されているので回復は必要だ。

 人間ほどの睡眠量は必要ではないが、エーテルを養うために睡眠時間の確保は重要であった。


「タニスは不眠不休で、濃縮ロゼリアを流し込んでエーテルの回復をしながら修行に励んでいます。いずれ健康に害をおよぼすでしょう」

「濃縮ロゼリア?! ……なんですかその凄く不味そうなものは……?」


 ロゼリアは微量のエーテル回復効果がある植物だ。

 その花は見た目も色も美しく、香りも甘やかで素晴らしい。

 しかしその味は植物の苦味と渋味が非常に強く、とてもそのままで口にできるようなものではない。

 ロゼリアは香りづけに少量が使われたり、他の口当たりの良い茶葉とブレンドして飲まれたりしている植物なのだ。


 そのロゼリアを濃縮するとなると、地獄のような味が想像された。


「名前の通りの飲み物です。少し味見させてもらいましたが、とても飲める代物ではありません」

「それをタニス氏は飲んでるんですか」

「エーテル回復のために毎日大量に飲んでいます。水筒に入れて持ち歩いていますよ」

「うわー……その水筒怖いですね……」


 地獄の味を想像したのか、ブリギッドは苦虫を盛大に噛み潰したかのように顔を歪めた。


「タニス氏は人馬宮の生まれだから、気が向いたときの集中力と熱中度が狂気なんですよね」

「ああ、やっぱり、タニスって人馬宮だったんですね」

「そうです。十二宮で一番口が悪い星座です」


 ブリギッドは肩をすぼめた。






「ただいま!」


 赤毛の魔女ヘカテが生き生きとした笑顔で部屋に戻って来た。

 その様子にブリギッドもハーミアも面食らった。


 七つ星魔道士が緊急招集された会議にヘカテは出席していたのだ。

 それは火急の重大事件が起こったという事で、厄介な問題の対処にヘカテの不機嫌が予想されていた。

 しかしヘカテはとても上機嫌で、今にもスキップしはじめそうな軽い足取りで帰って来た。


「朗報よ!」


 ヘカテはソファに身を投げ出すように座ると、うきうきと話し始めた。


「ミカヤがやらかしたのよ」

「えっ!」

「……!」


 ブリギッドは嬉しい驚きに声を上げた。

 ハーミアは無言であったが、明らかな喜色を浮かべた。


「本当ですか?!」

「本当よ。『弟子が勝手にやったこと』って言って関与を否定してるけど」


 ヘカテは話したくて仕方ないようで、うきうきと語り始めた。


「あいつ『天使の光』っていう勉強会と称した小遣い稼ぎやっていたでしょう?」

「汚らわしきヤルダバウト教徒の集金会ですね」

「それで祝福を与えた品を売ってたらしいの」


「はぁいぃぃ?! 祝福ぅ?!」


 普段は礼儀正しく振る舞うブリギッドが、本性を現したような声をあげた。


「あいつ呪術は出来ませんよね? 祝福が失敗して呪いにでもなりましたか?」


 祝福の効果は呪いの対極にあるが、根源は同じ呪力(アストラル)である。


 才能がなければ発動しない魔力(エーテル)と違い、呪力(アストラル)は差はあれど誰でも発動させる事ができる。

 しかしそれを誰もが使いこなせるかといえば、否である。


 魔力(エーテル)は発動さえできればほぼ望む形に使うことができるが、呪力(アストラル)は発動こそ容易だが望む形に使いこなすのは魔力(エーテル)より遥かに難易度が高い。


「それがね!」


 魔道士ギルドにおいて呪術の第一人者であるヘカテは、楽しそうに解説した。


魔力(エーテル)で祝福モドキをやってたらしいの」

「無理でしょう!」

「そう、無理よ。ミカヤがやってたのは祝福じゃなくて催眠や魅了に近い魔術。その魔術を施した品を人間に売っていたの。それも一つや二つじゃなくて、結構な数があるらしいわ」

「これは条約違反が期待されますね!」

「もちろん条約違反よ。でもそれだけじゃないの。『天使の光』の商品の購入者が、例の人間を使った呪物も所有していたらしいの」

「え、じゃあ、そいつが真犯人ですか?! 殺人犯?!」

「いいえ。購入者は呪いの被害者らしいわ。それで吸血鬼ギルドは、呪物に『天使の光』の関与を疑ってミカヤに出頭を命じているの。今夜あちらで査問会が開かれるわ」


「お祝いせねば!」


 ブリギッドが大いに浮かれてそう言うと、大人しく控えているハーミアも珍しく悪い笑顔を浮かべてそれに同調した。


「急ぎ、祝賀会のご用意をいたします。招待状の手配もお任せください」

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